昨年の11月28日付のピアノの話22で銅巻き線の張弦に付いて述べました。そこでは写真を添付しておらず、言葉だけの説明に終始しました。されどその説明は細に亘り詳しく述べられていると思います。今回写真は撮れましたが、前回の解説との重複は避けたいので、今回は写真を基に捲き方のみをご説明致します。詳細に付いては、ピアノの話22もご参考までにお読みください。
切れたのは23Gの二本弦の内の右弦、数日前、その断線した巻き線を部品メーカーに送り新たな巻き線を作って(捲いて)貰いました。そしてこの日、それを携え張弦をするためにお客様を訪ねました。
@対象のピアノと新しい巻き線

上前板、鍵盤蓋、下前板を外し、さらにアクションを外したピアノ。全弦がむき出しになり、23Gの右弦がチュウニングピン巻口から上部ベアリングの位置まで残骸として残り、そのベアリングの位置で切れているのが分かる。古い弦は部品メーカーが処分するのが通例で最早ないが、鍵盤の上には新しい弦が置いてある。
A残骸の弦を外す

ニッパーで弦の端緒を挟み、コイルとなっている捲き口を回し戻しチュウニングピンから外す。外したらチュウニングハンマーをチュウニングピンに差し込み、チュウニングピンを三回転回し戻して置く。何故なら、弦は三回転巻きだから、新たに巻く場合は三回転戻さなければチュウニングピンは元の正しい位置には収まらない。
先ずは銅巻き線の一方の端緒の玉(輪)をヒッチピンにはめ込んで置く。
Bワイヤーカッターで余分な弦を切り落とす

銅巻き線は一方の端緒が玉(輪)でこちらが鉄骨のヒッチピンに取り付けられる、もう一方の端緒はチュウニングピンに三回転のコイルにして捲かれる。元々、チュウニングピン側はコイルの分とピアノによってチュウニングピンと上部ベアリング間の長さがまちまちであるため、余分に長目に作ってある。従って正しく必要な弦の長さを得るため余分な弦を切り落とす必要がある。この際、三回転のコイルを作る分を加算して断つ。その長さは一定だが、それを得る目安は技術者によって異なり様々である。私の目安は小指、薬指、中指、人差し指の四本分の幅の長さで、まず左手の親指とその他の指で弦を挟み持ち、ベアリングピンに掛け、チュウニングピンに小指を置き、そのままの格好で、上部の人差し指の最上部に当たる弦の一点をワイヤーカッターで断つ。写真は自演自撮で左手はカメラに持ち替えた為、弦を放した格好だが、本来は左手でしっかり弦を挟み込んでいる。
C三回転のコイルに捲く

チュウニングピン内のホール(弦通し穴)に下から弦の端緒を指し込み、ホール上部からはみ出ない程度に留める。但し差し込みが足りないと爪が小さく、何かの拍子で外れる可能性がある。必ず最奥部まで差し込む。
左手人差し指でしっかりチュウニングピンと弦の接点付近を押さえ、チュウニングハンマーを右回転で回す。ガクッと半月状に弦が曲げられるがこれが爪である。これがしっかり出来ていれば弦のチュウニングピンからの脱落はない。
更に回転させると三回転のコイルが出来上がり、その上更に回転させれば弦は固く張って来る。コイル作りで重要なのは回転させながら順次弦を緩やかに隙間なく奥に送り込む事である。弦を重ねさせたり、手前に送ったりでは良いコイルは出来ない。
D銅巻き線を捩じる

銅巻き線を雑音の無いより安定した音鳴りにするには芯線(銅巻き線の芯になる鋼鉄線)と軟銅線の密着が必要となってくる。従って軟銅線の巻き方向と同方向に一回転ほど捩じる。このピアノ(巻き線)は右回転。
一旦弦を緩め、玉をヒッチピンから外し、ドライバーを玉に挿して弦を捩じり、そのまま元のヒッチピンに戻す。同時に駒ピンにも弦を掛けて置く。
Eかき上げ

コイルをかきあげながらチュウニングハンマーで弦をある程度強めの張り加減にする。コイルが密着し美しい三重コイルとなる。
F爪の処理

出っ張った爪をチュウニングピン内ホールに押し込み密着をさせる。
G弦のベアリング、ヒッチピン、駒ピンへの密着

調律の狂いや雑音の防止、さらによりよい音鳴りの実現に各接点部の密着は絶対に欠かせない。張弦をする者は肝に銘じて欲しい。
Hかき下げ

これが美し張弦の証。コイルの最前列がピンホールの半分を覆う位置に整える。
最後に調律をして完成。アフターサービスは頻繁に念入りに。