近年、鹿の食害に悩まされている花園は限りがなく、ここ霧ヶ峰もその例外とはならず、往時の賑わいはまるでなくなりました。あのニッコウキスゲが黄金色に埋め尽くした車山肩でさえ、近年は固まった群落は数えるほどで、淋しいものがありました。そんな訳で、恐らくは美ケ原もそれなりだろうし、仔牛には会えませんが、王が頭ホテル宿泊不可をいい事に、美ケ原は回避して、八島ヶ原湿原に向かう事にしました。そして着いて歩き出した途端、それは正に正解でした。そこには百花とは言わずとも数多の野花が密度濃く彩って繁盛でした。それは何故かと問えば、そうです、鉄で出来た鹿を寄せ付けない手強い針金の柵があるからです。このだだっ広い湿原はこの湿原を一回りする長大な鉄柵に囲われていたのです。今やここまでやらなければ自然の花園は守れません。天敵のいない鹿はそこまで殖え栄えて、根こそぎ美花麗花を食い散らかしてしまうのです。
1、キンミズヒキ(金水引)

バラ科キンミズヒキ属
黄色の花穂が金色の水引(紙糸の紅白の水引に喩えられた別種の花)のように観えたからキンミズヒキの名になりました。良く実る草で、実には鉤(カギ)のような棘(トゲ)があり、獣毛や人の衣服にくっ付き、その獣や人によって遠くへ運ばれます。そしてそこで落下着床し、発芽して根を張ります。進化の過程で身に付けた凄技の持ち主です。
2、ヨツバヒヨドリ(四ツ葉鵯)

キク科ヒヨドリバナ(フジバカマ)属
フジバカマの仲間、花も姿形も良く似ています。低地に咲くヒヨドリバナの一種で、こちらは高原に咲くヒヨドリバナです。普通のヒヨドリバナ(葉が互い違いに生える互生)との違いは葉の生え方で分かります。この草は3枚から5枚(普通は4枚)の葉が茎の同じ部分から輪生します。因ってそれが四ツ葉の名の元となりました。そしてヒヨドリの由来は、普通のヒヨドリバナが野鳥のヒヨドリの鳴く頃(秋深まる頃)に咲くからで、それに因んでこの名になったと謂われています。
3、ハクサンフウロ(白山風露)

フウロソウ科フウロソウ属
低地に生えるゲンノショウコの仲間、この仲間には亜高山に生育する種が幾つかあります。その一種がこのハクサンフウロで、ゲンノショウコの仲間である以上、この草にもお腹を調整する薬効があります。加賀の白山で最初に見付かったので名にハクサンの冠が授けられましたが、何処の亜高山や高原にも存在しているハイカーには馴染みの花です。ささやかな薄紅が登山の疲れを癒してくれます。
4、ホソバノキリンソウ(細葉の麒麟草)

ベンケイソウ科マンネングサ属
葉が厚い多肉植物。この仲間の若い芽は、茹でて水に晒すと、お浸しや和え物にして食べられるそうです。見るからに美味しそうですね。鮮やかな黄色が中国の伝説上の動物・麒麟を連想させる事により、キリンソウの名を頂きました。小さい草ですからこの名は身に余る光栄ですかね。
5、ノアザミ(野薊)

キク科アザミ属
アザミの仲間で春咲き種はこのノアザミだけなのですが、それを言えるのは下界での話…。高原では殆どのアザミが夏に咲きます。同時期に同じ所で春咲き秋咲きが咲いているのです。私も区別は出来ないのですが、まあ当て感でノアザミと申しておきましょう。我等素人はそれでいいですよね。でもこの色、この濃い薔薇色はどなたでも感じ入るものがおありのようですね。ここでもこの花を前にして、溜息をつかれる方が多かったのでしたから…。鮮やかで美しい色です。
6、コオニユリ(小鬼百合)

ユリ科ユリ属 別名:スゲユリ(菅百合)
鬼百合の小型版と言う事で小鬼百合の名が付きました。鬼百合の葉の付け根にある珠芽(むかご)がこの小鬼百合にはなく、鬼百合に比べ全体に優しい風情があります。そしてこの百合の重要な特質としては、食用百合として農業栽培をされていると言う事です。暮れになるとお節料理の材料としてこの百合の百合根(球根)が販売されているのです。私は過去にこの百合根を購入して植え、肥料をやり球根の分球を促し、苗を増やした事がありました。数球の肥大球根があれば、直ぐに50株位の苗はできます。小作りにして一株に一二輪咲かせると、野の風情を演出できます。美しいですよ。
7、ゼンテイカ(禅庭花)別称:ニッコウキスゲ(日光黄菅)

ユリ科ワスレグサ属
禅庭花とはいい名ですね。禅道場の庭に咲く花、何やら禅の奥義を象徴しているような花に思えてしまいます。でも我々にはニッコウキスゲと呼んだ方がお馴染みですね。ゼンテイカと言ったって知る人ぞ知る花の名で、一般には通じませんよね、それでも和名はゼンテイカなのですよ。スゲの呼び方では、この種にはもう一つユウスゲ(夕菅)があります。こちらは夕に花開く夜の花、ニッコウキスゲは朝咲いて夜萎む昼の花です。どちらも残念ながら一日花なのです。スゲとは本来カヤツリグサ科スゲ属の総称で、節の無い茎が特徴ですが、どうも一般の植物でも節の少ないス−とした茎を持つ種は、スゲの名拝借に傾いたように思われます。キスゲの一直線の花茎もスゲに似ていると思われたのでしょう。兎に角大群落を形成する種・ニッコウキスゲ、亜高山の草原の代表選手?です。
8、ツリガネニンジン(釣鐘人参)別称:トトキ(父木)、シャジン(沙参)

キキョウ科ツリガネニンジン属
釣鐘人参は読んで字の如く、釣鐘に似た花を持ち、朝鮮人参のような白い根をした植物の事…。日本では数種類が観察され、低地から高山までそれぞれが適地に棲み分けています。このツリガネニンジンは低地から亜高山帯に掛けて生育し、夏から秋にかけ薄紫の愛らしい花を咲かせます。別称のトトキはツリガネニンジンの若芽を指し、主に山菜での呼び名となります。その謂れは二三あり、一つに、余りにも美味しいので、トッテオキの菜っ葉から“トットキ”になり、訛って“トトキ”になったと言うもの。もう一つは、この茎を手折ると白い乳液状のチチ(乳)に似た液が出て、それをチチ(父)に当てはめ、またそれを方言にして(トト)、その木だから“トトキ”、まあ、こちらは「こじつけ」のような気がします。シャジン(沙参)はこの草の漢名・生薬名との事。根を咳止めや痰切りに使います。精力増強にもね、フフフフ…。これは一目瞭然、分かり易いですね。
9、ウド(独活)

ウコギ科タラノキ属
夏、山でこんな姿の花を見付けたなら、それはウドです。これは有用且つ美味なる草で山菜として珍重されます。素晴らしい芳香を有す若芽、たといその若芽が育ってこんな花が咲いたとしてもその蕾や葉は食べられます。ウドの大木になったとしても、茎の髄はセロリのように美味しいそうです。またこれは軟白栽培(地下壕で日を当てずに育てる)で育てる事も出来、春の香味野菜として珍重されています。山で太陽を浴びたウドを山ウド、軟白栽培をされたものを白ウドと言い、元は同じウコギ科タラノキ属のウドです。何故「ウドの大木」か、ウドは大きく育つ草で、大きく育ったウドは、若芽として食用にならず、かとって草ですから木材にもなりません。何の役にも立たないからウドの大木と卑下されてきました。されどされど、先ほど述べたように育ったウドも木材にはなりませんが、それなりに美味しく食べられます、「ウドの大木」は中らずと雖も遠からずの諺(慣用句)ですね。人間に置き換えてもね。どっかこっか役に立っているのが人間です。でも悪人には不適合ですね。−(マイナス)が過剰ですから…。そしてもう一つ、当て字の独活(どくかつ、どっかつ)の事。これは中国名・漢方生薬名で、根を利用して生薬とし、発汗を促して解熱・鎮痛に効能があります。
10、チダケサシ(乳茸刺し)

