2021年09月18日

ピアノ曲を聴きましょう28 ブルクミュラー25の練習曲 第3曲「パストラル(牧歌)」 2021.09.18

ブルクミュラー25の練習曲の第3曲目は「パストラル(牧歌)」です。パストラルとは、ヨーロッパで好まれた羊飼いが吹く牧笛をイメージしたものを言います。従って「牧歌」とか「田園」の名が連想され、それがタイトルになる場合があります。この曲も明るく爽やかな印象があり、長閑な牧場が思い起こせます。

第3曲「パストラル・牧歌」 

3部形式

ト長調

アンダンティーノ

6/8拍子

ドルチェ・カンタービレ(甘く歌うように)
1部と3部は甘く歌うように、滑らかに弾きます。僕笛の音が広い草原に響き渡ります。中間部(2部)では響きが変わり、少し暗く雲行きの怪しさが感じられますが、直ぐに3部で明るさを取り戻し、歓喜を持って、開放的に終わります。

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2021年09月16日

ピアノ曲を聴きましょう27 ブルクミュラー25の練習曲 第2曲「アラベスク」 2021.09.16

ヨハン・フリードリヒ・フランツ・ブルクミュラーは1806年の12月4日に南ドイツのレーゲンスブルクに生まれました。時は産業革命の最中、富裕層が増大し、中産階級が生まれ、ピアノの需要も驚異的に伸びました。生まれの良い子女たちはピアノを習い、子供向けのピアノ曲の必要性が増大しました。モーツァルトやベートーヴェンのソナチネも弾かれていましたが、もっと易しいピアノ曲の需要がありました。そんな超一流の作曲家ではない、中庸の作曲家の存在も必要でした。その代表がヨハン・フリードリヒ・フランツ・ブルクミュラーでした。中庸の作曲家と卑下しながらの紹介となりましたが、それはある意味では正しいですが、反対に子供のピアノ曲に関しては優れた才能を発揮しました。単純明快な曲作り、されど平易な中に美しいロマンティシズムが感じられます。しかも25曲は個性豊かな粒よりの作品です。見事な子供のためのエチュードです。

第2曲「アラベスク」
アラベスクとはアラビア人が創り出したイスラム美術の装飾模様。円に内接・外接する多角形を基礎とする幾何学的文様と植物の葉・花・蔓などを流麗な唐草模様にしたものがあります。そんな模様の形状を音に擬えたのが「アラベスク」です。シューマンなどもこの名を使い書いています。シューマンは超一流の作曲家でしたので、その内容は複雑深遠です。これは大人向けの「アラベスク」ですからね…。ブルクミュラーは、子供に易しい「アラベスク」を書いたのでした。

イ短調

アレグロ スケルツァンド(速く、戯れるように)

2/4拍子

「すなおな心」に比べれば、テンポは速く、軽快さを出すためにも、指の独立が必要とされます。しっかりと打鍵し、戯れるように、音に表情を付けて弾きます。難易度的には、少し高度な曲です。Nちゃんはアレグレットで弾きました。
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2021年09月15日

ピアノ曲を聴きましょう26 ブルクミュラー25の練習曲 第1曲「素直な心」 2021.09.15

我が孫のNちゃん8歳が、ブルクミュラーの25の練習曲を始めたのが今年の7月15日でした。丁度2か月前ですね。「タタタタ・タタタタ・タタタタタタタタ…」と優しいピアノ音、何とNちゃんは「すなおな心」を弾き出したではありませんか。この時、「とうとうこの日が来た!」と、私は狂喜したのでした。今から50年前、私がピアノ調律師を目指した頃、近所のピアノ教師にピアノ演奏を習っていましたが、バイエルと並んで始めたのが、このブルクミュラーの25の練習曲でした。その内の第1曲が「すなおな心」でした。この美しい曲は私の心奥に沈潜し、それから50年の歳月を要して、Nちゃんの演奏で蘇りました。感慨を新たにしたのでした。

先日の月曜日のレッスンでは、Nちゃんは第4曲の「小さな集い」を仕上げていました。ふた月で4曲の完成です。中々好いペースで、進んでいます。きっちりこなして行けば、あと1年半位で、25曲を弾き通す事が出来るでしょう。ここで、Nちゃんレッスンと並んで、このブルクミュラー25の練習曲の紹介をして行きましょう。優しく・愛らしい・ロマンチックな曲集です。皆さまにもお弾きになることをお勧めします。

第1曲「すなおな心」 ヨハン・フリードリヒ・フランツ・ブルクミュラー

ハ長調

アレグロ モデラート

4/4拍子

8歳の子供ではアレグロでは早すぎますね。まあ、モデラートが適切と思われます。ドルチェ(甘く)の発想記号があり、右手はスラーが掛かっており、常に滑らかに弾くことが求められます。一部短調に傾くところがあり、心の揺れを上手く表現しています。美しい曲です。

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2020年05月14日

ピアノ曲を聴きましょう25 モーツァルトのピアノソナタ第1番ハ長調K.279 2020.05.14

ピアノ・エ・フォルテ(ピアノの古い名・フォルテピアノとも)が生まれて70数年、ピアノは進化し改良されて、チェンバロに代わって広く使われ出しました。モーツァルトも世に倣い、ピアノの曲を書くようになりました。演奏会用ではピアノ協奏曲を、家庭用では練習曲としてピアノソナタを作りました。分けてもピアノ協奏曲はモーツァルトの得意分野、主力はあくまでコンチェルトでしたが、ソナタにも素晴らしい曲があり、私は愛聴しています。

ピアノソナタ第1番は、1775年(19歳)の旅先のミュンヘンで書かれました。都合6曲(1番から6番まで)書かれており、その速筆ぶりが偲ばれます。モーツァルトによって6曲に纏められており、それはこれらのソナタには、デュルニッツ男爵と名乗る依頼者がいて、今日でも「デュルニッツ・ソナタ」の名で呼ばれることがあります。この当時、モーツァルトはハイドンに影響されており、ソナタ形式の習得を目指していました。何とこの第1ソナタは全3楽章を全てソナタ形式で書いています。ハイドンに比べれば、モーツァルトは歌の人であり、器楽曲に於いても旋律美が生命線ですが、それを犠牲にせず、美しい歌とソナタ形式を融合させています。枠組みの中で、天国的な歌の美しさを魅せています。

ピアノソナタ第1番ハ長調k.279
第1楽章 アレグロ ハ長調 4/4拍子 ソナタ形式
溌剌とした楽章、提示部ー繰り返しー展開部ー再現部ーコーダ、美しい歌(メロディー)を巧みに繋げて行きます。澱みの無い清流のような音楽です。

第2楽章 アンダンテ ヘ長調 3/4拍子 ソナタ形式
燦々と降り注ぐ陽光の下で聴くアンダンテです。やがて展開部に至ると翳りを持たせ、木漏れ日の中で憩います。直ぐに明るい再現部が現れ、陽・蔭・陽の対比が絶妙です。19歳の若者が書いたソナタ、驚くべきものです。

第3楽章 アレグロ ハ長調 2/4拍子 ソナタ形式
コロコロと饒舌に発展する音楽、一寸ユーモラスでコケティッシュなフィナーレです。気持ち良く酔わされます。爽快な気分が残ります。

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2020年05月11日

ピアノ曲を聴きましょう24 サティのジムノペディ第1番「ゆっくりと苦しみをもって」 2020.05.11

先日のブラームスのインテルメッツォで、脱力感と申しましたが、このサティのジムノペディほど脱力感を感じさせてくれるピアノ曲は見当たらないので、一寸触れてみます。

「ジムノペディ」と言う名は特異な名で、その語源を解る人は少ないと想われます。私も知らなかったので、少し調べてみました。その語源は、「ギュムノパイディア」で、古代ギリシャの祭典の名称だそうです。それは青少年を集めて、裸にして踊らせ、アポロンやバッカスの神々をたたえる祭だったそうです。サティはこの祭を描いた壺を観る機会があったそうで、それにインスピレーションを得て、このピアノ曲を書いたそうです。

サティは、音楽界の異端児と言われた男で、このジムノペディも従来の旋法では無く、グレゴリオ聖歌などの教会旋法を用いたピアノ曲です。故に独特で斬新な雰囲気を醸し出しています。引き算の音楽とも言われており、装飾音は皆無で、如何に音を少なくして、音楽を語るかに重点が置かれています。退廃的で気怠い、脱力感の音楽ですが、癒しに満ちています。私は好きです。
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2020年05月05日

ピアノ曲を聴きましょう23 ブラームスのハンガリー舞曲第1集・ピアノソロ版 2020.05.04

ブラームスの音楽は、当時の音楽市場で、最もエンターテインメント性からは、かけ離れた存在とされてきました。ソナタにしても室内楽にしても歌曲にしても、一般大衆を夢中にさせるだけの娯楽性が無かったのでした。ところが普段のブラームスは娯楽作品を好んだそうです。オペラ(カルメンが好きだった)やオペレッタ(こうもりなど)も良く観たし、ワルツ王・ヨハン・シュトラウスも大好きでした。それでもそんな娯楽作品は好きでしたけれど、自分には不向きと感じていました。そちらの方に行ったなら、自分は直ぐに行き詰ると考えていたようです。人間の本質に迫り、愛と希望と信仰に基づいた音楽を書くと、心に決めていたのでした。

しかし、そんなブラームスの常日頃の作曲活動からは、いささか逸脱した音楽も作りました。勿論、オリジナルでは無く、編曲でしたが…。若き日に、ヴァイオリンのE・レメーニとどさ回りをした頃、ハンガリー出身のレメーニから、ハンガリー・ジプシーの音楽を教わりました。それらは、ブラームスにとっては目から鱗であって、それからすっかりチャールダ(酒場)の音楽・チャルダッシュに魅了されたのでした。百曲近くのチャルダッシュの楽譜を買い集め、後年、暇を見つけては、それらのメロディーをアレンジし、ハンガリアン・ダンスとして出版(1869年)したのでした。楽譜は大いに売れ、一躍ブラームスは世間一般に知れ渡り、ハンガリアン・ダンスのブラームスとして名を憶えられました。その印税の額は凄まじく、ブラームスは楽譜出版だけで食っていける史上最初の作曲家となったのです。

百曲近く集めたチャルダッシュの中から、気に入ったメロディーを見つけ出し、都合10曲(第1集5曲、第2集5曲)を作曲し出版しました。この10年後には第3集と第4集も作られますが、流石にこちらの方は残り物という感じがして、その存在感は落ちるものがあります。ブラームスに慣れていない人には、第1集・第2集がお勧めです。

ブラームス ハンガリー舞曲第1集

第1番 ト短調 アレグロ・モルト(非常に速く)
遠くを見つめるような出だし、次第に激しい律動が迫り、ジプシーの踊りが展開されます。望郷の思いが込み上げます。

第2番 ニ短調 アレグロ・ノン・アッサイ(十分に快活に)
踊りの輪の中に恋する人がいるのかしら…、メラメラと恋心が燃え始めます。やがて一緒に踊ります。眩く感動の一曲です。

第3番 ヘ長調 アレグレット
一寸ユーモラスです。これは愛の追いかけごっこ、草原に笑い声が響きます。

第4番 嬰ヘ短調 ポコ・ソステヌート(やや抑え気味に)
在りし日の追憶が巡ります。あの人は今何処に…、あの楽しい瞬間は何処に…。

第5番 嬰ヘ短調 アレグロ
情熱と躍動、これがハンガリー舞曲、全21曲の中の王者です。

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2020年04月27日

ピアノ曲を聴きましょう22 メンデルスゾーンの無言歌集Op.62-2 「春の歌」 2020.04.27

ジャスミン
ジャスミン、香り高き花、メンデルスゾーンはジャスミンのような香り?
メンデルスゾーンの作品は体臭の薄い音楽です。常に品が良く、これ見よがしの誇張がありません。しかし無個性かと思いきやそうでは無く、自然な美しさに溢れる上品な音楽を書きました。祖父が哲学者、父は富裕な銀行家で、知的な教育と何不自由のない豊かな生活を与えられました。但し、ユダヤ人であったため、ユダヤ教を止め、キリスト教徒へ改宗したり、ユダヤ故の迫害を受けてきました。死後は、ユダヤ廃絶の急先鋒であった作曲家・R・ワーグナーに否定され、音楽史から抹殺されそうになりました。しかしシューマンやブラームスの尊敬を集めて復活し、メンデルスゾーンは決して抹殺されることはありませんでした。ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団やライプチヒ音楽院を創設したり、音楽の第1の宝・バッハのマタイ受難曲を発掘したり、音楽史上、偉大な業績を上げました。

歌のようなメロディーを持ったピアノ曲、メンデルスゾーンはそれを目指して、美しいピアノ曲を残しました。それは言葉の無い歌と名付けられ、機能優先のピアノ音楽に、一石を投じました。従ってその名は、無言歌の日本語訳となりました。全8集48曲のピアノ曲からなります。

春の歌は、メンデルスゾーンの代表曲です。2分半の短いピアノ曲ですが、メンデルスゾーンの真価が籠められています。ピアノ作曲家は沢山居ましたが、誰がこんな美しい曲を書けると言うのでしょうか? ショパン・シューマン・リスト・ブラームス、否、こんな高貴な花の香りのする音楽は、メンデルスゾーン以外は、誰も書けませんでした。それが迫害に負けずに生き残ったメンデルスゾーンの理由です。
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2020年04月23日

ピアノ曲を聴きましょう21 シューベルトの即興曲(アンプロンプチュー)第2曲 Op.90-2

18世紀末のウィーンは、ハプスブルク家が支配する神聖ローマ帝国(後のオーストリア)の首都でした。政治経済文化の中心で、多くの文化人が集まり、文化の華が開いていました。音楽で言えばハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンの時代、ウィーン古典派の音楽家が活躍していました。ところがこの三氏はウィーン人ではありませんでした。ウィーンに活路を見出そうと、ウィーンにやってきた出稼ぎの音楽家だったのです。しかし到頭、未だベートーヴェンが健在な頃、正真のウィーン生まれのウィーン人の天才が現れました。その名は、フランツ・ペーター・シューベルトと言いました。

ウィーン生まれのシューベルトは友達の多い人でした。定職が無く、ウィーンの友達の住まいを渡り歩く、その日暮しの人だったようです。その天賦の才能と稀な性格の良さから、多くの友はシューベルトを助け、食わしてやり、援助を続けました。苦悩と言えば牧師の父との相剋にあり、常に父と揉めていました。それでも明るい性格で、友達の間を渡り歩いて、膨大な数の名曲を書き殴った人生でした。最後は町の娼婦に貰った梅毒で、この世を去りました。享年31です。

即興曲第2曲変ホ長調Op.90-2 アレグロ ロンド形式
死ぬ1年前の曲です。即興曲と名乗る訳ですから、比較的奔放で自由な筆致がみられます。ピアノ演奏の特徴である音階を多用していて、極めて流動的で、溌剌としています。シューベルトらしい才気に満ちた透明感のある美しいメロディーが聴かれます。長調と短調を組み合わせた巧みなロンドですが、冒頭は長調ですが、コーダ(結尾)が短調で終わります。これは形式としては疑問が残る所で、可成り奔放です。されど正に即興曲、今生まれたばかりの斬新な曲、軽快で美しい…、シューベルトしか書けない音楽ですね。

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2020年04月22日

ピアノ曲を聴きましょう20 ブラームスのピアノソナタ第3番ヘ短調Op.5 2020.04.21

1853年(20歳)は、ブラームスにとって画期的な年になりました。数年前に知り合ったジプシー系のヴァイオリニスト・エドワルト・レメーニと共に、ドイツ各地を”どさ回りの旅”に出ました。この頃のドイツは、どんな芸術家や職人だろうと、一回は各地を回り、修行の旅をしました。ブラームスも世に出ようと、それに倣って、青雲の志を胸に、故郷ハンブルクを旅立ちました。幾つかの街を流し、最初に頼ったのが、レメーニの知り合いで、ファノーファーのオーケストラのコンサートマスターをしていたヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムでした。ブラームスの終生の友となったヨアヒムとの出会いがこの時だったのでした。

二人はヨアヒムに紹介された、ワイマ−ルにあるフランツ・リストの館を訪ねます。しかし、最下層の出であったブラームスは、リストの金満な生活ぶりに敷居の高さを感じ、レメーニを残してそこを去ります。音楽も水と油の違いがあり、飽くまでもエンターテインメントに徹するリストに比べ、ブラームスは古典主義者であり、音楽を第1に考える絶対音楽の立場を取る作曲家を目指していました。率直なブラームスはこの時、音楽理論で、リストに失礼を働いたらしいのです。後年のレメーニの述懐によれば、出来上がったばかりのリストのピアノソナタロ短調を聴いている折、ブラームスが居眠りをしてしまったのだそうです。まあ、これはレメーニの与太話とされていますが、あながち、全くの嘘とは思えません。何故なら、死ぬまでブラームスは、リストの音楽を否定していました。

途方に暮れたブラームスは「困ったら、俺の所に来い!」と言ったヨアヒムの言葉を思い返して、暫くはヨアヒムの厄介になりました。その後、「シューマンを訪ねよ!」の言葉を胸に、ロベルト・シューマンが住むライン地方を徒歩旅行しました。その間、作曲していたのがこの第3ピアノソナタでした。そして到頭、勇気を振り絞って、ブラームスは一人でシューマンを訪ねたのです。運命の出会でした。シューマンは妻クララとともに、ブラームスの作品(ピアノソナタ1番・2番、ピアノ用スケルツォ、歌曲など)を絶賛し、音楽雑誌に紹介文を書いてくれました。更に、楽譜出版の手引きまでしてくれました。この恩に報いるために、シューマンの死後もクララを支え、子沢山のシューマン家の世話を焼きました。クララが演奏旅行で稼いでいる間、ブラームスが家政婦とともにシューマン家の子供たちの面倒を見たのです。クララから預かった家計費を、家計簿までつけて、見事に使い切ったブラームス、大作曲家の思いもよらない楽しい逸話があります。

それからは日夜、シューマンの目指した憧れの古典主義にのっとった、偉大な作品を生み続けました。古典を規範として、そこにロマンの魂を融合させる道、この新しい音楽を創るために、20歳から44年間、休まず働き続けました。このブラームスの新しい道は、成功しました。バロック・古典・ロマンと続く西洋音楽をここで総括したのでした。
第1楽章 アレグロ・マエストーソ(堂々と快速に)
ヘ短調 3/4拍子 ソナタ形式
巨大なソナタ形式の第1楽章、ここでは後年によく見られるモットーがあります。このモットーは各楽章に現れ、全体の統一感を形作っています。懐疑的な第1主題、甘く盛り上がる第2主題、提示部は2回繰り返されます。展開部は打って変わってロマン的情緒に沈潜します。途中1回は盛り上がりを見せますが、直ぐに深い情緒に沈みます。まるで後年の充実した諦観の理念を彷彿とさせます。再現部は激しく力を籠めて進んで行き、完璧な処理でコーダに結びます。モットー・提示部・展開部・再現部・コーダ、圧巻のソナタが展開します。これがソナタ形式です。

第2楽章 アンダンテ・エクスプレッシーヴォ(歩く速さで、表情豊かに)
変イ長調 2/4拍子 三部形式
この楽章にはある詩が掲げられています。シュテルナウ(オットー・インカーマンのペンネーム)の「若き恋」と言う詩作品で、「黄昏は迫り 月影は輝く そこに二つの心、愛で結ばれ 互いに寄り添い、抱き合う」と詠ぜられる詩に感化され、この楽章は出来ました。ありきたりの詩ですが、ブラームスに掛かると、生々しい告白の芸術に生まれ変ります。正に、若き恋の赤裸々な告白の音楽となります。ブラームスは時より、偶に、こんなエロチックな音詩を作る事がありました。

第3楽章 アレグロ・エネルジーコ(力強く快速に) スケルツォ―トリオ ヘ短調
この第3ピアノソナタは異例の5楽章で出来ています。この第3楽章を真ん中にして、1楽章と5楽章が一対、2楽章と4楽章が一対となって、3楽章を中心にシンメトリーを形作っています。エネルジーコの用語の通り、激しく力感的で、奔放なスケルツォです。このソナタの中心・大黒柱の雰囲気が濃厚です。

第4楽章 アンダンテ・モルト
変ロ短調 2/4拍子 「インテルメッツォ・回顧」
第2楽章と連動している楽章、「回顧」の名のシュテルナウの詩がここでも掲げられています。ブラームス特有の追憶の音楽、ブラームスは己を顧みる事が好きなようで、生活はポジティブでしたが、芸術はネガティブだったようです。過去の偉大な芸術の研究をしたり、形式美の研究をしたり、それらを顧みる作品が多いですね。過去と現在を踏まえての未来の可能性、それを見詰めた(見据えた)作曲家、それがブラームスです。

第5楽章 アレグロ・モデラート・マ・ルバート(快速と中速、しかし自由な速さで)
ヘ短調 6/8拍子 ロンド形式
AーB―AーCーAーコーダの形式で進みます。別に数える必要は無く、音楽がこのように理論立てて作られている事が解れば、音楽鑑賞にも幅が出来ます。コーダ(結尾)はカノンを用いています。巨大なエンディングです。

ブラームスはこの3番で、一定の満足感を得られました。もうピアノソナタは必要ないと確信しました。今後はひたすらシンフォニーの復活に人生を賭けます。


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2020年04月18日

ピアノ曲を聴きましょう19 ショパンのノクターン第13番ハ短調Op.48-1 2020.04.18

ハ短調 レント(ゆっくりと) 4/4拍子 三部形式

1841年、愛人・ジョルジュ・サンドと生活をしたノアン村で書かれました。虚弱体質のショパンは、ジョルジュ・サンドに守られて、充実した生活を送っていました。作品も優れたものが多く、ノクターンももう一曲(嬰へ短調)書かれました。

初めはレントで静かに現れますが、次第にハ短調の悲劇性を帯びてきます。モルト・ピウ・レント(もっとゆっくりと)の中間部で、一時平穏を保ちますが、愈々、激しさを増して行きます。再現部はトッピオ・モヴィメント(倍の速さで)で、ノクターンとしては破格の激しさ持ち、そのままコーダ(結尾)に雪崩れ込んで行きます。言い知れぬ情念を秘め、最後は諦めるように静かに終わります。悲劇性があり、劇的な盛り上がりを持つ、ノクターンの傑作です。
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2020年04月13日

ピアノ曲を聴きましょう17 ムソルグスキーの展覧会の絵

19世紀にロシアの作曲家が作ったピアノ曲は少なく、現代まで残っている曲は、チャイコフスキーの組曲「四季」とこのムソルグスキーの「展覧会の絵」くらいです。勿論20世紀に入れば、ラフマニノフやスクリャービン、プロコフィエフにショスタコーヴィチなどが輩出し、優れたピアノ曲が沢山生まれています。

フランス・ドイツ・イタリアの文化圏に属していたロシアでしたが、19世紀後半になると、ロシア独自の文化を押し出そうとする動きが湧いてきます。音楽で言えば「ロシア五人組」の国民楽派が台頭してきた時代です。五人組(M・バラキエフ、T・キュイ、モデスト・ムソルグスキー、A・ボロディン、N・リムスキー=コルサコフ)は、西ヨーロッパの文化を否定し、ロシア独自の文化・音楽を創造しようと集まった5人の素人作曲家たちでした。

その中でも、最もロシア的な表現をしたのがモデスト・ペテロヴィッチ・ムソルグスキーで、飛び切りの天才でした。但し、精神的な脆さも併せ持ち、アルコール中毒を患い、惜しいことですが、早世しました。本職は武官であり、音楽活動は余技でした。殆ど独学で作曲を学び、歌曲やオペラを中心に作曲活動をしていました。音楽史上に残る傑作は、歌劇「ボリス・ゴドゥノフ」、管弦楽曲「禿山の一夜」、そして大傑作「展覧会の絵」です。

1874年作の「展覧会の絵」は、19世紀のロシアが生んだ最高のピアノ音楽で、その音楽的資質は膨大であり、後の世にラヴェルにより、管弦楽組曲に編曲されました。そしてこの管弦楽版が最初にヒットをし、世に認められ、やがて原曲のピアノ版も認知されて、今日では多くピアノ演奏会の曲目に取り上げられています。

友人の画家・ヴィクトル・ハルトマンが亡くなり、その遺作展が開かれたそうです。ムソルグスキーは、400点にも及ぶ絵の中から、特に印象に残った作品(11作品)を、音で表したいと思い、ピアノ曲に纏めました。構成は11の作品の隙間を埋めるため、プロムナードと名付けた間奏曲を曲の前後に入れ、絵画展覧会の雰囲気を作っています。

@プロムナード
一つの主題を変奏して、各絵の繋ぎに使われています。

Aこびと(グノーム)
グノームとは、地底を守る小人の事。地底を素早く動生きまわる土の精の事だそうです。ネットで絵も観られますが、ムソルグスキーの想像の翼は大きく飛翔します。暗黒の土の世界を彷彿とさせます。

Bプロムナード
前プロムナードに比べ非常に静かな音楽です。

C古い城
中世イタリアの城のようですね。メロディーがエキゾチックです。深い陰影に彩られて立つ城です。

Dプロムナード
元気で明るいプロムナード。

Eテュイルリー(遊びのあとの子供たちの口喧嘩)
パリの中心部のルーヴル宮の前にあるテュルリー公園で、子供を描いたもの。音楽はこの口喧嘩をものの見事に活写しています。ムソルグスキーの風景描写力が際立った作品です。

Fブィドロ(牛車)
直ぐに同じような音型を使って、正反対の重々しいブィドロの音楽が展開していきます。ポーランド語のブィドロには二つの意味があるそうで、一つが「牛車」、もう一つが「家畜のように虐げられた人々」だそうで、ムソルグスキーの皮肉を込めた社会批判が感じられます。表現主義・自然主義・現実主義の側面が垣間見えます。

Gプロムナード
暗い少し陰険なプロムナード

H殻をつけたままのひよこのバレエ
題を読んだだけで、想像がつきますよね。可愛く?て滑稽!な絵。それを巧妙に音で表します。

Iザムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ
傲慢な金持ちザムエル・ゴールデンベルクと貧乏で卑屈なシュムイレの会話を映しています。これは二人のユダヤ人の絵をつなぎ合わせ、音にしたものです。当時のロシアでは、ユダヤ人は虐げられていたそうです。ここでもムソルグスキーの正義感と、社会批判が頭をもたげています。

Jリモージュ市場
中部フランスの都市・リモージュの市場の風景を捉えた絵、忙しないけれど明るい音楽です。ムソルグスキーは、ここでは女たちが喧嘩をしていると言っています。

Kカタコンブ(ローマ時代の墳墓)
カタコンブとはローマ時代に作られた墳墓、パリの地下に広がっています。絵の作者・ハルトマンが語ったところによれば、この絵はヴィクトル・ユーゴの「レ・ミゼラブル」の中のカタコンブの描写から想像して描いたのだそうです。夥しい頭骸骨が描かれているそうです。ムソルグスキーは、ハルトマンの死を悼んで、この絵に曲を付けたようです。強い慰霊の念が感じられます。

L死者たちと死せる言葉で
カタコンブの続き、もう一度、ハルトマンの霊に同情と別れを告げています。

Mにわとりの上に立つバーバ・ヤーガの小屋
何とも奇怪な伝説上の魔女・バーバ・ヤーガが住むと言う、鶏の足に見立てた柱の上に立つ小屋。不思議な魔界に住む魔女を著した原始の激しいピアノが咆哮します。これは彼のストラヴィンスキーに通じる原始の音で満ちています。血沸き肉躍る、人間が生の根本に持つ、抑止しがたい欲求を表出した音楽です。

Nキエフの大門
かつてあった黄金のキエフの大門、破壊された大門を再建すべく、この当時再建コンテストが行われました。画家で建築家のハルトマンは、それに応募をしました、しかし、残念ながら再建は中止になり、ハルトマンは無念の涙を流しました。されどその精密な設計図と図柄は残り、遺作展に飾られました。それを観たムソルグスキーは、渾身の思いで、その絵に音楽を付けました。「展覧会の絵」の最後を飾る「キエフの大門」、不滅の名作になりました。

演奏:編曲(ピアニストでなかったムソルグスキーのピアノ技法上の欠点を補ったホロヴィッツの編曲で、このピアノ曲は蘇ったのです)
ピアノ:ウラディミール・ホロヴィッツ
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2020年04月11日

ピアノ曲を聴きましょう16 リストのカンパネラ 2020.04.11

ブラームスは、作曲家・ワーグナーだけを認めていましたが、他のワーグナー一派は馬鹿にしていました。その最大の批判の対象はフランツ・リストで、『音楽は空虚であり、気取り屋のカッコ付けマン』と揶揄していました。それが当たっているか当たっていないか、それは各々の音楽ファンが決める事、私はリストの音楽は、決して上品ではありませんが、聴き易く、美しく、面白い音楽と想っています。

リストはピアニストとして、ピアノ演奏の究極の技法を編み出した人で、その技巧に依る興奮と音の美しさで聴衆を酔わせる一大エンターテナーでした。容姿と超絶技巧が最大の武器でした。今日日本のジャニーズ系のイケメンであり、女性音楽ファンを増大させた立役者でありました。貴族既婚女性と愛人関係(不倫で、宗教上結婚できなかった)を結ぶ、女たらしであった事も事実のようです。

ヴァイオリンのパガニーニに私淑し、『俺はピアノのパガニーニになる』が口癖のようでした。この「カンパネラ」も原曲がパガニーニであって、 パガニーニのヴァイオリン協奏曲第2番の第3楽章、ロンド「ラ・カンパネラ」から主題を借用しました。

このカンパネラは、高音のピアノ弦が華麗に響く快作であり、リストと言えばカンパネラ、と言われるほどの有名な曲です。左手の大きな跳躍の正確性、薬指と小指のトリルなどの柔軟性、完全に演奏するには超絶技巧が必要であり、当時は本人のリストしか演奏できない前代未聞の難曲のようでした。得意満面のリスト、でもそこをブラームスが嗤ったのだそうです。

演奏
ピアノ:イングリット・フジコ・ヘミング


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2020年04月10日

ピアノ曲を聴きましょう15 シューマンの「アラベスク」Op.18 2020.04.10

ピアノの詩人と言う言葉があります。普通、それはフレデリック・ショパンに付けられた代名詞ですが、私が思うには、ショパン以上のピアノの詩人は確実にいます。ピアノの詩人とは、どんな人を指すのでしょうか? ピアノの音を使って、そこから情感や情景を的確に著せる作曲家を意味します。まあ詩人と言えば、ロマン派の作曲家が良いですね。ショパンはピアノの音を美しく表現できる人ですね。気持ち良くウットリ酔わせる人です。それでも情感や情緒、情景をより巧みに著せる作曲家にはシューマンがいます。そして更に心理や思想を著せるブラームスがいます。そう、この三人が、ピアノの詩人と言って的確な作曲家ですね。三人合わせれば、無敵と言えますが、そうはいかなかったですね。

30歳前のシューマンが一時期ウィーンに滞在していた時期があります。クララとの結婚前ですね。音楽雑誌の刊行をしたり、シューベルトなどを研究していて、何と交響曲「グレート」の楽譜を発見したりしていました。そんなウィーン滞在中に作曲されたのが、このピアノ独奏曲「アラベスク」でした。

アラベスクとはイスラムのアラビア模様を言い、所謂唐草模様を指します。この模様のうねうねした様をピアノ音に映し出し、ロンド形式に纏めました。主題と挿入の二つのメロディーを繋ぎ合わし、6分半の曲に纏めました。その文様とシューマンの音楽は見事に溶け合い、何とも斬新な音の唐草模様が出来上がりました。ピアノの詩人の面目躍如たる名曲です。

演奏
ピアノ:ウラディミール・ホロヴィッツ
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ピアノ曲を聴きましょう14 ショパンのノクターン第7番嬰ハ短調Op.27-1

ショパンのノクターンは、どちらかと言えば、人の好みに合わせた音楽、聴衆を気持ちよくさせようと、媚びを売る音楽です。それでもこの第7曲は真剣さが漂い、己の思想と感情を表そうとしています。これはエンターテインメントからは、少し外れた傾向です。その極端な人がブラームスですが、この第7曲、それ故に、私の好みに合致する曲です。自分を中心に置いています。

三部形式、嬰ハ短調、4/4拍子・中間部は3/4拍子、アレグレット、途中からピウ・モッソ(もっと早く)。

低音部の5度の神秘的で美しい伴奏、溜息のような高音のメロディー、胸に情熱を秘めた魅力的な提示部が現れます。やがて中間部で、秘めた情熱が爆発します。束の間の納得の勝利?が得られます。それでもまた悲しみの底に…、引きずり込まれそうになるのです。しかし、その天上には、淡い希望の光が射しています。

演奏
ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン

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2020年04月07日

ピアノ曲を聴きましょう13 ショパンのノクターン第3番ロ長調Op.9-3 2020.04.07

ブラームスの緊迫とは正反対のリラックスを絵に描いたようなショパンのノクターン、ブラームスに聴き飽きた時には、口直しに丁度良い音楽です。メロディー・リズム・ハーモニー、全てが平易で美しい、覚悟も予備知識も要らない音楽です。唯、その美しいピアノの響きに身を委ねれば好いのです。

第3番はロ長調でアレグレットです。明るくお洒落で、小気味の好い音楽です。20曲余りあるノクターンの中では陽性な曲の一つです。サロンのテラスで流れたら最高に楽しめると想われます。そう言った意味でも都会派の音楽です。上流階級の中で生きたショパンならではのハイソサエティーな趣味に満ちています。

中間部はやや気紛れになり、悲劇性も兼ねています。しかし、再現部に入れば、再び流れるような美しいメロディーが歌い出し、聴き手を安堵させます。心憎い演出です。

演奏
アルトゥール・ルービンシュタイン
私のショパンのCDライブラリーは貧弱ですが、このルービンシュタインのノクターンの一枚は、ほぼ理想的な演奏と確信しています。良く整音されたスタンウェイのピアノを使用していると想われます。ステレオ録音で、伸びやかな響き、好い録音です。
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2019年06月30日

ピアノ曲を聴きましょう12 ベートーヴェンの「悲愴ソナタ」 2019.06.30

偶にCDの収納棚を調べてみると、思いもよらぬCDが見付かることがあります。購買したものであり、その節は大いに聴いたのですが、何れ、忘れて仕舞い、お蔵入りとなっていました。でも嫌いな楽曲ではないので、久し振りに聴いてみました。

それは古い録音で、1954年のニューヨーク・カーネギーホールのライブ録音で、ドイツ(オーストリア生まれ)のピアニスト、ウィルヘルム・バックハウス演奏のベートーヴェンの5曲のピアノソナタでした。今回は、ベートーヴェン最初のピアノソナタの傑作「悲愴ソナタ」を紹介します。

音楽の都・ウィーンに移って7年が過ぎ、ベートーヴェンの作曲活動も順調になった頃、このピアノソナタ第8番ハ短調Op13〈悲愴〉が生まれました。非常な自信作であったので、ベートーヴェンとしては珍しい副題(ニックネーム)のオマケまで付けて発表されました。1799年の事でした。

副題の根拠は第1楽章の序奏にあります。この序奏が極めて悲劇的であって、1楽章の内に3回も登場すると言う熱の入れようで、この序奏の悲愴感漲る情熱こそがベートーヴェンの新たな創作の源泉と言う事ができます。ハイドンやモーツァルトに無い、激烈な表現を目指そうとベートーヴェンが目の色を変えて挑んだ魂の高揚が感じられます。

第1楽章 グラーベ-アレグロ・ディ・モルト・エ・コン・ブリオ
グラーベの悲愴感漲る序奏。それに続くアレグロの緊張感溢れる提示部へ、再び序奏のテーマが出現し、短い展開部へ、そして再現部へ、最後にコーダの前で情熱を抑えた序奏が始まり、直ぐにコーダに流れて終わります。

第2楽章 アダージョ・カンタービレ
希代の名旋律、様々なアレンジにより通俗化されて使われています。私だけの感覚ですがモーツァルトのK457ハ短調の緩徐楽章に似ています。恐らくベートーヴェンはこのモーツァルトからインスピレーションを貰っています。ベートーヴェンとしては破格の名旋律です。

第3楽章 ロンド・アレグロ
甘い感傷的な旋律で始まるロンドです。ところがこれがベートーヴェンの真骨頂で、甘い旋律が徐々に活性化してダイナミズムを発揮して行きます。最後は熱を孕み、断固とした圧倒的なフィナーレで締め括ります。

バックハウスは澱み無い端正な演奏で、美しいピアニズムを聴かせてくれます。それでも情に流されず、石像彫刻のような重みと充実感があります。一つの理想のベートーヴェン像を構築しています。

使用ピアノは恐らくニューヨークですので、スタンウェイだと思われます。ヨーロッパではベーゼンドルファーを使っていたバックハウスでしたが、流石にこの時代にはピアノを空輸してはいなかったようです。ベーゼンドルファーの厚くソフトな響きとは異なる音の通りの良い華やかな響きが感じられました。日本に来た時もスタンウェイを使っていました。

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2017年09月24日

ピアノ曲を聴きましょう11 三上夏子音楽紙芝居演奏会の開催のお知らせ 2017.09.24

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久し振りに三上夏子のライフワーク・音楽紙芝居のお知らせができます。まだ詳しい内容は私にも内緒なのですが、ピアノ教則本のブルクミュラーの練習曲を題材にした三上夏子本人の脚色が、紙芝居の中心になるようです。練習曲の何曲かを弾いて興味深いお話を付けるようです。

作画は夏子の中学生時代の美術の先生である池田和美先生です。どんな絵?、どんなお話?、またどの曲がセレクトされているのか? 興味津々ですね。
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2013年09月21日

ピアノ曲を聴きましょう10 Nちゃんに贈った二枚目のCD・Famous Piano Music 2013.07.13

 音楽を骨の髄まで愛する三上家では《私は》、たとい孫のNちゃんが外孫《因みに我が家に内孫が生まれる可能性は多分ゼロ》であろうとも、音楽好きになる事を望んでいます。勿論、無理やりに音楽家の道を押し付ける積もりは毛頭ありませんが、是非、歌《最初は次女ママKさんが歌ってやって、その内、少年少女合唱隊に入れたい、歌は素晴らしい》と一つの楽器《初めはKさんが手解きして、ゆくゆくは夏さんに本格的にピアノを…、ピアノは音の並びを覚える絶好の楽器》を嗜《たしなむ》んで欲しいものです。何故かと言えば、本当の意味で音楽を知れ《理解する》ば、その人の人生に大きな力《助け、私がその例》となるからです。音楽を始めとする芸術は、人の心を育てます。Nちゃんの心に、善と正義、勇気と忍耐、希望と信頼、そして博愛が芽生えれば、Nちゃんが愛情深い幸せな一生を送る糸口が見付かると私は信じています。私はそれをNちゃんに授ける一助がしたい…、そのために、その機会が巡ればその度に、私はクラシック音楽のCDを送ろうと心に決めています。

 過去にNちゃんに贈ったCDは、生まれる前の胎教の目的でKさんに贈った数枚と、今年3月にNちゃんに直接?贈った“パニス・アンジェリクス”の一枚がありました。あの時のNちゃんの反応が素晴らしく、Kさんの印象も良かったので、今回は是非ともピアノ小作品の有名どころを聴かせたいと想いました。7月のある日、私は横浜西口のCD屋に立ち寄り、吟味の末、“Famous Piano Music”のタイトルを持つピアノ小品集を選びました。これには全13人の有名ピアノ曲作曲家による全20曲のピアノ小品が並んでおり、現代の優秀なピアニスト達の演奏で収められています。

◎曲の紹介
@夜想曲 グリーグ
これは北欧のショパンと呼ばれたグリーグが、生涯に亘って書き溜めた抒情小曲集六十六曲の中の一曲です。ノクターンの名を持つ夜のムード溢れる曲ですが、パリに住んだショパンのような都会趣味と陶酔はありません。その代わり、僻地ノルウェーのグリーグだからこその素朴と清潔があります。あくまでも透明で清澄なピアノ音、そこには北国の冷気さえ漂っているようです。暑気の日本には打ってつけの音楽かも知れません。気持ちだけでも涼しくなります。

Aトロイメライ シューマン
トロイメライと言えばシューマン、シューマンと言えばトロイメライ、シューマンの代名詞となったピアノ小品の傑作です。白日夢と訳されるトロイメライ、夢幻の世界を彷徨ったシューマンならではの音楽詩、正にピアノの詩人でなければ書けない異次元の世界です。この別世界の雰囲気を幼いNちゃんはどう受け止めるのでしょうか?、興味津々ですね。因みに子供の頃《小学生》の私はこの曲と衝撃の出会いをしました。旅先で眠れぬ夜を過ごしていた私にある人が、このトロイメライのオルゴールを掛けてくれました。その何とも言えぬ摩訶不思議な夜のムード、しかも得も言われぬ心を融けさせるメロディー、その突然の衝撃にますます眠れなくなり、魔界に放り出されたかの如く、私は鳥肌を立てながら呪文のようにそのメロディーを口ずさんでいました。「♪ららーん♪、♪ららららららーん♪、♪らららららららららららららーん…♪」。それでもそれからは、そのメロディーだけが私の耳に焼き付いて離れず、肝心の「トロイメライ」の名を知るのは、私が中学生になってからでした。

Bワルツ7番 嬰ハ短調 OP.64-2 ショパン
ショパンのワルツは、ヨハン・シュトラウスのウィンナワルツのように直接踊りと係わるものでなく、ピアノ曲の一つの様式として存在しています。ですから繊細で夢見るようにあどけなくセンチメンタルで、そこに個人の私的感情を色濃く表現しています。少し練習すれば?弾けるように?なりますよ。熟年の皆様も是非どうぞ!…、眠っているピアノが役立ちます。

C子犬のワルツ 変ニ長調 OP.64-1 ショパン
このCDでは前の嬰ハ短調と順番が逆さまに並べてありますが、この曲の方が先で作品64-1です。ショパンの恋人《愛人》ジョルジュ・サンド《女流作家、恋多き男装の麗人》が飼っていたサンドの愛犬がモデルで、サンドの強い勧めでショパンに書かせたと言うのが真相のようです。それでも流石は当代随一のピアノの詩人・ショパン、子犬の仕草や動作を巧みに表現して、人気絶大なワルツに仕立て上げました。

D愛の夢 リスト
初め歌曲として発表されたものを人気にあやかってピアノ独奏用に編曲した作品。歌曲として人気が高かったため、リストは同じ元手を使い、柳の下の二匹目のドジョウを狙ったと想われます。まあリストに限らず、プロの作曲家は売らんがためにあれこれ方策を試みるものです。結果、願ったり叶ったりで、楽譜も演奏会チケットも売れに売れました。リストは王様のように大邸宅《御殿》に住んでいました。

Eエリーゼのために ベートーヴェン
ベートーヴェンは、己の事を力強く男っぽい《男らしい》作曲家だと自負していました。「英雄」、「熱情」、「運命」、「皇帝」など、勇ましい副題を持つ曲がありますが、それらがそのベートーヴェンの性格を如実に証明してみせています。ところが、女心を取り入れた愛らしい曲も書いたのですね…、心ならずも…。 惚れた弱みでしょうか、センチメンタル・オトメチック大嫌いなベートーヴェンも遂にタブーを犯してしまいました。エリーゼが誰なのか?本当はテレーゼではないのか?、諸説あり、未だに研究者は詮索に余念がありません。しかし私はそんな事はどうでも良く、哲人・ベートーヴェンも普通の男の一面を持っていた…、女性に恋い焦がれてメロメロだった…、その事が判るだけでもこの曲の価値は高いですね。愛情の籠った良い曲です。

F即興曲 OP.90-2 シューベルト
全4曲の内の第2曲で、変ホ長調・アレグロの曲。快速のテンポで進むその推進力は中々気持ちの良いもの…。即興曲《アンプロンプチュ》の名に相応しく、今生まれたかのような澱みない生命感で溢れています。ところがこの即興曲の名は、シューベルトが考え付けた名ではなく、出版するに当たって楽譜出版商のハスリンガーが当時流行り出したこの曲名を選び、名付けたのでした。それでもシューベルトはその名が気に入ったそうで、問題は無く、そのお陰で即興曲の名は今日までも生き残りました。その後の作曲家では、ショパンやフォ-レ、ラフマニノフ等が即興曲の名を借りて名曲を残しています。

G前奏曲「雨だれ」 ショパン
バッハの平均律クラヴィーア《長短各十二の調性に基づき、二十四のプレリュードとフーガからなり、それが二巻ある大作》に感化されて書いたと言われるショパンの二十四の前奏曲《プレリュード》集OP.28は、勿論、一巻でありフーガはなくプレリュードだけですが、バッハと同様に長短各十二の調性に基づいて二十四曲《但し、調性の並びはバッハと異なる》が書かれました。ロマン派の時代に、発想力・構成力で、音楽の巨人・バッハに挑戦したその志の高さは、大いに評価されるべきでしょう。この二十四の前奏曲の中の第十五番変ニ長調ソステヌートが「雨だれ」で、全編を通して雨だれを模した持続音が鳴り、それをなぞるように曲は展開されて行きます。冒頭は雨だれも静かで、そこに甘い懐古の歌が歌われます。優しい歌で恋の希望と愛の安らぎに満ちています。しかしその安息も長くは続かず、雨だれも力を増して悔恨の嵐が吹き荒びます。仲違いをしたのでしょうか、恋人は去って行きました。それでもやがて、雨も小降りとなり雨だれも優しく時を刻み出します。するとあの人は帰って来ました。優しいあの歌を歌いながら…。美しくも力強い曲、雨の日の詩情が溢れます。正に雨だれが誘う抒情詩、傑作です。

H四季〜トロイカ チャイコフスキー
1875年、あるロシアの雑誌が四季に纏わる詩と音楽を月一回、ひと月毎に連載する企画を立てました。詩は何人かの詩人に割り振って著して貰い、その詩を基に作曲を担当したのがチャイコフスキーでした。その年の12月から翌年の11月に掛けて1曲ずつ全12曲のピアノ独奏曲が発表されました。そして10年後の1885年に全12曲を纏め、組曲「四季」OP37aと題して出版されたのでした。トロイカはその内の11月のページで紹介されましたが、この頃のロシアは旧歴を使っていたらしく、旧暦11月と言えば新暦の12月頃、ロシアの大地には充分の積雪がある頃。ですから、トロイカが11月に紹介されたのは肯けます。と言うのも、トロイカとは三頭立ての馬橇(そり)の事を言うからです。勿論雪のない夏には馬車仕立てとしますが、本来は雪道を走る馬橇の事なのですよ。旧暦11月(新暦12月、真冬)にトロイカはピッタリ正解なのです。因みに、その他の月も紹介して置きますね。一月「いろりばた」、二月「謝肉祭」、三月「ひばりの歌」、四月「松雪草」、五月「五月の夜」、六月「バルカローレ《舟歌》」、七月「刈り入れ人の歌」、八月「収穫」、九月「狩りの歌」、十月「秋の歌」、十一月「トロイカ」、十二月「クリスマス」。トロイカは長閑(のどか)で爽快な気持ちのよい作品です。ロシアの雪原をひた走る三頭立ての馬橇・トロイカ。その颯爽とした姿を彷彿とさせます。蹄の音も静かながら小刻みに聴こえてきます。

I五月の夜 パルムグレン《1878〜1951》
「フィンランドのショパン」と言われたセリム・パルムグレン、近代フィンランドを代表するピアニストにして作曲家です。日本のピアニスト・舘野泉などの紹介により、近年一般に知られるようになりました。グリーグの項で述べたショパンの影響は、このパルムグレンに於いては尚も強く、ショパンの書いた「二十四の前奏曲」を踏襲する同じ名の作品を残しました。生涯の作品の大半は3分にも満たないピアノ小品群(300曲)ですが、北欧の風土を色濃く映したピアニズムは地味ながらも魅力的です。白夜であろうフィンランドの五月の夜、そこにショパンの熱病はありませんが、仄かにやる瀬無いパルムグレンの慕情があります。「五月の夜」、そこからは常に心地よい風が吹いていました。

J亜麻色の髪の乙女 ドビュッシー
フランスのピアノ曲の良さが際立つ名作。繊細で都会的、極めて上品な表現の中に仄かな人間味が漂います。一点の汚れない無垢な官能性と奥床しい精神性が絶妙のバランスで表現されているのです。これがフランスですね、これがドビュッシーですね。

Kスペイン舞曲「アンダルーサ(アンダルシア風)」 グラナドス
イサーク・アルベニスの後輩に当たるエンリケ・グラナドスは、アルベニス同様にスペインの民族音楽を芸術の域に押し上げた作曲家です。スペインにはアンダルシアのジプシーフラメンコやアラゴンのホタなど、地方地方に特有の舞曲のリズムがあり、グラナドスはそれらを活用して、ピアノのための十二のスペイン舞曲を書いたのでした。その内の一曲で第五番ホ短調の「アンダルーサ」は、アンダルシア風の意味合いがあり、スペイン南部のジプシーフラメンコのリズムを活用したものです。従ってギター的書法が顕著で、本来はピアノ曲ながら、ギター版も人気が高く頻繁に演奏されます。小気味良いリズムと情感溢れるメロディーには、南欧の異国情緒が横溢しており、聴けば臨場感たっぷりで、まるでスペイン旅行をした気分?になります。酔わせてくれます。

Lトルコ行進曲 モーツァルト
当時のヨーロッパの人々にとって最も異国と想われていた国はオスマントルコでしょうか。イスラムの超大国で、長年西側ヨーロッパ諸国はオスマンの侵略(ウィーン包囲等)に苦慮してきました。しかしこの頃は、もう既に脅威の侵略国家では無くなっていたので、異国趣味も手伝って一種のトルコブームがあったと言われています。評判を気にする創作家やエンタティナーは、そんな趣味や流行にも敏感に反応します。モーツァルトもその例外ではなく、当時の異国趣味を反映させた曲、トルコ行進曲を作曲したのでした。トルコ行進曲は単独で演奏される機会が多い曲ですが、本来はピアノソナタ第11番イ長調K.331の第3楽章に納まっている行進曲です。このK.331はモーツァルトのピアノソナタの中では最も有名な曲ですが、それは取りも直さずこのトルコ趣味のお陰なのです。それでも、確かにこの曲は素敵ですが、もっと素晴らしい曲が前に二つ並んであるのです。そうです、第一楽章のバリエーション(変奏曲)と第二楽章のメヌエットです。まあ、好みの問題をとやかく言うのは何ですが、私は調子の良い曲(トルコマーチ)も好きですが、もっと優しい人間の心模様を表した曲(バリエーションやとメヌエット)の方が好きなのです。聴いていて音楽の温かさで心が満たされます。因みに面白い事を教えます。実はこの曲はピアノソナタと名が付いていますが、ソナタ形式を使った楽章はないのです。第一楽章が緩やかなバリエーションの緩叙楽章、第二楽章は舞曲のメヌエット、第三楽章がトルコマーチのロンド(形式)。不思議なソナタですね。

M春の歌 メンデルスゾーン
メンデルスゾーンの「春の歌」はピアノ小品集の「無言歌集」の中に収められている一曲です。この無言歌、調べてみましたら“無言歌”とはメンデルスゾーンの造語だそうで、メンデルスゾーンは中々言葉遊びの上手い粋な男だったようです。ピアノ独奏で言葉は無いけれど歌うような音楽だから無言歌、ドンピシャリの鋭い閃きですね。曲は6曲ずつ8集あり、更に1曲付け足して全49曲が遺されており、それはメンデルスゾーンの全生涯に亘っています。演奏は比較的容易く、子供や女性でも楽しめるように工夫されています。「春の歌」は実にメンデルスゾーンらしいピアノ曲、屈託がなく伸び伸びとして優雅、まあ、幸せな上流階級の音楽です。

N幻想即興曲 ショパン
ショパンの作品の中でも特に有名な曲。音階を多用し、劇的で華やかな印象を与える一部と三部、甘い追憶を歌った名旋律の中間部。正に完璧な作品、これ以上望む事はありませんね。

Oアダージョカンタービレ・悲愴より ベート−ヴェン
ピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」の第二楽章であるアダージョカンタービレ、緩やかに歌うようにの演奏指示記号をそのままこのピース(楽曲の一部分)の題名としています。アダージョカンタービレの名の通りに美しい旋律が歌われていきます。何時聴いても心に染みる歌、この歌を聴いて反応しない人は滅多にいないでしょう。音楽の原点と言ってよい希代の名旋律です。「悲愴」と言う名はベートーヴェン自身が付けました。第一楽章に悲愴の名に相応しい序奏を付けるなど、ベートーヴェンとしては自信を持って発表した曲であり、事実、ベートーヴェン作曲のピアノソナタの最初の傑作でありました。

P夜想曲(ノクターン)第2番変ホ長調 ショパン
少々ショパンが多過ぎますね。まあ、娯楽性の高いピアノ曲の最右翼ですから致し方ないと思いますが、貴族的サロン趣味はもう止めて欲しいですね。だからここでバッハやブラームスを入れても良かったのではないですかね。バッハならフランス組曲辺りから、ブラームスはラプソディなんかが良いですね。このCDに重力が加わります。音楽に人間の重さ加わります。

Q泉のほとりの妖精 カスキ
高音域の右手を使った伴奏で中音域のメロディーを左手で歌わす、透明で神秘的な雰囲気を醸し出しています。伴奏が水を表すのか、妖精の飛翔を表すのか良く判りませんが、中音域の柔らかなメロディーは、自然と人の調和を促し、清澄な祈りへと誘うようです。美しい曲です。ヘイノ・カスキはフィンランドの作曲家、パルムグレン同様に巨匠シベリウス後のフィンランドを代表する作曲家です。三者に共通する特徴はやはりフィンランドの自然への愛なのでしょうか。冷涼な音に熱い愛、それはフィンランドそのものです。

R月の光 ドビュッシー
誰もが知っている世紀のピアノ名曲、美し過ぎると言っても全く過言とは無縁の言動でしょう。一点の汚れもない音の美しさ、音楽の天才にしか書けないピアノ曲です。しかもそこに人間の仄かな情もあります。美しいものに涙してしまう感覚(センス)があるのです。もうこれは音楽の一つの理想像…

S練習曲〜別れの曲 ショパン
またショパン、でもこれは素晴らしい。別れ、それは生きる人間の避けて通れないシーンの一つ。好む好まざるを超越して、去らなければならない者、見送らなければならないも者。だから泣いても笑っても叫んでも無言でも、良い顔をして別れたいですね。相手が元気になるような…
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2013年09月03日

ピアノ曲を聴きましょう9 今月の三上夏子エリスマン邸生演奏 2013.09.03

 もう何回目になるのでしょうか? 昨年の春頃からですから10回は数えられるでしょうか? ホントにピアノが好きなのですね。よく続いています、感心します。因みに今回は、今日演奏したプログラムを記してみます。ご参考までにどうぞご覧ください。

1、プレリュード1番ハ長調 J・S・バッハ
2、乙女の祈り T・バダルジェフスカ
3、メロディ R・シューマン
4、楽しき農夫 R・シューマン
5、ワルツイ短調 F・ショパン
6、エリーゼのために L・v・ベートーヴェン
7、ポロネーズト短調 F・ショパン
8、ベネツィア(ベニス)の舟歌 F・メンデルスゾーン
9、アダージョ・カンタービレ(ピアノソナタ「悲愴」第2楽章) L・v・ベートーヴェン
10、レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ F・ショパン
11、ワルツホ長調 F・ショパン
12、愛の挨拶 Sir・E・エルガー
13、楽興の時 F・シューベルト

以上の曲を澱みなく滑らかに弾いてくれました。静寂のエリスマン邸、午前の優雅な一時を過ごせました。 
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2013年09月02日

ピアノ曲を聴きましょう8 明日は娘・夏子のエリスマン邸生演奏(九月三日) 2013.09.03

 明日は娘・三上夏子のエリスマン邸生演奏の日。何か今月は何時もの二週目ではなく、第一週にやるそうです。ピアノ修理の仕事を抱えてる私ですが、先月は聴き逃したので、今月こそ時間を作り聴きに行く積もりです。さてどんな曲を聴かせてくれるのでしょうか、レパートリーは増えたのかしら、楽しみです。
posted by 三上和伸 at 22:39| ピアノ曲を聴きましょう | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月28日

ピアノ曲を聴きましょう7 三上夏子音楽紙芝居「ピーターとおおかみ」 2013.07.27

今回の音楽紙芝居の催しは、山手西洋館・絵本フェスティバルの一環として行われました。紙芝居イコール素敵な絵、素敵な絵イコール芸術、芸術には絵の他に音楽も重要です。そんな絵と音楽を結び付けた三上夏子の音楽紙芝居は、この絵本フェスティバルの主旨に敵ったものだったのでしょう。絵本と紙芝居とピアノ音楽、ジャンルは異なりますが、芸術繋がりとして、今回、有難くご要請を承ったのでした。

玄関の音楽紙芝居の案内
玄関に据えられた音楽紙芝居「ピーターとおおかみ」の案内板、一寸素敵で、誇らしげですね。さあ、ここが楽しい音楽紙芝居の入り口です。「皆様、ようこそ…」 

開演前の紙芝居絵
開演前に既に掲げられていた題目を表わす冒頭の紙芝居絵、ワクワクしますね。紙芝居絵を描いてくださった画家・飯田裕子さんのアイディアが光ります。本編への期待が俄然膨らみます。

後ろ姿のピーター 
ピーターのテーマの快い調べが響き渡ります。ここは聴かせどころです。ピアニストは美音を駆使し、颯爽とピーターを走らせます。聴き手の皆は、ピーターが明るく元気な男の子と直ぐ判断できますね。

狼登場 
ピーターと知恵比べをする悪の王・おおかみです。もう腹ペコで、獲物を見付けようと虎視眈々とギラギラ眼(まなこ)で彷徨い歩いています。

狼がアヒルを襲う
遂にアヒルさんが襲われてしまいました。ギャーギャー言って逃げ惑うアヒルさん。それでもとうとう、もの凄い大口のおおかみにまるまる飲み込まれてしまいました。

狼は捕まり大団円
ピーターの機転でおおかみは捕えられました。さあ、狼を動物園に連れて行きましょう。でもあれっ、おおかみのお腹でアヒルさんが鳴いていますよ。するとおおかみは急に「ハックショ〜ン!」、何とおおかみの口からアヒルさんが飛び出してきました。やれやれ、アヒルさん生きていて良かったネ。さて皆で動物園まで行進だ!

山手西洋館では絵本に纏わる様々な催しが開かれました。絵本の読み語りや朗読ライブ、絵本の展示や絵本の紹介、夏子の音楽紙芝居「ピ−ターとおおかみ」を始めとしたコンサート、そして絵本フェスティバル期間中(2013.07.25〜07.27)の各西洋館では、様々な飾り着けが行われました。エリスマン邸ではフロ−レンスサチコ所属の加美山智絵さん制作のテーブルコーディネート作品・「盛夏のガーデンパーティー」が飾られていました。

盛夏のガーデンパーティーの宴席 盛夏のガーデンパーティーの説明
美しい洋食器の数々、そんなものに縁遠い庶民の私でも魅了されますね。

森のティーパーティーのジオラマ 森のティーパーティーのジオラマの説明
これはお子様が喜ぶ模型ですね。夢が一杯詰まっています。暫しジイジの私でも楽しめました。Nちゃんにはまだ早いかな? 

ガラスのテーブル
盛夏の今に嬉しい涼しいテーブルコーディネートですね。一時の涼のご馳走、「有難い、頂きます」。
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2013年07月18日

ピアノ曲を聴きましょう6 三上夏子エリスマン邸生演奏と音楽紙芝居のお知らせ 2013.07.18

山手旧エリスマン邸 白花アガパンサスとアンスリウムの生け花
大正から昭和にかけて横浜に住んだフリッツ・エリスマン。エリスマンは、イギリスの生糸貿易会社の横浜支配人で、日本人の妻と共にここ山手に暮らしました。この家は大正14~15年に建てられたそうで、それ以来、エリスマン一家の愛の巣でした。家は現代の私達には羨望のゆとりと広さを備えていますが、その基本設計は現代日本の住まいのお手本になった感があります。応接室、ダイニング、サンルーム、キッチン、二階にある三つの寝室など、現代の日本の家屋もここから始まったとの想いを私は強くしています。

時は移り現代では、瀟洒な洋風建造物として横浜の歴史的建造物にも指定され、多くの観光客で賑わっています。我が娘・夏子もこの西洋館と関わりを持ち、月一回の割合でここのピアノを弾く事になりました。約一時間の間、フルタイムで、本気で聴いている聴衆は、私達夫婦と次女の妹、それにお友達や生徒さんの親御さん方だけですが、訪れた観光客の方々も足を止め、暫し傾聴されて行きます。時に音楽好きのお客様がいらして、拍手喝采が起きる事もあるのですよ。そんな様子を見るにつけ、微笑ましく感じ、一頻り悦に入る親馬鹿の私達です。

エリスマン邸には何時も花が飾られています。この日は、白アガパンサスに黄色のアンスリウムが挿してありました。暑さの中の僅かな涼、素敵でした。

エリスマン邸ピアノ生演奏 音楽紙芝居エリスマン邸公演のチラシ
この日は、今後に上演の予定がある音楽紙芝居の「ピーターと狼」と「動物の謝肉祭」からのメドレーをひとしきり演奏しました。勿論、紙芝居絵は無く、演奏だけでしたが、面白く聴けました。「白鳥」、「水族館」、素晴らしかった。

ここで、夏子の音楽紙芝居エリスマン邸公演のお知らせを致します。夏子が申すには、お子様の来場が多くなるとの事ですが、是非大人の方々もお出でくださる事を望んでいるようです。お暇がございましたなら、お出かけください、お待ちしております。

追伸:チラシの中の、アンサンブル・サマンサとは、「夏子の合奏(その仲間)」と言う意味らしい…。勿論「サマンサ」は夏子の愛称で、夏=サマーで、奥さまは魔女の「サマンサ」から頂戴したパクリの名です。夏子が幼い頃、恩師のピアニストが開いた八ヶ岳夏合宿で、最初に恩師始め参加者全員で皆の愛称を決め合った事に始まります。私も見学に行きましたが、誰彼の別なく愛称で呼び合っていました。因みに、恩師の先生は「マリラ」でした。
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2013年06月20日

ピアノ曲を聴きましょう5 “灰色の真珠” インテルメッツォ(間奏曲)ロ短調 OP119-1 ブラームス

 ブラームスの作曲したピアノ曲は、最初期にはピアノソナタ、そしてその少し後にピアノ変奏曲が続きます。しかしそれ以降は、ソナタはもとより変奏曲すら作らなくなります。ロマン派の時代、ピアノで表現するにはソナタ形式は、余りにも窮屈な形式になりました。ショパン3曲、シューマン3曲、リスト1曲、そしてブラームスには3曲のピアノソナタがありますが、このソナタ形式の達人・ブラームスでさえも、若年の内に早々とピアノソナタから足を洗ってしまったのです。

 それでは、ロマン派のピアノの詩人達は、一体何に活路を見出したのでしょうか? そうです、もっと自由にロマンの幻想の翼を広げられる、ピアノの小品を選んだのです。数分(1分もあり)から10分足らずのピアノ小品、彼らはそこに、ロマンの精神の全てを注ぎ込んだのです。ショパンはエチュード、ノクターン、バラード、ポロネーズ、マズルカ、ワルツ、アムプロンプチュなど、シューマンは「クライスレリアーナ(8曲の幻想曲)」、「子供の情景(13曲の小品)」、「交響練習曲(主題と11の変奏曲風エチュード)」、「ダヴィッド同盟舞曲集」など、リストは「巡礼の年(年報)(全4巻26曲)」など、そしてブラームスは、晩年のピアノ小品(全20曲の小品)で…。

 20曲あるピアノ小品は、ブラームス晩年の心境を綴ったメランコリー漂う作品群です。そのピアノ音からは、故郷、自然、愛、追憶、哀悼、寂寥、信頼、情熱、希望、諦観等の言葉が閃きます。じっくりと何度でも繰り返し聴く音楽。何度も聴いている内に、喜び、悲しみ、楽しみ、怒り、悼みが観えてきます。そして人を見詰め、未来を見詰めるブラームスが観えて来るのです。ブラームスの音楽は優しい、確かにエンタテイメント(娯楽性)では、先の先輩諸氏に敵わないかも知れません、が、その人を見詰める優しさでは、誰一人敵う者はいないでしょう。ブラームスは、何ものにも流されない意志の確かな、人生の価値を語る音楽です。

 このロ短調OP119-1は、彼の盟友・クララ・シューマンが「灰色の真珠」と称えた曲です。どんなに硬質(硬派)の音楽を書いたとは言え、ブラームスはやはりロマン派(主義)…、ピアノの一音一音に甘い感触があります。クララはそれを目敏く見出し、曲評を問われた時に、「灰色の真珠」とブラームスに告げたのでした。灰色、ブラームスらしい色…。その灰色の粒の中に、私は人の愛が観えます。

 演奏者は、やはりドイツの名ピアニスト・ウィルヘルム・ケンプ(1895-1991)の右に出る者はいないでしょう。兎に角、この曲に対する愛着が素晴らしい…。愛して愛して尚も愛する、徹底的な研鑽の上に成り立った楽曲解釈を達成しています。「ブラームスだってこう弾いたであろう…」と私は確信しています。
 
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2013年06月11日

ピアノ曲を聴きましょう4 三上夏子、エリスマン邸、ピアノ生演奏 2013.06.11

貝殻坂の碑 山手本通りの石碑
貝殻坂と山手本通りの石碑
大好きなプロムナードを辿ると、やがて外国人墓地とそれを取り巻く元町公園の森が見えてきます。この横浜の美しい道・山手本通りは、日本の道100選にも選ばれています。その先には、貝殻坂とこの山手本通りの道の石碑が階段を仕切って並んでいます。この坂を下れば元町へ、真っ直ぐ進めば直ぐエリスマン邸です。

三上夏子の演奏姿 ダイニングの生花
三上夏子の演奏姿とエリスマン邸・ダイニングの生花
名ピアニスト・X・ホロヴィッツの言に「ピアニストにとって一番大切なのは、ピアノを打楽器から歌う楽器にすることである」があります。一寸した名言ですが、最近の夏さんの演奏にはその片鱗が見え隠れしています。ピアノ音を綺麗に響かす、そしてそこに何がしかの心理を籠め歌う、夏さん、ピアノ音楽の豊さを掴み始めているようです。

私にとって、思い上がりと言われようが、エリスマン邸は我が家のリビングの感があります。幸せな事に、月に一回、ここで娘と家庭音楽会が開けるのです。何の無理難題を演奏者に押し付けずとも…。この幸福が何時までも続くようにと、ただ祈るだけです。

明日は、新装開店?のエリスマン邸・喫茶室“カフェ・エリスマン”と究極の下町イタリアン“ラッツオ”のピザ&パスタ&ジェラートを紹介します。

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ピアノ曲を聴きましょう3 娘のエリスマン邸ピアノ生演奏聴いて来ます 2013.06.11

 今日は娘のエリスマン邸生演奏の日、これから妻と一緒に山手・エリスマン邸に行って来ます。今回は、娘のブログによると、ディズニーナンバーも取り上げるとか。だったらこれをNちゃんにも聴かせたいな…。どんな反応を示すのかしらネ、興味津々ですね。何れ私のお伴で、連れて行ってやりたいと考えています。では行って来ます。
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2013年03月16日

ピアノ曲を聴きましょう2 ノクターン第1番 変ロ短調 OP9-1 フレデリック・ショパン 2013.03.16

 ノクターン、夜想曲と題されたショパンのピアノ曲集は、全二十数曲ありますが、作曲年代は全生涯に亘っており、最もショパンを知る上で大事なジャンルと言えるでしょう。遅いテンポで静かに夢見るようなセンチメンタルな旋律、ゆったりと幅広い音域を行き来する伴奏、ペダルの効果を最大限活用するその協和音の響きは正に夢幻的と言えます。時にゆっくりと静かに囁き、時にきらびやかに上下する音階、ピアノの美音をこれ程までに意識し作られたピアノ曲は空前絶後でしょう。

 1830年から翌年にかけて作曲されたノクターン第1番変ロ短調は三部形式の曲。一部の冒頭は甘く切ない右手の旋律だけで始まり、直ぐにアルペジオの左手の伴奏が追いかけます。協和音の澄みきった響き、下降音階を挿入した美しいとしか言いようがない旋律、これこそがピアノエンタテイメントショパンの極致と言ってよいでしょう、そのピアノの美音に身も心も痺れます。

 中間部は雰囲気を変え、夜のしじま(無言)に一人囁くような風情で進み、次第に思いは乱れ高揚しピークを迎えますが、やがて今度は尚も静かに消え入るように終わります。

 三部では再び冒頭の旋律が表れ、今度は一部よりやや力強く華麗に響かせ、最後に胸にわだかまる切なる想いを刻印して名残惜しげに終ります。その時結尾では一瞬不協和音が鳴るのです。意味深で興味深い不協和音ですね。何を意味している事やら…
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2013年03月04日

ピアノ曲を聴きましょう1 「子供の情景」Op15 ローベルト・シューマン(1810〜1856)

@楽器の中のピアノ
 演奏するしないは兎も角として、何方でも人それぞれに、楽器の好き嫌いはお有りでしょう。ヴァイオリンの好きな方、チェロが好きな方、木管が好きな方、金管の好きな方、打楽器が好きな方等々、それでもどうもこの楽器は好きでないなとか、あの楽器の音は嫌いだななどと仰る方もおいででしょう。楽器の好みにも個性は付きものですね。私は仕事柄、当然ピアノが大好きで、一番と言って良いでしょう。鍵盤楽器では他にチェンバロ、クラビコード、チェレスタ、オルガン(パイプ及びリード)、アコーディオン等がありますが、やはりピアノが最高です。何しろピアノは響きがロマンチックですものね、ピアノほどロマンチックを表現するのに適した楽器は他にないと言えるでしょう。たとい一音でも鳴れば、その場にロマンの妙なる香りが立ち籠めます。そして更にハーモニーを使えば、その多様な七色の和声で如何なる心の変化も映し出せます。ピアノはロマンチックの権化(権現)と言える、人間世界を映す鏡なのです。

 重く伸びやかな低音部、静けささえ湛える芳醇な中音部、温かく心を満たす歌を司る次高音部、そして煌びやかで鐘の音のような高音部。また言い変えるならば、低音部は底知れぬ深い海、中音部は満々と水を湛える湖、次高音部は流麗な川の流れ、高音部はクリスタルな滝の飛沫。88音もありながら、最低音から最高音まで、全音域に亘って官能性が高く表現力が豊かで個性的です。しかも、一人でシンフォニーまで演奏できる、スケールの大きさと万能性まで備えています。正にピアノは一人オーケストラと言えるのです。

 そんな優れたピアノの飛びっきりの名曲をこれから長い期間を掛けて、新しいカテゴリで紹介して行きます。第1回目は、“完全無欠のピアノの詩人・ショパン”をも凌ぐ?と思われる“天性のピアノの詩人・ローベルト・シューマン”、…その詩人のエッセンスが最高度に凝縮された…、…正に天から降りて来た宝石…の「子供の情景」OP15を選びました。

Aシューマンのピアノ曲、妻クララとの関係 
 シューマンは尊敬し憧れたベートーヴェンに倣い、ピアノ曲以外にも様々なジャンルの曲を作曲しました。けれども作曲家を志すのが遅すぎたのか、あるいは大曲を作曲するには才能が足りなかったのか、オペラやシンフォニー、そして室内楽に大傑作と言えるような作品を残す事は叶いませんでした。従ってシューマンの大作曲家としての威信は今一つで、それは生前に於いても同様でした。その事が挫折に繋がり、生来の精神的特質も手伝い、やがて精神を病み自殺を企て、その果てに、精神病院で46歳の若さで亡くなったのでした。最愛の妻・クララと七人の幼い子供を残して…。何と言う不幸、何と言う悲劇、絶望の淵に追い遣られたクララでしたが、クララには一つの希望がありました。それは子供達ではなく、新たに現れた友人ブラームスでもなく、最愛の夫ローベルトが残した数々のピアノ作品でした。クララは決意していました。「私はローベルトの作品と一緒に生きて行こう。この宝石を世に広めよう。それが私の使命だから…、ロ−ベルトもきっと喜んでくれるだろう…、それが私の一番の幸せなのだから…」と…。

 交響曲やオペラで一番になれなかったシューマンですが、妻クララが夫のいない半生の拠り所とした珠玉のピアノ作品は、古今東西のあらゆる作曲家のピアノ作品の中でも一番か二番でしょう。もうライバルはショパンしかいないでしょう。ピアノの特性を最大限発揮させたショパンのエンタテイメント(娯楽性)には敵いませんが、ショパンと同等の、否それ以上の優しさと優雅さを持ったピアニズムを有しています。それは正に人間愛に溢れたロマンの香り立つ良質のファンタジーです。

B“子供の情景”誕生の経緯(ローベルト28歳、クララ19歳) 
 未だ二人が結婚する前に、クララはローベルトに言った事がありました。「貴方の心には子供が住んでいるのね。貴方はとても子供っぽく見えるわ…」、九歳も年下の愛する乙女に言われてローベルトはそれを心に残しました。まあ、男とは何歳になっても少年の心を宿しているもの、そして小生意気な乙女は大人になりたがり、意地悪を言いたがるもの、微笑ましい恋人の痴話喧嘩ですが、そこから未来に残るとんでもない名曲が生まれ出るなんて、クララはこの時知る由もなかったのでした。その後、それが切っ掛けとなり、ローベルトは自分の子供時代の出来事や思い出をあれこれ思い返し、それに極め付けの幻想性を盛り込んで、30曲(出版時に13曲に絞り現在に至る)ほどのピアノ小品を作り上げました。勿論、真っ先にクララに見せました。クララは「素敵な曲ばかりね、私が言った意地悪で、こんなに美しい曲を書いてしまうなんて、貴方は天才ね、嬉しいわ、愛してるわ…」、二人はヒシと抱き合い、甘い接吻を交わしたのでした。…何てね…、まあ、これは私の勝手な想像ですが、あながち偽りとは申せません。二人の愛は固く、二人の結婚に反対していたクララの父親の度重なる妨害にも断固として裁判で戦い、勝利して、結婚に漕ぎ付けたのでした。それは一際音楽史に残る素晴らしい結婚でした。

*クララ・シューマン(旧姓・ヴィーク、1819〜1896) 名ピアノ教師である父親の薫陶を受け、当代随一の女流ピアニストに成長する。シューマンと結婚、のちに若くして未亡人となるが、生涯に亘って夫・シューマンの作品の普及に努める。 

 *子供の情景*
第1曲 見知らぬ国々と人々について
優しい歌い出し、さあ懐かしい思い出の国に行きましょう、あの人はいるかしら?

第2曲 不思議なお話
一寸リズミック、でも直ぐに優しさが、語り掛けるように…

第3曲 鬼ごっこ
皆で鬼ごっこ、わっ、僕捕まっちゃったー

第4曲 おねだりする子供
何となく媚びを売っているかな、でもさ…、だってさ…、なんて言っているね

第5曲 大満足
何だか嬉しいな…、ワクワクしちゃう!

第6曲 重大事件
重大事件、それって何さ、何か楽しそうだぜ!

第7曲 トロイメライ
白日夢と訳されるそう…、でも不思議にも夜の雰囲気で一杯、全曲中の白眉、美し過ぎる傑作

第8曲 ろばたにて
温かい炉端に集まって皆でお話、今度は貴女、次は君、そうかいそうかい、そうだよね

第9曲 木馬の騎士
あそこには木馬があったよね、ハイドウドウ…、楽しいね!

第10曲 むきになって
このむきになっては静かな“むき”、一寸涙ぐんでいるよ…

第11曲 びっくり
待ち伏せかい! びっくりびっくり!

第12曲 子供は眠る
夢の中、安らかに子供は眠る、でも一寸悲しいかな? ママがいない?

第13曲 詩人のお話
詩人はシューマン? 入り組んだ繊細な感情と神秘的情緒を持った曲、これぞドイツロマン派、ショパンではこうは行くまい!

 *追伸
ここに述べた各曲の論評は、あくまでも私の私見です。これに拘らずに、まっさら(真新)のお心でお聴きください。演奏(CD)は、ウラディミール・ホロヴィッツがお勧めです。冴えたタッチと透明な響き、更に繊細な歌い廻しが絶妙です。
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