私流に決めさせてもらえば、前回の作品57までがブラームス歌曲の初期で、今回の作品58からは中期となります。青春期の恋の歌が多かった初期に比べ、次第に大人びた歌が多くなり、自然への憧れが増して来ています。そして人生を模索する歌や過去を追憶する歌なども多くなります。ブラームスの歌曲は、取り立てて聴き手を覚醒させる表現は少なく、詩のままに自然と歌いだされた歌曲です。目立ちませんが、その地味な音の流れの中にブラームスならではの優しい心が揺蕩って(たゆたって)います。襞の細かい、微妙な感情の表現がなされた奥床しい歌曲たちです。今後、傑作歌曲が次々と現れます。
「目隠し鬼」 詩:イタリア民謡(アウグスト・コピッシュ独訳)
真っ暗の中を探しに行く、
ねえきみ、どこに隠れているの。
ああ、ぼくをじりじりさせようとして、
あの娘はいつも隠れているんだ。
真っ暗闇の中を探しに行く、
ねえきみ、どこに隠れているの。
隠れ場所が見付からないから、
ぼくはぐるぐる迷っているんだ。
きみのために死ぬものは、
不安でしかたがないんだ!
ねえきみ、かわいそうに思って、
こっちへ来てくれたまえ!
つれない娘の思わせ振りに翻弄される少年、鬼ごっこに擬えて、少年の困惑ぶりを表現しています。若さゆえの迷い、私も思い当たる節があります。老齢の身となっては面映ゆい出来事、そんな娘は直ぐに忘れ去ってしまえばいいのに…。でもそれが出来ないのは、恋に初心だからですね。その初心な心、もう忘れてしまいましたが、素敵な宝物ですね。
シチリア島の民謡が素で、イタリア語をドイツ語に訳されたテキストを使っています。1871年にバーデン・バーデンで作曲された作品58の第1曲です。忙しないリズムが、鬼ごっこの雰囲気を醸しています。ぐるぐると回されて、翻弄される少年の心理を表しています。