2013年03月04日

ピアノ曲を聴きましょう1 「子供の情景」Op15 ローベルト・シューマン(1810〜1856)

@楽器の中のピアノ
 演奏するしないは兎も角として、何方でも人それぞれに、楽器の好き嫌いはお有りでしょう。ヴァイオリンの好きな方、チェロが好きな方、木管が好きな方、金管の好きな方、打楽器が好きな方等々、それでもどうもこの楽器は好きでないなとか、あの楽器の音は嫌いだななどと仰る方もおいででしょう。楽器の好みにも個性は付きものですね。私は仕事柄、当然ピアノが大好きで、一番と言って良いでしょう。鍵盤楽器では他にチェンバロ、クラビコード、チェレスタ、オルガン(パイプ及びリード)、アコーディオン等がありますが、やはりピアノが最高です。何しろピアノは響きがロマンチックですものね、ピアノほどロマンチックを表現するのに適した楽器は他にないと言えるでしょう。たとい一音でも鳴れば、その場にロマンの妙なる香りが立ち籠めます。そして更にハーモニーを使えば、その多様な七色の和声で如何なる心の変化も映し出せます。ピアノはロマンチックの権化(権現)と言える、人間世界を映す鏡なのです。

 重く伸びやかな低音部、静けささえ湛える芳醇な中音部、温かく心を満たす歌を司る次高音部、そして煌びやかで鐘の音のような高音部。また言い変えるならば、低音部は底知れぬ深い海、中音部は満々と水を湛える湖、次高音部は流麗な川の流れ、高音部はクリスタルな滝の飛沫。88音もありながら、最低音から最高音まで、全音域に亘って官能性が高く表現力が豊かで個性的です。しかも、一人でシンフォニーまで演奏できる、スケールの大きさと万能性まで備えています。正にピアノは一人オーケストラと言えるのです。

 そんな優れたピアノの飛びっきりの名曲をこれから長い期間を掛けて、新しいカテゴリで紹介して行きます。第1回目は、“完全無欠のピアノの詩人・ショパン”をも凌ぐ?と思われる“天性のピアノの詩人・ローベルト・シューマン”、…その詩人のエッセンスが最高度に凝縮された…、…正に天から降りて来た宝石…の「子供の情景」OP15を選びました。

Aシューマンのピアノ曲、妻クララとの関係 
 シューマンは尊敬し憧れたベートーヴェンに倣い、ピアノ曲以外にも様々なジャンルの曲を作曲しました。けれども作曲家を志すのが遅すぎたのか、あるいは大曲を作曲するには才能が足りなかったのか、オペラやシンフォニー、そして室内楽に大傑作と言えるような作品を残す事は叶いませんでした。従ってシューマンの大作曲家としての威信は今一つで、それは生前に於いても同様でした。その事が挫折に繋がり、生来の精神的特質も手伝い、やがて精神を病み自殺を企て、その果てに、精神病院で46歳の若さで亡くなったのでした。最愛の妻・クララと七人の幼い子供を残して…。何と言う不幸、何と言う悲劇、絶望の淵に追い遣られたクララでしたが、クララには一つの希望がありました。それは子供達ではなく、新たに現れた友人ブラームスでもなく、最愛の夫ローベルトが残した数々のピアノ作品でした。クララは決意していました。「私はローベルトの作品と一緒に生きて行こう。この宝石を世に広めよう。それが私の使命だから…、ロ−ベルトもきっと喜んでくれるだろう…、それが私の一番の幸せなのだから…」と…。

 交響曲やオペラで一番になれなかったシューマンですが、妻クララが夫のいない半生の拠り所とした珠玉のピアノ作品は、古今東西のあらゆる作曲家のピアノ作品の中でも一番か二番でしょう。もうライバルはショパンしかいないでしょう。ピアノの特性を最大限発揮させたショパンのエンタテイメント(娯楽性)には敵いませんが、ショパンと同等の、否それ以上の優しさと優雅さを持ったピアニズムを有しています。それは正に人間愛に溢れたロマンの香り立つ良質のファンタジーです。

B“子供の情景”誕生の経緯(ローベルト28歳、クララ19歳) 
 未だ二人が結婚する前に、クララはローベルトに言った事がありました。「貴方の心には子供が住んでいるのね。貴方はとても子供っぽく見えるわ…」、九歳も年下の愛する乙女に言われてローベルトはそれを心に残しました。まあ、男とは何歳になっても少年の心を宿しているもの、そして小生意気な乙女は大人になりたがり、意地悪を言いたがるもの、微笑ましい恋人の痴話喧嘩ですが、そこから未来に残るとんでもない名曲が生まれ出るなんて、クララはこの時知る由もなかったのでした。その後、それが切っ掛けとなり、ローベルトは自分の子供時代の出来事や思い出をあれこれ思い返し、それに極め付けの幻想性を盛り込んで、30曲(出版時に13曲に絞り現在に至る)ほどのピアノ小品を作り上げました。勿論、真っ先にクララに見せました。クララは「素敵な曲ばかりね、私が言った意地悪で、こんなに美しい曲を書いてしまうなんて、貴方は天才ね、嬉しいわ、愛してるわ…」、二人はヒシと抱き合い、甘い接吻を交わしたのでした。…何てね…、まあ、これは私の勝手な想像ですが、あながち偽りとは申せません。二人の愛は固く、二人の結婚に反対していたクララの父親の度重なる妨害にも断固として裁判で戦い、勝利して、結婚に漕ぎ付けたのでした。それは一際音楽史に残る素晴らしい結婚でした。

*クララ・シューマン(旧姓・ヴィーク、1819〜1896) 名ピアノ教師である父親の薫陶を受け、当代随一の女流ピアニストに成長する。シューマンと結婚、のちに若くして未亡人となるが、生涯に亘って夫・シューマンの作品の普及に努める。 

 *子供の情景*
第1曲 見知らぬ国々と人々について
優しい歌い出し、さあ懐かしい思い出の国に行きましょう、あの人はいるかしら?

第2曲 不思議なお話
一寸リズミック、でも直ぐに優しさが、語り掛けるように…

第3曲 鬼ごっこ
皆で鬼ごっこ、わっ、僕捕まっちゃったー

第4曲 おねだりする子供
何となく媚びを売っているかな、でもさ…、だってさ…、なんて言っているね

第5曲 大満足
何だか嬉しいな…、ワクワクしちゃう!

第6曲 重大事件
重大事件、それって何さ、何か楽しそうだぜ!

第7曲 トロイメライ
白日夢と訳されるそう…、でも不思議にも夜の雰囲気で一杯、全曲中の白眉、美し過ぎる傑作

第8曲 ろばたにて
温かい炉端に集まって皆でお話、今度は貴女、次は君、そうかいそうかい、そうだよね

第9曲 木馬の騎士
あそこには木馬があったよね、ハイドウドウ…、楽しいね!

第10曲 むきになって
このむきになっては静かな“むき”、一寸涙ぐんでいるよ…

第11曲 びっくり
待ち伏せかい! びっくりびっくり!

第12曲 子供は眠る
夢の中、安らかに子供は眠る、でも一寸悲しいかな? ママがいない?

第13曲 詩人のお話
詩人はシューマン? 入り組んだ繊細な感情と神秘的情緒を持った曲、これぞドイツロマン派、ショパンではこうは行くまい!

 *追伸
ここに述べた各曲の論評は、あくまでも私の私見です。これに拘らずに、まっさら(真新)のお心でお聴きください。演奏(CD)は、ウラディミール・ホロヴィッツがお勧めです。冴えたタッチと透明な響き、更に繊細な歌い廻しが絶妙です。
posted by 三上和伸 at 23:16| ピアノ曲を聴きましょう | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする