2010年10月11日

音楽の話27 ベートーヴェンのディアべりの主題による三十三の変奏曲 

 ベートーヴェン ディアベリの主題による三十三の変奏曲 ハ長調 作品120
 ウィーンの楽譜出版商のディアベリは、自ら作曲したワルツを主題に五十人の作曲家に五十の変奏曲を書いて貰い出版しようと考えました。そこでディアべリはウィーン在住の五十人の作曲家に自作のワルツの譜を送り付け作曲を依頼をしました。勿論ベートーヴェンもその中の一人でした。当時のベートーヴェンは「第九」や「ミサソレムニス」を抱え超多忙であり、しかも体調も悪化し最初は渋々引き受けたのでした。しかし次第にその作曲にとりつかれ、苦心惨憺の末、最後は巨大な傑作に仕立て上げてしまいました。何がベートーヴェンをそうさせたのか、この変哲もない主題の中に何を見出したのか?、それは曲を探れば自ずと解るもの…。でもそう簡単ではありません、専門家以外では。まあ、素人(愛好者)の私達はじっくりと聴いて感動をする事が大切…。そうすれば三十三曲の内の一つ一つの違いが鮮明となり、そのベートーヴェンの専心の熱意の片鱗位は覗けるでしょう。誤解を恐れず極論すれば、主題はたまたまそこにあったものでさして重要でなく、どんな主題でもその要素をとことん使い回して己の想いを語る事。それが重要であり、それこそが大作曲家の常なる指標です。

 変奏曲とは普通一つの主題の様々な要素を使い曲想を変化させていく音楽形式で、作曲家の創造性や技術力が試されるジャンルです。執拗にテーマの中の旋律・和声・リズムを分解し、そこから余すところなく様々な楽想を引き出し、幾つものそれぞれ異なる曲を作り出すのです。その内、主題の和声を変えず旋律を修飾するだけの変奏を修飾変奏と言い、要素の全てを変容させ、一曲一曲を全く性格の違う曲に変化させる変奏を性格変奏と言います。ベートーヴェンはこの性格変奏の名人だったのです。勿論、このディアべリ変奏曲も性格変奏で書かれた作品で、古今の変奏曲の中でも最高傑作の一つと言われています。

 ところで何故三十三曲かと言えば、そこにはベートーヴェンの強い誇りと決意の表れがあると言われています。それはバッハへの対抗心であり、バッハのゴールドベルク変奏曲への挑戦です。このバッハのゴールドベルク変奏曲は三十ニの変奏を持つ曲であり、ベートーヴェンはどんなに苦労しても一つでも多く書いてバッハを凌駕したかったのです。

 後にドイツ三B(バッハ、ベートーヴェン、ブラームスを指す)を提唱したH・F・ビューローはこの三人の変奏曲の大家の作曲技法の卓越を並び称し称えました。ブラームスもこの性格変奏の大家で二人の先輩に負けない変奏曲を作りました。例えばヘンデル変奏曲やパガニーニ変奏曲などで、更に管弦楽用のハイドン変奏曲もあります。

 ベートーヴェンの音楽は不思議な魅力を持っています。耳が聞こえまいが内臓が弱ろうが、どんなに体調が悪くてもその作り出す響きは透明で清潔で喜悦があります。激しい躍動があり力に溢れた歓喜があり澄み切った祈りもあるのです。そして飽くなき人類への愛と善意に満ち溢れています。己の苦悩を人類の希望に昇華させる強い威力を持っていたのです。そんなベートーヴェンがこの三十三の変奏曲の中にも生きています。三十一変奏の深い祈りのラルゴ、三十二変奏の断固としたフーガ、終曲の典雅なメヌエット。それは正にベートーヴェンが辿り着いた人文音楽の豊饒の沃野であり、また高く巨大な峰です。 
 
posted by 三上和伸 at 23:00| 今宵の名曲・音楽の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする