2010年07月04日

自然通信37 鎌倉の貴婦人・岩煙草 東慶寺 2006.06.19

 私は二千六年に東慶寺を訪れ岩煙草の美しさに魅せられ自然通信を作りました。その時の感動を今一度味わいたくて、私は今日再び四年越しに訪れたのでした。しかし時期的には最早遅く盛りを逃し、それは私の入院騒ぎが原因にあり、その時行きたくても行けなかったのでした。それでも明月院の紫陽花や稲村ケ崎の崖に咲く野生の透かし百合を観るついでとして、一縷の望みを胸に抱きこの寺に詣でました。

 岩煙草はもう疾うに花時は終わっており、極々僅かに名残の花が申し訳なさそうに咲いていました。しかしそれは数輪の花でしたが瑞々しい艶を魅せて愛らしく花弁を綻ばせており、私は気に入りました。この写真ならあの四年前の自然通信を再び蘇らせると狂喜し、自信を持ってここに掲載する運びとなりました。

自然通信37 鎌倉の貴婦人・岩煙草(イワタバコ) 東慶寺 2006.06.19
イワタバコ 
 鎌倉は一方が海、三方は山に囲まれた自然の要害の地にあり、故に中世の一時代、政の都として栄華を極めました。そしてさらにこの地形は自然の保守にも都合よく、奈良や京都と同様に自然と生活が溶け合って優れた文化を育み、由緒正しい伝統が保持されてきたのです。江戸のように四方が開けた都では、やがて時代と共に狂乱の開発が席巻し高層ビルが乱立し、残念ながら昔日の面影は消え失せてしまったのです。
 鎌倉駅を過ぎ、若宮大路に佇めば山は緑に萌えており、その上はもう大空しか見えません。誠に長閑な清々しい風景を魅せています。そしていざ軽やかに歩きだせば散歩道は縦横に連なり、四季折々の花が出迎えてくれます。また周辺の山野には幾つかのハイキングコースもあり、手軽な自然探勝ができます。休日の一日を鎌倉散歩に費やせば、思いがけない発見もあり心身のリフレッシュにもなり、明日への希望も湧いてくると言うものです。
 山と海の都鎌倉では、往時少ない平地を補うために山を垂直に切り崩し敷地や道路にしました。それは現在でも神社仏閣の境内や切通と呼ばれる街道に残されています。それから歳月は流れ、やがてこの垂直の崖には鎌倉の自然の豊かさを証明する驚くべき生命が宿るのです。それは地下水の滴る湿った岩壁を棲家とする野草であり、青く艶めかしい葉の上に紅紫色の妖艶な花を咲かせます。この花こそ岩煙草であり、彼の鎌倉武者の妻の如く美しい鎌倉の名花です。一歩下がってかしずいて、貴婦人は艶やかに微笑みました。遠い古の夢の世界へ私を誘うかのように…。
posted by 三上和伸 at 21:55| 自然通信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする