2009年03月14日

音楽の話5 第252回神奈フイル定期を聴いて 2009.3.13

 昨夜、私は久し振りでオーケストラの演奏会を聴きに行きました。それは神奈川フィルハーモニーの252回目の定期公演で、ハンス=マルティン・シュナイト指揮のブラームス、ブルックナーの合唱作品がプログラムでした。
 シュナイトはドイツの指揮者で長くミュンヘン・バッハ合唱団・管弦楽団の音楽監督を務めた巨匠です。その芸域は広く、宗教曲からオペラ、更に交響作品までに及びます。楽曲への深い理解を基に見事な統率力を発揮し、幾多の名演奏をものにしてきました。この日のブラ−ムスも流石に長い経歴を物語り、優れた解釈を施していました。ただ78歳と高齢であり、足も悪そうでステージで何時つまずいて転ばれるかと心配で、冷や冷やして見ていました。しかしご本人は至ってご機嫌であり、ヨチヨチとゆっくり歩かれて、聴衆の微笑を誘っていました。
 冒頭に演奏されたのはブラームスの「悲劇的序曲」であり、この戦争の悲惨を表した名曲を強い緊張感で演奏し、私に曲の正しい姿を見せて(聴かせて)くれました。しかもテンポは非常に緩く、よく歌わせ、それは難しい試みで驚きでしたが、少しの乱れなくオーケストラを統率し続けたのは老練の技と思われ感心しました。
 二曲目はオーケストラと合唱の作品「哀悼の歌」が選ばれました。実はこの作品は私の愛する曲で、この日のプログラムの中では最も楽しみにしてきたものです。これはシラーの詩に依る死する者への哀れみが歌われます。「美しい者、愛する者も死ななくてはならない」、このシラーの美しい詩に託してブラームス自身の芸術のテーマ・無常観を表したものと言えます。友人の画家フォイエルバッハの死がきっかけで作られた曲で、その死を悼みその遺業を称え、その母に慰めを捧げる目的で書かれた曲と伝えられています。
 演奏はブラームスが憧れていた南欧の香り高い美しい響きで、大方のところは良かったと思いました。しかしこの日の最初の合唱作品だった事で、いま一つ合唱が乗らず不明瞭だったと思われます。良い演奏とは作品の姿形、作者の感情や思想が明瞭に聴き手に伝わる演奏です。そう規定すれば少し不満の残る出来栄えと思いました。真の感動には届かなかったと思います。
 三曲目は同じブラームスの合唱作品「運命の歌」でした。こちらはこの日一番の出来だったようで、私は感動しました。人間の悲しい運命を表したヘルダーリンの詩に歌を付けた曲で、そこにブラームスの戦争と平和への思いが籠められています。従って言える事はこのブラームスの音楽は音響(娯楽)で魅せるものではなくて、心の美しさ優しさの思想・情念で問う音楽だと言う事です。理論の焦点の一点を激しく目指すアンサンブルでこそ、この曲の真の姿が見えて来るのです。そんな表現の理想がこの日の演奏にあった気がしました。優れたコンサートだったと思います。
 
posted by 三上和伸 at 10:09| ☔| 今宵の名曲・音楽の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする