音楽を骨の髄まで愛する三上家では《私は》、たとい孫のNちゃんが外孫《因みに我が家に内孫が生まれる可能性は多分ゼロ》であろうとも、音楽好きになる事を望んでいます。勿論、無理やりに音楽家の道を押し付ける積もりは毛頭ありませんが、是非、歌《最初は次女ママKさんが歌ってやって、その内、少年少女合唱隊に入れたい、歌は素晴らしい》と一つの楽器《初めはKさんが手解きして、ゆくゆくは夏さんに本格的にピアノを…、ピアノは音の並びを覚える絶好の楽器》を嗜《たしなむ》んで欲しいものです。何故かと言えば、本当の意味で音楽を知れ《理解する》ば、その人の人生に大きな力《助け、私がその例》となるからです。音楽を始めとする芸術は、人の心を育てます。Nちゃんの心に、善と正義、勇気と忍耐、希望と信頼、そして博愛が芽生えれば、Nちゃんが愛情深い幸せな一生を送る糸口が見付かると私は信じています。私はそれをNちゃんに授ける一助がしたい…、そのために、その機会が巡ればその度に、私はクラシック音楽のCDを送ろうと心に決めています。
過去にNちゃんに贈ったCDは、生まれる前の胎教の目的でKさんに贈った数枚と、今年3月にNちゃんに直接?贈った“パニス・アンジェリクス”の一枚がありました。あの時のNちゃんの反応が素晴らしく、Kさんの印象も良かったので、今回は是非ともピアノ小作品の有名どころを聴かせたいと想いました。7月のある日、私は横浜西口のCD屋に立ち寄り、吟味の末、“Famous Piano Music”のタイトルを持つピアノ小品集を選びました。これには全13人の有名ピアノ曲作曲家による全20曲のピアノ小品が並んでおり、現代の優秀なピアニスト達の演奏で収められています。
◎曲の紹介
@夜想曲 グリーグ
これは北欧のショパンと呼ばれたグリーグが、生涯に亘って書き溜めた抒情小曲集六十六曲の中の一曲です。ノクターンの名を持つ夜のムード溢れる曲ですが、パリに住んだショパンのような都会趣味と陶酔はありません。その代わり、僻地ノルウェーのグリーグだからこその素朴と清潔があります。あくまでも透明で清澄なピアノ音、そこには北国の冷気さえ漂っているようです。暑気の日本には打ってつけの音楽かも知れません。気持ちだけでも涼しくなります。
Aトロイメライ シューマン
トロイメライと言えばシューマン、シューマンと言えばトロイメライ、シューマンの代名詞となったピアノ小品の傑作です。白日夢と訳されるトロイメライ、夢幻の世界を彷徨ったシューマンならではの音楽詩、正にピアノの詩人でなければ書けない異次元の世界です。この別世界の雰囲気を幼いNちゃんはどう受け止めるのでしょうか?、興味津々ですね。因みに子供の頃《小学生》の私はこの曲と衝撃の出会いをしました。旅先で眠れぬ夜を過ごしていた私にある人が、このトロイメライのオルゴールを掛けてくれました。その何とも言えぬ摩訶不思議な夜のムード、しかも得も言われぬ心を融けさせるメロディー、その突然の衝撃にますます眠れなくなり、魔界に放り出されたかの如く、私は鳥肌を立てながら呪文のようにそのメロディーを口ずさんでいました。「♪ららーん♪、♪ららららららーん♪、♪らららららららららららららーん…♪」。それでもそれからは、そのメロディーだけが私の耳に焼き付いて離れず、肝心の「トロイメライ」の名を知るのは、私が中学生になってからでした。
Bワルツ7番 嬰ハ短調 OP.64-2 ショパン
ショパンのワルツは、ヨハン・シュトラウスのウィンナワルツのように直接踊りと係わるものでなく、ピアノ曲の一つの様式として存在しています。ですから繊細で夢見るようにあどけなくセンチメンタルで、そこに個人の私的感情を色濃く表現しています。少し練習すれば?弾けるように?なりますよ。熟年の皆様も是非どうぞ!…、眠っているピアノが役立ちます。
C子犬のワルツ 変ニ長調 OP.64-1 ショパン
