2013年06月20日

ピアノ曲を聴きましょう5 “灰色の真珠” インテルメッツォ(間奏曲)ロ短調 OP119-1 ブラームス

 ブラームスの作曲したピアノ曲は、最初期にはピアノソナタ、そしてその少し後にピアノ変奏曲が続きます。しかしそれ以降は、ソナタはもとより変奏曲すら作らなくなります。ロマン派の時代、ピアノで表現するにはソナタ形式は、余りにも窮屈な形式になりました。ショパン3曲、シューマン3曲、リスト1曲、そしてブラームスには3曲のピアノソナタがありますが、このソナタ形式の達人・ブラームスでさえも、若年の内に早々とピアノソナタから足を洗ってしまったのです。

 それでは、ロマン派のピアノの詩人達は、一体何に活路を見出したのでしょうか? そうです、もっと自由にロマンの幻想の翼を広げられる、ピアノの小品を選んだのです。数分(1分もあり)から10分足らずのピアノ小品、彼らはそこに、ロマンの精神の全てを注ぎ込んだのです。ショパンはエチュード、ノクターン、バラード、ポロネーズ、マズルカ、ワルツ、アムプロンプチュなど、シューマンは「クライスレリアーナ(8曲の幻想曲)」、「子供の情景(13曲の小品)」、「交響練習曲(主題と11の変奏曲風エチュード)」、「ダヴィッド同盟舞曲集」など、リストは「巡礼の年(年報)(全4巻26曲)」など、そしてブラームスは、晩年のピアノ小品(全20曲の小品)で…。

 20曲あるピアノ小品は、ブラームス晩年の心境を綴ったメランコリー漂う作品群です。そのピアノ音からは、故郷、自然、愛、追憶、哀悼、寂寥、信頼、情熱、希望、諦観等の言葉が閃きます。じっくりと何度でも繰り返し聴く音楽。何度も聴いている内に、喜び、悲しみ、楽しみ、怒り、悼みが観えてきます。そして人を見詰め、未来を見詰めるブラームスが観えて来るのです。ブラームスの音楽は優しい、確かにエンタテイメント(娯楽性)では、先の先輩諸氏に敵わないかも知れません、が、その人を見詰める優しさでは、誰一人敵う者はいないでしょう。ブラームスは、何ものにも流されない意志の確かな、人生の価値を語る音楽です。

 このロ短調OP119-1は、彼の盟友・クララ・シューマンが「灰色の真珠」と称えた曲です。どんなに硬質(硬派)の音楽を書いたとは言え、ブラームスはやはりロマン派(主義)…、ピアノの一音一音に甘い感触があります。クララはそれを目敏く見出し、曲評を問われた時に、「灰色の真珠」とブラームスに告げたのでした。灰色、ブラームスらしい色…。その灰色の粒の中に、私は人の愛が観えます。

 演奏者は、やはりドイツの名ピアニスト・ウィルヘルム・ケンプ(1895-1991)の右に出る者はいないでしょう。兎に角、この曲に対する愛着が素晴らしい…。愛して愛して尚も愛する、徹底的な研鑽の上に成り立った楽曲解釈を達成しています。「ブラームスだってこう弾いたであろう…」と私は確信しています。
 
posted by 三上和伸 at 22:50| ピアノ曲を聴きましょう | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする