2009年01月08日

音楽の話2 日本ブラームス協会編 「ブラームスの実像」を読んで 

 一昨日より読み始めた本の一番目の感想文を投稿します。よかったらお読みください。

 第一章 交響曲第一番ハ短調ウィーン初演評 E・ハンスリック著 1876.12.17 
 ブラームスが長い年月を掛け、渾身の力を振絞って書いた第一交響曲はカールスルーエ(ドイツ南部の都市)で最初の初演?がなされました。それは恐らくこの交響曲の試運転の様なもので、ブラームスはその後の大都市での初演を前にして“出来”や“評判”を確かめておきたかったようです。そしてマンハイム、ミュンヘンで好評を博し、いよいよ音楽の都ウィーンでの初演に漕ぎ着けました。1876年12月17日、ブラームスの交響曲第一番はウィーン楽友協会大ホールに轟き渡り、ウィーンの聴衆に深い感銘を与えたのでした。この時、この曲の論評をしたのがウィーン音楽評論界のドン(首領)、エドワルド・ハンスリックでした。
 
 今まで私は、数少ないブラームスを著した書物を読み漁ってきました。ところがハンスリックのウィーン初演評はまだ読んだ事がなく、一度読みたいと願っていたところでした。昨年の暮、横浜中央図書館でその論評の入ったこの書物を見つけ、正月休みに読もうと思い借りて置いたのです。一昨日より第一交響曲の項を読み始め、今その感想を述べたいと思います。 

 ハンスリックはその権威ある存在に拘わらず依姑贔屓が過ぎると言われており、ブラームスを擁護し、ワーグナーを扱き下ろす立場をとってきました。ワーグナーとその一派からは目の敵にされ、ワーグナーの楽劇「ニュルンベルグの名歌手」の中の敵役、哀れな役人ベックメッサーのモデルとして名指しされています。またブラームスはこの偏狭のハンスリックに対し一定の距離を置いて接していたようです。後年、ブラームスは「支持してくれるのは有り難いが、彼は俺の本当の姿を全然分かってはいない」と述べたそうです。しかし私はこの論評を読んでハンスリックは大方のところではブラームスを理解していたように思われました。

 『楽界全体が、これほどまでに切なる思いで、一人の作曲家の最初の交響曲を待ち望んでいたというのも、ほとんど例のないことだ。これはとりもなおさず、ブラームスがとてつもなく高度で、しかも複雑な形式を用い、飛び抜けた作品が書けると信じられていたことを、はっきり物語っている。』の冒頭で始まる論評では、彼はブラームスの交響曲を作曲する上での妥協のない厳しさと一般受けを狙わない正直さ故にこの曲が直ぐには理解されないが、後々繰り返し聴けば解って来る筈であると説いています。それは私も全く同感で、私もレコード及びCDで何千回もこのブラームスの曲を聴いてきた人間で、今ようやくブラームスの全貌が見えてきたところです。またハンスリックはベートーヴェンを引き合いに出し、ブラームスこそは、ベートーヴェンの後期(第九やミサ・ソレムニス、ピアノソナタ第二十八番以降、弦楽四重奏曲第十二番以降などを書いた時期)に最も近づいた人であると述べます。そして『ベートーヴェンの音楽の主たる特質の一つは、相手(聴衆)を魅了するよりも、心服させるという倫理的要素であると言われている。正にこれが、彼自身の音楽と全ての”娯楽的音楽”とを明確に区別するものだが、だからと言って後者が芸術的に無価値だと言うのではない。ベートーヴェンのこの倫理的性格は陽気ななかにも真摯な心を失わず、永遠なる神に捧げた魂をもあらわに見せているが、これはまたブラームスのなかにもはっきりと見出されるのである。』と説くのです。然るにこれだけブラームスを理解しているにもかわらず、何故前述したブラームスの『ハンスリックは俺をまるで解っていない』になるのでしょうか。それは以下の叙述にその理由が決定的に現われていると思います。『ベートーヴェンの様式は、彼の人生が終わりに近づくにつれ、しばしば不透明で乱雑、そして独断的になり、彼の内面は悩める気質の中に埋没していった。』、及び『ブラームスは、感性の美しさを犠牲にしてまでも偉大なもの、厳粛なるもの、重々しいもの、あるいは複雑なものをいささか好み過ぎるようである』に答えがあると思います。ブラームスはそう言った外形的なものに拘ったのではなく、己の思い、己の思想に正直であり、それを音に忠実に具現した結果、偉大なもの、厳粛なるもの、重々しいもの、複雑なものになったのです。その根本の思想は愛(博愛)であり、希望(生きる…)であり、信仰(信頼)です。ハンスリックはブラームスのそこが解らなかったのです。真の芸術家は美しく立派なものを書こうとはしますが、それが目的ではなく、人生の真理の表現を目指しているのです。ベートーヴェンしかり、ブラームスしかりです。
posted by 三上和伸 at 23:55| 今宵の名曲・音楽の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする