作品32の第2曲、こちらはダウマーの詩を使っています。詩人は違えども、内容は重苦しい恋の歌、老年の私からすれば、人生の経験がない若者は苦労をしてしまうのでしょう。恋とは不可解なもの、心を一つにすることは難しい…、努力が必要なのです。
「もはやきみの許には行くまい」 詩・ゲオルク・フリードリヒ・ダウマー
もはやきみの許には行くまいと、
ぼくは決心して、誓いもしたが、
毎晩行ってしまうのだ。
あらゆる力とあらゆる抑制を
ぼくは失ったからだ。
ぼくはもはや生きながらえず、
たった今滅び去ってしまいたいが、
それでいて、きみのために、
きみとともに生きたいから、
決して死にたくはないのだが。
ああ、ひとことでいいから言ってくれ、
ただひとことをはっきりと!
ぼくに生か、または死を与えよ、
きみの気持ちだけがぼくに
きみの真実を打ち明けるのだ!
アガーテと別れてから暫くして、29歳(1862年)のブラームスは、ウィーン進出を果たします。この曲集は1864年に出版されていますが、この頃のブラームスはクララと親しく交友を続けていました。しかし、それは既に友情としての段階に昇華したものでした。必要欠くべからざる同志の楽友としての付き合いでした。ところがそこにもう一人、若く魅力的な女性が現れます。名はエリザベート・フォン・シュトックハウゼン、この16歳の魅力的な少女がウィーンのブラームスのピアノの弟子になるのでした。この悲劇的な歌曲集の最後の一曲が、世にも美しいエロチカになったのは、この少女無くしては考えられません。しかしブラームスはその美しさに恐れをなして、この少女を友人のピアニストに預けてしまうのです。アガーテとの苦い思い出が胸を過ったと言って間違いはないでしょう。この作品32の歌曲集、若いブラームスの自伝的な歌だったのかも知れません。
曲は第1節と第3節は、同じメロディーを使い暗い心情を語りますが、第2節は曲調ががらりと変わり、激情が溢れ出します。ブラームスの歌曲には珍しい3部形式を使っています。劇的な表現が目立ちます。
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