このCDでは前の嬰ハ短調と順番が逆さまに並べてありますが、この曲の方が先で作品64-1です。ショパンの恋人《愛人》ジョルジュ・サンド《女流作家、恋多き男装の麗人》が飼っていたサンドの愛犬がモデルで、サンドの強い勧めでショパンに書かせたと言うのが真相のようです。それでも流石は当代随一のピアノの詩人・ショパン、子犬の仕草や動作を巧みに表現して、人気絶大なワルツに仕立て上げました。
D愛の夢 リスト
初め歌曲として発表されたものを人気にあやかってピアノ独奏用に編曲した作品。歌曲として人気が高かったため、リストは同じ元手を使い、柳の下の二匹目のドジョウを狙ったと想われます。まあリストに限らず、プロの作曲家は売らんがためにあれこれ方策を試みるものです。結果、願ったり叶ったりで、楽譜も演奏会チケットも売れに売れました。リストは王様のように大邸宅《御殿》に住んでいました。
Eエリーゼのために ベートーヴェン
ベートーヴェンは、己の事を力強く男っぽい《男らしい》作曲家だと自負していました。「英雄」、「熱情」、「運命」、「皇帝」など、勇ましい副題を持つ曲がありますが、それらがそのベートーヴェンの性格を如実に証明してみせています。ところが、女心を取り入れた愛らしい曲も書いたのですね…、心ならずも…。 惚れた弱みでしょうか、センチメンタル・オトメチック大嫌いなベートーヴェンも遂にタブーを犯してしまいました。エリーゼが誰なのか?本当はテレーゼではないのか?、諸説あり、未だに研究者は詮索に余念がありません。しかし私はそんな事はどうでも良く、哲人・ベートーヴェンも普通の男の一面を持っていた…、女性に恋い焦がれてメロメロだった…、その事が判るだけでもこの曲の価値は高いですね。愛情の籠った良い曲です。
F即興曲 OP.90-2 シューベルト
全4曲の内の第2曲で、変ホ長調・アレグロの曲。快速のテンポで進むその推進力は中々気持ちの良いもの…。即興曲《アンプロンプチュ》の名に相応しく、今生まれたかのような澱みない生命感で溢れています。ところがこの即興曲の名は、シューベルトが考え付けた名ではなく、出版するに当たって楽譜出版商のハスリンガーが当時流行り出したこの曲名を選び、名付けたのでした。それでもシューベルトはその名が気に入ったそうで、問題は無く、そのお陰で即興曲の名は今日までも生き残りました。その後の作曲家では、ショパンやフォ-レ、ラフマニノフ等が即興曲の名を借りて名曲を残しています。
G前奏曲「雨だれ」 ショパン
バッハの平均律クラヴィーア《長短各十二の調性に基づき、二十四のプレリュードとフーガからなり、それが二巻ある大作》に感化されて書いたと言われるショパンの二十四の前奏曲《プレリュード》集OP.28は、勿論、一巻でありフーガはなくプレリュードだけですが、バッハと同様に長短各十二の調性に基づいて二十四曲《但し、調性の並びはバッハと異なる》が書かれました。ロマン派の時代に、発想力・構成力で、音楽の巨人・バッハに挑戦したその志の高さは、大いに評価されるべきでしょう。この二十四の前奏曲の中の第十五番変ニ長調ソステヌートが「雨だれ」で、全編を通して雨だれを模した持続音が鳴り、それをなぞるように曲は展開されて行きます。冒頭は雨だれも静かで、そこに甘い懐古の歌が歌われます。優しい歌で恋の希望と愛の安らぎに満ちています。しかしその安息も長くは続かず、雨だれも力を増して悔恨の嵐が吹き荒びます。仲違いをしたのでしょうか、恋人は去って行きました。それでもやがて、雨も小降りとなり雨だれも優しく時を刻み出します。するとあの人は帰って来ました。優しいあの歌を歌いながら…。美しくも力強い曲、雨の日の詩情が溢れます。正に雨だれが誘う抒情詩、傑作です。
H四季〜トロイカ チャイコフスキー
1875年、あるロシアの雑誌が四季に纏わる詩と音楽を月一回、ひと月毎に連載する企画を立てました。詩は何人かの詩人に割り振って著して貰い、その詩を基に作曲を担当したのがチャイコフスキーでした。その年の12月から翌年の11月に掛けて1曲ずつ全12曲のピアノ独奏曲が発表されました。そして10年後の1885年に全12曲を纏め、組曲「四季」OP37aと題して出版されたのでした。トロイカはその内の11月のページで紹介されましたが、この頃のロシアは旧歴を使っていたらしく、旧暦11月と言えば新暦の12月頃、ロシアの大地には充分の積雪がある頃。ですから、トロイカが11月に紹介されたのは肯けます。と言うのも、トロイカとは三頭立ての馬橇(そり)の事を言うからです。勿論雪のない夏には馬車仕立てとしますが、本来は雪道を走る馬橇の事なのですよ。旧暦11月(新暦12月、真冬)にトロイカはピッタリ正解なのです。因みに、その他の月も紹介して置きますね。一月「いろりばた」、二月「謝肉祭」、三月「ひばりの歌」、四月「松雪草」、五月「五月の夜」、六月「バルカローレ《舟歌》」、七月「刈り入れ人の歌」、八月「収穫」、九月「狩りの歌」、十月「秋の歌」、十一月「トロイカ」、十二月「クリスマス」。トロイカは長閑(のどか)で爽快な気持ちのよい作品です。ロシアの雪原をひた走る三頭立ての馬橇・トロイカ。その颯爽とした姿を彷彿とさせます。蹄の音も静かながら小刻みに聴こえてきます。
I五月の夜 パルムグレン《1878〜1951》
「フィンランドのショパン」と言われたセリム・パルムグレン、近代フィンランドを代表するピアニストにして作曲家です。日本のピアニスト・舘野泉などの紹介により、近年一般に知られるようになりました。グリーグの項で述べたショパンの影響は、このパルムグレンに於いては尚も強く、ショパンの書いた「二十四の前奏曲」を踏襲する同じ名の作品を残しました。生涯の作品の大半は3分にも満たないピアノ小品群(300曲)ですが、北欧の風土を色濃く映したピアニズムは地味ながらも魅力的です。白夜であろうフィンランドの五月の夜、そこにショパンの熱病はありませんが、仄かにやる瀬無いパルムグレンの慕情があります。「五月の夜」、そこからは常に心地よい風が吹いていました。
J亜麻色の髪の乙女 ドビュッシー
フランスのピアノ曲の良さが際立つ名作。繊細で都会的、極めて上品な表現の中に仄かな人間味が漂います。一点の汚れない無垢な官能性と奥床しい精神性が絶妙のバランスで表現されているのです。これがフランスですね、これがドビュッシーですね。
Kスペイン舞曲「アンダルーサ(アンダルシア風)」 グラナドス
イサーク・アルベニスの後輩に当たるエンリケ・グラナドスは、アルベニス同様にスペインの民族音楽を芸術の域に押し上げた作曲家です。スペインにはアンダルシアのジプシーフラメンコやアラゴンのホタなど、地方地方に特有の舞曲のリズムがあり、グラナドスはそれらを活用して、ピアノのための十二のスペイン舞曲を書いたのでした。その内の一曲で第五番ホ短調の「アンダルーサ」は、アンダルシア風の意味合いがあり、スペイン南部のジプシーフラメンコのリズムを活用したものです。従ってギター的書法が顕著で、本来はピアノ曲ながら、ギター版も人気が高く頻繁に演奏されます。小気味良いリズムと情感溢れるメロディーには、南欧の異国情緒が横溢しており、聴けば臨場感たっぷりで、まるでスペイン旅行をした気分?になります。酔わせてくれます。
Lトルコ行進曲 モーツァルト
当時のヨーロッパの人々にとって最も異国と想われていた国はオスマントルコでしょうか。イスラムの超大国で、長年西側ヨーロッパ諸国はオスマンの侵略(ウィーン包囲等)に苦慮してきました。しかしこの頃は、もう既に脅威の侵略国家では無くなっていたので、異国趣味も手伝って一種のトルコブームがあったと言われています。評判を気にする創作家やエンタティナーは、そんな趣味や流行にも敏感に反応します。モーツァルトもその例外ではなく、当時の異国趣味を反映させた曲、トルコ行進曲を作曲したのでした。トルコ行進曲は単独で演奏される機会が多い曲ですが、本来はピアノソナタ第11番イ長調K.331の第3楽章に納まっている行進曲です。このK.331はモーツァルトのピアノソナタの中では最も有名な曲ですが、それは取りも直さずこのトルコ趣味のお陰なのです。それでも、確かにこの曲は素敵ですが、もっと素晴らしい曲が前に二つ並んであるのです。そうです、第一楽章のバリエーション(変奏曲)と第二楽章のメヌエットです。まあ、好みの問題をとやかく言うのは何ですが、私は調子の良い曲(トルコマーチ)も好きですが、もっと優しい人間の心模様を表した曲(バリエーションやとメヌエット)の方が好きなのです。聴いていて音楽の温かさで心が満たされます。因みに面白い事を教えます。実はこの曲はピアノソナタと名が付いていますが、ソナタ形式を使った楽章はないのです。第一楽章が緩やかなバリエーションの緩叙楽章、第二楽章は舞曲のメヌエット、第三楽章がトルコマーチのロンド(形式)。不思議なソナタですね。
M春の歌 メンデルスゾーン
メンデルスゾーンの「春の歌」はピアノ小品集の「無言歌集」の中に収められている一曲です。この無言歌、調べてみましたら“無言歌”とはメンデルスゾーンの造語だそうで、メンデルスゾーンは中々言葉遊びの上手い粋な男だったようです。ピアノ独奏で言葉は無いけれど歌うような音楽だから無言歌、ドンピシャリの鋭い閃きですね。曲は6曲ずつ8集あり、更に1曲付け足して全49曲が遺されており、それはメンデルスゾーンの全生涯に亘っています。演奏は比較的容易く、子供や女性でも楽しめるように工夫されています。「春の歌」は実にメンデルスゾーンらしいピアノ曲、屈託がなく伸び伸びとして優雅、まあ、幸せな上流階級の音楽です。
N幻想即興曲 ショパン
ショパンの作品の中でも特に有名な曲。音階を多用し、劇的で華やかな印象を与える一部と三部、甘い追憶を歌った名旋律の中間部。正に完璧な作品、これ以上望む事はありませんね。
Oアダージョカンタービレ・悲愴より ベート−ヴェン
ピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」の第二楽章であるアダージョカンタービレ、緩やかに歌うようにの演奏指示記号をそのままこのピース(楽曲の一部分)の題名としています。アダージョカンタービレの名の通りに美しい旋律が歌われていきます。何時聴いても心に染みる歌、この歌を聴いて反応しない人は滅多にいないでしょう。音楽の原点と言ってよい希代の名旋律です。「悲愴」と言う名はベートーヴェン自身が付けました。第一楽章に悲愴の名に相応しい序奏を付けるなど、ベートーヴェンとしては自信を持って発表した曲であり、事実、ベートーヴェン作曲のピアノソナタの最初の傑作でありました。
P夜想曲(ノクターン)第2番変ホ長調 ショパン
少々ショパンが多過ぎますね。まあ、娯楽性の高いピアノ曲の最右翼ですから致し方ないと思いますが、貴族的サロン趣味はもう止めて欲しいですね。だからここでバッハやブラームスを入れても良かったのではないですかね。バッハならフランス組曲辺りから、ブラームスはラプソディなんかが良いですね。このCDに重力が加わります。音楽に人間の重さ加わります。
Q泉のほとりの妖精 カスキ
高音域の右手を使った伴奏で中音域のメロディーを左手で歌わす、透明で神秘的な雰囲気を醸し出しています。伴奏が水を表すのか、妖精の飛翔を表すのか良く判りませんが、中音域の柔らかなメロディーは、自然と人の調和を促し、清澄な祈りへと誘うようです。美しい曲です。ヘイノ・カスキはフィンランドの作曲家、パルムグレン同様に巨匠シベリウス後のフィンランドを代表する作曲家です。三者に共通する特徴はやはりフィンランドの自然への愛なのでしょうか。冷涼な音に熱い愛、それはフィンランドそのものです。
R月の光 ドビュッシー
誰もが知っている世紀のピアノ名曲、美し過ぎると言っても全く過言とは無縁の言動でしょう。一点の汚れもない音の美しさ、音楽の天才にしか書けないピアノ曲です。しかもそこに人間の仄かな情もあります。美しいものに涙してしまう感覚(センス)があるのです。もうこれは音楽の一つの理想像…
S練習曲〜別れの曲 ショパン
またショパン、でもこれは素晴らしい。別れ、それは生きる人間の避けて通れないシーンの一つ。好む好まざるを超越して、去らなければならない者、見送らなければならないも者。だから泣いても笑っても叫んでも無言でも、良い顔をして別れたいですね。相手が元気になるような…