2013年03月13日

音楽の話94 PANIS ANGELICUS 〜ちいさなクラシック〜を聴いて 2013.03.10

 十九世紀フランスの大作曲家セザール・フランク(1820〜1890、ベルギー生まれ)が作曲したパニス・アンジェリクス。この敬虔な讃美歌をタイトルとした愛らしいCDを先日見付けましたので、ここに紹介致します。因みにこのパニス・アンジェリクスは全14曲中の最後を飾っており、このCDの慎ましくも美しい清廉のイメージを代表しているものと言えます。サクソフォーン、ハンドベル、ヴァイオリン、チェロ、ピアノ、ハープ、リコーダー、チェンバロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、イングリッシュホルン、ボーイ・ソプラノ、そしてオーボエなど、多彩な楽器群を擁しており、幼児(乳児も)を含め、クラシック音楽入門には打って付けのCDと言って良いでしょう。従って、私が我が愛しの孫娘にも聴かせたいと願うのは、無理なからぬ事と言えるでしょう?

第1曲 E・サティ:ジュ・トゥ・ヴ(アルディ・サクソフォーン・クヮルテット)
「あんたが欲しいの」を意味する“ジュ・トゥ・ヴ”、世紀末のパリで流行ったサティの歌曲(シャンソン)。これをアンニュイ(気だるい)で退廃的なサクソフォーンの音でリメイク、サティにはサクソフォーンがお似合いです。聴けば体から力が抜けてゆき、小粋でヤクザ?な安息が訪れます。

第2曲 J・パッヘルベル:カノン・アンダンテ(ハンドベル)
余りにも有名なパッヘルベルのカノン、ハンドベルが汲めども尽きぬカノンの反復を澄んだ金属音で響かせます。この甲高い音は言葉では言い尽くせない不思議な力を持っています。聴けば知らず知らずに胸が熱くなり、知らず知らずに涙が溢れます。鐘、それは教会や寺院で使われますが、この演奏に触れるとその理由が何とはなしに判る気がして来ます。何か尊いものが宿っているようです。

第3曲 F・シューベルト:アヴェ・マリア(森下幸路 ヴァイオリン、カール=アンドレアス・コリー ピアノ)
希代のメロディスト・シューベルトの快心の作、ここでは女性の声の代わりにヴァイオリンが歌ってくれます。ピアノ伴奏の分散和音も美しく、蠱惑(こわく・たぶらかしまどわす)と敬虔が一体となった神秘の曲…。正に音楽の神髄と言ったところです。

第4曲 J・S・バッハ:G線上のアリア(アルディ・サクソフォーン・クヮルテット)
G線とはヴァイオリンの一番太い弦(左の弦)の事。バッハは自作の管弦楽組曲第3番のアリアから、この一本弦だけを使って演奏出来るヴァイオリン独奏曲を編曲しました。これまた音楽の神髄と謳われる一代名旋律で、如何にバッハと言えどもこんな見事な旋律はそうそう幾つも湧き出るものではありません。そこには良心と献身が表されており、先のサティーの気だるいサクソフォーンとは別世界の健康美が際立ちます。同じサクソフォーンとは思えない前向きのバッハがそこにいるのです。

第5曲 F・リスト:ラ・カンパネッラ(カール=アンドレアス・コリー ピアノ)
ご存知、在りと在らゆる技巧派ピアニストの試金石となる曲、これは冴えたタッチで正確に弾かなくては様になりません。その技は一朝一夕では得られない高度なもので、ピアノの高音を撫でるように扱い玉のように転がし鐘の美音を紡ぎ出します。しかも正確な高音調律(特に三弦のユニゾンの正確さ)を要求され、調律師の技も試される調律師泣かせの曲、正に官能美際立つエンタテイメントの傑作です。

第6曲 E・サティ:ジムノペディ第1番(藤森亮一 チェロ、カール=アンドレアス・コリー ピアノ)
正に気だるいサティの真骨頂。これがフランス近代の空気なのでしょうか、聴けば思わずパリの街角にタイムスリップしてしまいます、行った事も無いのに…。そして気付けばこれはワルツ(のリズム)なのですね。でも3拍目が省略されていてありません。ブンチャッチャがワルツですが、ブンチャーーとなっています。省略の極致?、粋?で面白い?思い付き(工夫)?、サティ、素敵ですね。

第7曲 C・ドビッシー:亜麻色の髪の乙女(篠崎和子 ハープ)
本来はピアノ曲ですが、ここではハープが使われています。ピアノに比べ線が細く高貴でソフトな感触、仄かな靄(もや)に包まれているようで気持ちがいいですね。亜麻色とは黄色がかった淡い褐色の事だそう、日本では亜麻糸の色ですが、西洋では一般に髪の毛の色を指します。金髪をくすませた感じ?が亜麻色?、黄色がかった褐色の髪の乙女、余り見た事ないですけどね。それにしてもドビュッシーのピアノ曲、都会的でお洒落ですね、一点の汚れもなくホントに美しい…。余談ですが、我が最愛のブラームスとは天と地との差があります。ブラームス、土の香りする田舎者?(決して侮蔑ではありません、愛してます)、ダサイ!(愛してます)ですね。

