2020年03月29日

ブラームスの名曲22 ファンタジア 第1曲ニ短調 OP116-1

ラテンシリーズを含む10年間(1876年〜1886年)は、ブラームスの創作の黄金時代と言えましょう。4曲の交響曲とヴァイオリンとピアノのコンチェルト及び二重協奏曲(ヴァイオリンとチェロの二重奏コンチェルト)を書き、古今東西の大作曲家の列の一等席に君臨した時代でした。しかし、長年の勢力集中の所為で、元気印のブラームスも健康上の憂いが出て来ました。もう交響曲もコンチェルトも書く体力と気力が失せていたのでした(第5交響曲断念)。遺書(1890年)まで認めたのですよ。残すはクラリネット室内楽と歌曲とオルガン曲、そして20曲のピアノの小品集です。それでも気力減退となったとしても、スケールの大きな作曲家は違います。ピアノ小品だけでも20曲(一夏で)ですよ。しかも全てが個性的で、まるで違う顔をした曲たちです。まあ、ブラームスは、やはり並いる作曲家とは桁違い、途轍もない創作力を持っていました。

晩年のピアノ小品は1892年に、20曲(OP116.117.118.119)全てが書かれています。ショックだった大曲の創作力の減退、それでもクラリネットの巨匠のリヒャルト・ミュールフェルトとの出会いで、4曲のクラリネット室内楽をものにし、復活しました。更に、ロマン溢れる心情は沸々と沸き上がり、詩の不足で歌曲を諦め、自家薬籠中(じかやくろうちゅう、思うままに使いこなせるもの)のピアノの小品に熱中しました。こうして世にも稀な墨絵風モノトーンのピアノ作品が生まれたのでした。この燻し銀のピアノ音楽こそが、私の愛する宝石たちです。

ファンタジアOP116の第1曲は、ピアノ小品シリーズの第1曲目です。さあ、追憶と懐古の始まりです。あの全盛のラテンシリーズとは180°の反転です。レモンの花咲くイタリア・ギリシャから遠ざかり、ブラームスはひたすら生まれ故郷の北ドイツ(低地ドイツ)を目指します。この第1曲の二短調で、厳しくも、その原点回帰の幕が切って落とされたのです。ここからは雪と氷の世界、私達は、霧に咽ぶ低地ドイツに連れ去られるのです。それでも晴れた宵は星が瞬きます。それは北極星かカシオペアか、それとも北斗七星か、五月の宵には薔薇の香りと満月が…、低地ドイツも美しい故郷です。

ピアノ
*エレーヌ・グリモー
*ウィルヘルム・ケンプ
*ヴァレリー・アファナシェフ
posted by 三上和伸 at 22:36| ブラームスの名曲 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする