2008年04月20日

今宵の名曲この一枚5

 今宵の名曲−5
 ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲ニ長調op61 クリスチャン・テツラフ(ヴァイオリン) ディヴィッド・ジンマン指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
 アポロンのコンツェルト

 ベートーヴェンは14才年長のモーツァルトと共に、西洋クラシック音楽に劇的変化をもたらした音の革命家です。モーツァルトは天性の才で感情(慈愛)を、ベートーヴェンは激烈な努力で理念(精神)を世に知らしめました。宗教の添え物であったり王侯貴族の慰め物であった古い音楽を、新たに偉大な芸術の領域に引き上げたのがこの二人でした。また、後のロマン派の発火点ともなりました。

 ベートーヴェンは伝説に彩られています。それは今日明らかにされている忌まわしい鉛中毒にまつわる事実であり、その病はあろう事か最初は耳に表れました。30才前後から難聴に悩まされ、それは次第に悪化を辿り、とうとう療養先のハイリゲンシュタットで遺書を認めるまでになりました。その年齢の若さ故、不安と苦しみは想像を絶するものがあり、死を覚悟したのは当然の事でしょう。しかしここから先が伝説の伝説たる所以であり、耳は決して回復しなかったのですがベートーヴェンは蘇えるのです。しかも鋼の意思を持って何倍も強くなって。そして人類の為に音楽に没頭します。ヒューマニズムを旗印に次々と傑作をものにして行くのです。英雄(第三)交響曲から第七交響曲まで、10年30曲の作品群は後年の批評家に傑作の森と称され、それは今日までも讃えられ続けています。
 
その傑作の森の中に類稀な一本(曲)の美しい名木(曲)があります。それがヴァイオリンとオーケストラによるコンツェルト、ヴァイオリン協奏曲ニ長調です。ベートーヴェンは元来強健な身体と快活な精神を持ち、一日中野山を歩き回っても疲れを知らない男でした。そしてその散策の道すがら楽想を練るのがベートーヴェンの日課でした。そんな最中にこのコンツェルトテーマが生まれたのは想像に難くありません。ここには全編に亘り、田園の光彩が煌びやかに差し込んでいます。そして清々しい風が吹き抜けています。その韻律は規律正しく堂々と流れ下り、そこに美しい旋律が絡み付いて行きます。それは無上の充実を表して一点の曇りもありません。
 アポロンの深い叡智の眼差しを私達に向けて。
posted by 三上和伸 at 23:50| 今宵の名曲・音楽の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする