2019年04月21日

ブラームスの名曲14 ネーニエ(哀悼歌)Op.82 2019.04.17

ブラームスと言う作曲家は、見栄や虚飾を嫌った内気で内省的な人であったようです。ほぼ彼の全曲を聴いて気付いたのは、ブラームスの作品は多岐に渡っていますが、オペラだけは書いていません。たったひとつと言って良いほどに、彼の作品目録にはオペラというジャンルがないのです。このように内に秘めた情念や思想を持つ作曲家として、それを表現するには正直者であったブラームスにとって、オペラは不向きであったようです。生涯の内にオペラ試作の痕跡はあったようですが、それもカンタータ(リナルド)などに代わってしまっています。

ブラームスはリアリストでありました。嘘八百を紡いで、歌物語(オペラ)を書くことはブラームスの性格上無理だったようです。まあベートーヴェンもそれに近く、オペラは「フィデリオ」一曲に留まっています。人間の真実を音楽にしたブラームス、嘘を付かないノンフィクションの音楽に徹したのでした。

それでもブラームスは、当時の最大の声楽曲の作曲家でありました。歌曲と合唱曲を合わせて都合300曲は書いています。どれもこれも傑作で、駄作は一曲もありません。オペラの代わりになる十分な歌の曲が並んでいます。ここでは、リアリストのブラームスが作った声楽曲の一つ「ネーニエ」を紹介します。

ネーニエは、ウィーンで知り合った画家=アンゼルム・フォイエルバッハがベネチアで死んだのを偲んで、1881年に作曲されました。画家・フォイエルバッハの作風は、古典の知識を持ち、彫像のような優美さと気高さがあり、古代ギリシャ芸術の簡素さを持っていたと伝えられています。ブラームスはそんなフォイエルバッハの画家としての器量に見合った古代ギリシアの三篇の神話を盛り込んだシラーの詩・ネーニエを見出します。それをオーケストラ付きの合唱曲に仕上げたのでした。フォイエルバッハの母に捧げたところ、その哀れな母親は大層喜んで、生涯この曲を聴くのを楽しみにしていたそうです。

ネーニエ(哀悼歌)  詩・フリードリッヒ・フォン・シラー

美しき者とて滅びねばならぬ!、それこそが人々と神々を支配する掟

地獄のゼウスの青銅の心臓を動かすことはない

かつてたった一度だけ 愛がその闇の主の心を溶かしたことはあったが

出口にたどり着かぬうちに、厳しくも、彼はその贈り物を取り返したのだ

アフロディテさえも かの美しい少年の傷を癒すことはないだろう

その華奢な体をかの猪が残酷に引き裂きしものを

神々の英雄をも その不死の母が救うことはなかったのだ

スケイアの門にて倒れ、彼が死の運命を受け入れしときにも

けれども彼女は海底よりネレウスの娘たちと共に上がり

偉大な息子のために嘆きの歌を歌ったのだ

見よ!神々が泣いている、女神たちも皆泣いている

美しきものが色あせることに 完全なるものも死にゆくことに

愛する者の口より出ずる嘆きの歌は素晴らしいものだ

なぜなら凡人たちは音も立てずに冥界へと降りてゆくのだから


古代ギリシアの三篇の神話
・オルフェウスが死んだ妻エウリディーチェを冥界から連れ戻そうとした話
・美の女神・アフロディテがキューピットの矢を間違って受けて仕舞い、愛する事になった人間の美少年アドニスが、猪に殺されてしまった話
・アキレス腱のアキレスが、唯一の弱点・踵を射られて死んでしまい、アキレスの母で海神ネレウスの娘・テティスが姉妹を引き連れて海から上がり、嘆きの歌を歌った話。

シラーはこの三篇を上手くつなげ、哀悼の想いを詠い上げたのです。

素晴らしい友人だった者への哀悼の歌、ブラームスのネーニエ

参考:梅丘歌曲会館 詩と音楽よりから引用
posted by 三上和伸 at 11:45| ブラームスの名曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする