2010年07月26日

音楽の話21 モーツァルト「キラキラ星変奏曲」K.265

 この曲の成立には諸説ありますが、言い伝えの一つとしては、1778年、モーツァルト二十二歳の時に作曲されたものだと言われています。パリ滞在の折に当時流行っていたシャンソン「ああ、お母さん聞いて」を主題にして作られました。それも自分の演奏会用のレパートリーとしてだけでなく、この当時のパリのピアノのお弟子さん用にも考えられた曲でした。何とモーツァルトは弟子思いの良い先生だったのですね。しかもこんな名曲を…、天才の無限の創造力を感じない訳にはいきませんね。

 因みにその他の曲の成立にまつわる話では、1781〜82年のウィーン進出後の、モーツァルト二十五歳の頃の作だとの説もあります。このシャンソンはその当時ウィーンでも流行しており、これをテーマとして自分の弟子たちのために書いたとも言われています。

 ところで「キラキラ星変奏曲」の名は後世に付けられたもので、モーツァルトの生前には「トゥインクル、トゥインクル、トゥインクルスター」と歌いだされるキラキラ星の詩は存在していませんでした。ですから本来のこの曲の名は「ああ、お母さん聞いて」の主題による12の変奏曲 ハ長調 K.265です。私が馴染んだこのメロディーと言えばエイ・ビー・シー・ディー・イー・エフ・ジーと歌われるABCの歌としてのものです。聴けば思わず「エイビーシーディー」と歌い出してしまいます。

 *主題 単純明快で楽しげな主題、何だか嬉しくて歌い出したくなります。

 *第一変奏 さあ、始まるよ!とでも言っているよう…、滑らかにスピードを上げ、快活で生き生きとしています。

 *第二変奏 右手がとても力強くなってきました。左手は忙しなく動いています。楽しくて元気一杯と言う感じ。ご機嫌です。

 *第三変奏 ジャンプした歌い回しとトリルが小気味よくシャープです。日本的に言えばこぶしがきいている? 気持ちいい!

 *第四変奏 益々元気、右手のメロディーが官能的に響きます。正にピアノならではの美音です。  

 *第五変奏 一寸おどけて囁くようで思わせ振りな表情、不思議な感覚でお喋りしているようでもあり、踊っているようでもあります。 

 *第六変奏 元気でユーモラス、イケイケドンドンと言うおどけた感じがいいですね。

 *第七変奏 音階を多用して変化に富んでいます。ジェットコースターに乗っている感じ、目まぐるしくて爽快です。

 *第八変奏 突然ハ短調になりました。神秘的で謎めいています。過ぎ去った遠くを見詰めているようです。

 *第九変奏 また明るくなりました。皆で輪になって遊ぶ感じ、何かのゲームでもしているのかな?

 *第十変奏 壮麗に重厚に響くピアノ、音が天から降り注いできます。音の洪水に浸りましょう。

 *第十一変奏 これぞモーツァルトと言える纏綿とした情緒、正に天使の歌声、その天国的な美しさに思わず涙ぐんでしまいます。何と言ってもこの変奏曲の白眉です。

 *第十二変奏 元気に華やかに終曲を迎えました。どうだった?楽しかった? 残念だけれどもうお終いだよ、では元気でね、とでも言っているよう…。

 変奏曲とは作者の多様な感情の集合体、娘三上夏子の演奏はこれらの宝石のような感情を様々に弾き分けていました。快活、憂愁、諧謔、優美、官能、そのどれもが優しい音の中にありました。
posted by 三上和伸 at 22:34| 今宵の名曲・音楽の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする