私のお客様が”大田区ハイドン室内管弦楽団”の第2ヴァイオリンを担当されているご縁で、今日このオーケストラの第55回定期演奏会並びに創立30周年記念演奏会を聴いてきました。
曲目はハイドンオーケストラの名として当然ながら、前半はハイドンのロンドンシンフォニーでした。そして後半はモーツァルトの”歌劇フィガロの結婚”と”歌劇ドンジョバンニ”の序曲と数曲のアリアなど演奏されました。
「ウィーン古典派第1位のハイドン」と言ってしまえば、現代では突飛と想われるかも知れませんが、当時ではそれが当たり前でして、モーツアルトやベートーヴェンよりも人気が高く、第一人者と呼ばれていたのです。
そのハイドンが作った最後のシンフォニーがロンドンで、パトロンの”エステルハージ候(有力貴族)”が死んだ後、無職となったハイドンがロンドンで出稼ぎした事がこの曲を書く切っ掛けでした。当時としては大ヒット作で、ロンドンでもウィーンでも盛んに演奏され、楽譜も売れたそうです。
ハイドンと言えば”健やか”、モーツアルトのような”不健康さ”がありません。誰が聴いてもスカッと爽やか、春の風のような音楽です。御多分に漏れずこのロンドンも健康そのもので、当時の音楽に期待されるスッキリとして気持ち好い娯楽趣味が横溢した名曲でした。
モーツアルトのオペラと言えば、男女のアッチの話が常套です。好色一代男がいて女性を口説いて我が物にしようとする話ばかり、嘗てヨハンシュトラウス2世の項でもお話しましたが、下世話な色恋話が多いのです。これも大衆が求める需要であって供給者(モーツァルト)の責任?ではありません。こんな詰まらぬ話でもモーツアルトは音楽として飛び切りの傑作としてしまいます。フィガロの結婚、もう序曲からして誰も書けない曲、このインスピレーションは何処から来るのでしょうか? 正に音楽の神(悪魔)から魅入られた楽人、モーツァルトは最初で最後の作曲家です。
今回のフィガロの結婚は本当に素敵でした。フィガロが歌うアリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」、バリトンの原田勇雅(ゆうや)さんが軽く歌って好い感じでした。伯爵夫人(メゾソプラノの杉山由紀さん)とスザンナ(ソプラノの高原亜希子さん)が歌う「手紙の二重唱」は女声二重唱と言う事もあって、私の好みでした。ソプラノの高原さん、自然な発声で澱みの無い透明な声、大好きになりました。
最後にアンコールのアヴェマリア。何とこれは指揮者の井上さんが作曲したもの。数多の名曲に使われたアヴェマリアの原典の詩に井上さんがメロディーを乗せました。鳴り止まぬ拍手喝采がこの曲の美しさを証明しました。舞台と客席から立ち去る者はいませんでした。演奏者と客席が一体となりました。好い時間、好いコンサートでした。
*指揮者、歌手、コンサートミストレス(女性のマスター)の吉原葉子さん以外は、アマチュアオーケストラの楽団員です。それでも良く訓練されており、見事なアンサンブルを提供なさいます。今回もアマチュアながらの熱意が感じられました。