第8曲 F・クープラン(1668〜1733):愛のウグイス(江崎浩司 リコーダー、長久真実子 チェンバロ、風早一恵 ヴィオラ・ダ・ガンバ)
フランスバロックの作曲家・クープラン、そのクラブサン(チェンバロ)曲集の中の一曲。ここではリコーダーがチェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバの伴奏で旋律を歌います。リコーダーの所為か鄙びた田舎の雰囲気が濃厚ですが、トリルを多用する旋律は華やぎを持ち盛んで、しかも切なささえも感じさせてくれます。葦笛(リコーダー)がいいですね。

第9曲 J・アルカデルト(1504〜1568):アヴェ・マリア(藤森亮一 チェロ、カール=アンドレアス・コリー ピアノ)
世俗音楽を歌詞を変えて宗教曲に仕立て直す事を、「コントラファクトゥム」と言うそうです。この盛期ルネッサンス・フランドル楽派のアルカデルトはその達人だったそうです。この「アヴェ・マリア」もそのような曲、最初は通俗曲のシャンソン「人は愛るすために何でもやる」と言うヒット曲だったそうですが、後にそれの歌詞を変えて宗教曲「アヴェ・マリア」と題して世に送りました。まあ、これが現代まで残ったのは不思議ですが、『それなりにいい曲だなあ』、と言う事にしましょう。

第10曲 W・A・モーツァルト(1756〜1791):アヴェ・ヴェルム・コルプス(池田昭子 イングリッシュ・ホルン、石田三和子 ピアノ)
カトリック教会の聖体祭のミサで歌われる聖体讃美歌がこの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」です。ラテン語の「アヴェ・ヴェルム・コルプス」とは、「めでたし、まことのお体よ」と言う意味らしい…。ラテン語、読みはローマ字読みで読めなくはないのですが、意味は五里霧中、本当に判り易い訳を付けてくれないと困ります。されどラテン語などはどうでもよく主役は音楽で、モーツァルトが素晴らしい…。死の年に書いた曲で、死の影もない事はないですが、何よりも主イエスと聖母マリアを讃える信仰心が涙を誘います。モーツァルトにとって、信仰も生も死も、浄化された音楽であり、美なのですね。これは美し過ぎます。

第11曲 P・I・チャイコフスキー:葦笛の踊り(クローバーベルフレンズ ハンドベル)
宝石のように美しいメロディーが雨霰と降り注ぐチャイコフスキーのバレエ音楽。その中でも飛び切りの名旋律が飛び交う「くるみ割り人形」。これはもう事件ですよね?。何て愛らしい葦笛のメロディー、これこそ、赤ちゃんに聴かせたいですよね。ハンドベルの愛らしさは赤ちゃんそのものです…、ハイハイ、これを聴いてハイねんね…チュッ!

第12曲 C・ドビュッシー(1862〜1918):小さな羊飼い(カール=アンドレアス・コリー ピアノ)
この「子供の領分」(6曲のピアノ組曲)の中の一曲は、このCDの中ではハイレヴェル…。緻密で美しく神秘的、しかも情緒に屈折があり深みが増しています。この曲集は当時3(5)歳だったドビュッシーの愛娘のエマ(エンマ?、あだ名はシュシュ)に捧げられています。“子供の…”と言う曲名は兎も角、何故この曲が?何故この曲集が?、こんな高度な曲が幼子(娘)に?。考えるに…、それはこれがそれだけの自信作だったからかも知れませんね。私もこんな宝石をNちゃん(孫娘)にプレゼント出来たらなー。待て待て、お前の得意な愛で出来た宝石(心)をあげたら良いじゃないかね…、ドビュッシーよりも素敵な?…ね…

第13曲 グリーンスリーヴス(みつかいうたいて)(ウィリアム・W・スピアマン ボーイ・ソプラノ)
何方もご存知の美しい旋律、皆様も一度は歌われたかと思われます。恐らく、中学の音楽の授業で?、級友と一緒に…。起源は16世紀のイングランドの民謡で作者は不詳です。また訳解らない“みつかいうたいて”の名称は、「御使いは歌いました」と言う意味と思われ、ここで歌われている歌(歌詞)の題名です。民謡・グリースリーヴスのメロディーに乗せて歌われるクリスマスキャロルと言う事です。

〜みつかいうたいて 英語原題・What Chiid Is This?〜 歌詞の一部(ウェブサイト・ウィキペデアより参照)

うた1
こはいかなる子であるか
マリア様のひざにて眠りぬ
天使が祝のあいさつを送り
羊飼いらの眺めしときに

斉唱1
まこと彼こそ王キリスト
羊飼い守り天使の称える
急ぎ急ぎて祝め称えよう
かの幼子、マリアの子よ
*以下、うた2、斉唱2、うた3、斉唱3と続きます。

第14曲 C・フランク:パニス・アンジェリクス(池田昭子 オーボエ、石田三和子 ピアノ)
このCDのタイトルに使われた宗教曲の名曲。名の如く天使のパン(糧)と呼ばれるこの曲は初め3声のミサ曲の中の合唱曲として作られました。後にフランク自身が自作の「荘厳ミサ曲」の改定の際に、この曲を独唱曲に編曲して荘厳ミサに追加しました。まあ、私達東洋人にキリスト教を理解するのは難しいですが、こうやってしっとりと優しく歌ってくれれば、その信仰の一途な思いは判るような気がします。
posted by 三上和伸 at 15:02| 今宵の名曲・音楽の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする