ブラームスには作品番号の付いた室内楽作品は全部で24曲あります。勿論、ハイドンやモーツァルトに比べればものの数ではありませんが、どれを採っても優れた作品ばかりであり、その全作品は現代でも頻繁に演奏会に取り上げられています。全く駄作は無く、各曲が個性的であり、恐らく完全無欠の作品群と申しても異論は無いでしょう。聴く側にとっての難点は交響曲同様に娯楽性が少ない事、聴衆に阿らない(おもねらない)ブラームスの、その堅い鰹節のような音楽、ジックリ噛み込んで、その濃厚な妙味を味わいましょう。歯が悪くてはブラームスは聴けません?。
管楽器を使用した室内楽は全部で5曲あります。それはクラリネットに偏っていて、クラリネットの室内楽は4曲もあります。即ち、残りの一曲が金管楽器のホルンを使ったもので、このホルン三重奏曲変ホ長調Op40です。フルートもオーボェもファゴットもトランペットもありません。ブラームスはモーツァルトのような遊び心が無かったのかも知れません。まあ、私のブラームス感から申せば、自然愛好者でロマンチスト更に感傷的なブラームスですから、フルートの巨匠性やオーボェのハイテンション、ファゴットのコミカル性やトランペットの饒舌性は不向きと思われます。内向的な正直者のブラームスには、ホルンとクラリネットが適宜と思われます。因みに弦楽器ではチェロとヴィオラが最適です。願わくばブラームスに、チェロとヴィオラ、そしてクラリネットとホルンの協奏曲を書いて欲しかったですね。世界中の今申した楽器の名演奏家達がつくづく言っています。「ブラームスに私の楽器のコンチェルトを書いて欲しかった」。因みにそう言った各楽器の稀代の名プレーヤーを紹介しておきます。ヤーノシュ・シュタルケル(チェロ)、ユーリー・バシュメット(ヴィオラ)、レオポルト・ウラッハ(クラリネット)、リヒャルト・ミュールフェルト(クラリネット)。
発想は1857年から勤務していたデトモルト時代に遡ります。デトモルト宮廷にあったオーケストラのホルン奏者アウグスト・コルデスと知り合った事から始まります。ブラームスはそこでコルデスの吹くホルンの音色に魅了され、何時かホルンを使った曲を書いてみたいと念じ、原案を認めていました。但し、この時期に発表されたホルンを使った曲は、Op17の女性三部合唱で、二本のホルンとハープの伴奏の珍しい、しかし美しい合唱曲でした。
そしてその後の1865年に、念願だったホルンを使った室内楽が誕生しました。それはホルン三重奏曲変ホ長調Op40でした。ここで使われたホルンは何と、現代のオーケストラで使われているヴァルブホルン(有弁ホルン、フレンチホルン・ウィンナーホルン)では無く、ブラームスは無弁のナチュラルホルンを指定しました。ブラームスとはこう言う男、音楽界の誰もが喝采した新しく発明されたヴァルブ付きのホルンには背を向け、依り自然な音色が出るナチュラル(無弁)ホルンを選んだのでした。無弁ホルンは、倍音系の音以外はホルンの朝顔(広がった部分)を手で押さえ、その開閉で、音階の全ての音を出す事が可能です。ブラームスは音楽界に小さいけれど新たな提言をしたのでした。尚、現代では滅多に無弁ホルンは使われていません。
楽器編成、ホルン、ヴァイオリン、ピアノ
第1楽章
1部(A部)ーアンダンテ、変ホ長調、2/4拍子 2部(B部)ーポーコ・ピウ・アニマート(少し、だんだん強く、活気を持って)、ト短調、9/8拍子。
以上の部分の複合二部形式。冒頭の楽章にソナタ形式を使わない特異な楽章の並びを持ちます。これはバロック時代の教会ソナタの楽章配置と言われています。先の二つの部分を、ABABABの形で並べています。長閑な田園の趣があります。美しい自然に心時めいて...、貴女を想って…、物思いに耽って…。極めてロマンティックな楽章です。
第2楽章
スケルツォ、アレグロ、変ホ長調、3/4拍子、複合三部形式。
草原で踊り狂う活発な諧謔曲、されど中間部はポコッと穴が抜けたようにそこに湖が現れます。センチメンタルな風が渡ります。
第3楽章
アダージョ・メスト、変ホ短調、三部形式、6/8拍子。
アダージョ、ゆったりとしたピアノのリズムに乗ってホルンとヴァイオリンが呼応しながら歌って行きます。メスト、それは悲し気なメロディー。母の死へのレクイエムのよう…。母への感謝が溢れて…。
第4楽章
フィナーレ。アレグロ・コン・ブリオ、変ホ長調、6/8拍子、ソナタ形式。
ここで初めてソナタ形式が現れます。第3楽章の悲しみは忘れてホルンが奔放に爆発します。生き生きとした生命力に溢れます。