ピアノ協奏曲第1番の作曲、そして芳しくないこの曲の評判、デトモルトでの公職もあり、ブラームスは多忙により、焦燥を極めていました。その上アガーテとの失恋もあり、ブラームスは失意のどん底にいました。それでも天才の創作意欲は衰えず、管弦楽用セレナード2曲、弦楽六重奏1番や多くの合唱曲を書きました。そんな合唱曲の中にあって、作品17の女声合唱曲は特異な存在であり、不思議な光彩を放っていました。
デトモルト勤務中に、ある女声合唱団(後のハンブルク女声合唱団)と親しくなり、指揮者として就任し、指導を授けました。始めは素人集団でしたので、ブラームスは無給で、面倒を看たそうです。そんな中、当然レパートリーにする曲が必要となり、作品17の女声合唱曲集が生まれました。ところがこの曲は独特のもので、何と伴奏が2本のホルンと、1台のハープに依るものでした。悲しい曲集ながら、牧歌的な趣が濃厚で、北ヨーロッパの冷涼な空気に満ちています。何故ホルンかと言えば、デトモルト滞在中にホルン奏者のアウグスト・コルデスと親しくなったからであり、後年、ブラームスはコルデスのために、名作・ホルン三重奏を書いています。
このハンブルク女声合唱団の中に、後にウィーンで結婚したベルタ・ファーバーがいました。ブラームスとファーバー家は親しく付き合うようになり、ベルタの第一子誕生の折りには、ブラームスは、有名なブラームスの子守り歌(揺り籠の歌)をベルタにプレゼントしたのでした。
「高らかにハープの音がひびく」 フリードリヒ・ルペルテイ詩
高らかにハープの音がひびく、
愛とあこがれをかきたてながら、
その音は奥深くしみ入って心をかき乱し、
眼に涙をわき出させる。
おお、ひたすら流れ落ちるがいい、涙よ、
おお、おののいて高鳴るがいい、心よ!
愛としあわせとは墓場に埋もれた、
私の生命は失われてしまった!
冷涼な空気感の中、ハープが細かくアルペジオを掻き鳴らし、2本のホルンが伸びやかに歌います。そこに女声合唱が、優しい宗教色を滲ませて、切なく歌ってくれます。北国の透き通った響きが胸に染み入ります。
コルデスのホルンが如何に素晴らしい音であったか、しみじみと伺えます。
演奏
モンテヴェルディ合唱団
指揮:ジョン・エリオット・ガーディナー