ユキノシタ科チダケサシ属
園芸種のアスチルベの親になった種。円錐花序の花穂に小花が群がり咲き、地味ながら美しい…。株により白から淡紅色と色幅があり、直ぐ傍にあっても色の濃淡が際立って素晴らしい…。この種は硬い茎が特徴で、昔の村人はこの茎を何本か手折って山に入り、*乳茸を採ってはその茎の串に刺してゆきます。沢山採れてもう串に収まらなくなれば、村人は山を出て家路に就きます。出汁にしたり焼いて食べたり、その夜は乳茸三昧で大御馳走…。山の珍味に舌鼓を打ったのだそうです。
*乳茸(本来はチチタケ、転化した地方名でチタケ乃至チダケ、切ると乳液が出るので乳茸) ブナ科(橅、楢、椚)の林内に生える茸で、色は茶色から赤色、椎茸のように傘の開いた形をしています。食感は今一つだそうですが、強い香りがあり、特に栃木県で珍重され、郷土料理の名物“ちたけそば”が有名だそうです。またヨーロッパでは普通に食べられている茸だそうですよ。
11、キオン(黄苑)

キク科キオン属
キオン属はキク科最大の属だそうで、世界で約2,000種が存在しているそうです。その2,000種の内の一種っがこのキオンで、その属名にその名が用いられているのです。言わば代表選手?ですね。黄色の花は、高原では紫と並んで多数派ですが、キリンソウやアキノキリンソウに比べこのキオンは、やや精彩が無く地味かも知れませんね。
12、カラマツソウ(唐松草)

キンポウゲ科カラマツソウ属
フフフフ、美しい…、久方振りですね、これ程美しいカラマツソウに出会えたのは…。この日は幸運でした。自然のお花畑でも比較的少数派の花ですからね、絶好の咲き頃を観られるのは幸運と言うしかありません、ツイテいました。花が唐松の葉に似ているのでカラマツソウ、色は違えどもその愛らしい印象はピッタリですね。自然の造形の妙味を感じない訳にはいきません。ホント、美しい…、フフフ…
13、ノリウツギ(糊空木)

アジサイ(旧ユキノシタ)科アジサイ属
昔はユキノシタ科アジサイ属でしたが、近年の分類学上ではユキノシタ科の樹木はアジサイ科に変更になりました。従って草本類はユキノシタ科、木本類はアジサイ科に分けられたのですね。野生のアジサイの中では取分け白花の美しい種類で、野に在りて清々しい存在です。私は好きですね、白い紫陽花、ホンに美しい…。ところでノリウツギとは変わった名です。糊に空木です。でもこれにもチャンと理由があるのですね。昔、和紙を漉くには糊は欠かせなく、糊の役目として、このノリウツギの樹液を使ったのだそうです、だからノリ…。そしてウツギは、この花があの卯の花(空木)の白い花を思わせたのでウツギ…。ここに糊空木の名が完成しました。
14、フシグロセンノウ(節黒仙翁)

ナデシコ科マンテマ(旧センノウ)属
節黒仙翁、変な名ですがこれもこの花を特徴づける意味があります。先ず節黒とは、茎の節が黒っぽいので節黒、これはそのものズバリ、間違いの無いところですね。問題は仙翁、仙には仙人の他に俗界を離れた人や優れた・美しい等の字義(意味)があります。また翁は、父親や男の年寄りを指しますが、意外なところでは、鳥の首筋の羽と言う字義があります。これらを鑑みて私は、この花の名は“茎節の黒い、鳥(トキ)の首の羽のように美しい色をした花”と言う意味合いが成り立つと考えました。如何でしょうか?考え過ぎですかしらね? 好陰植物のフシグロセンノウ、樹木の少ない原野の八島ヶ原では少数派ですが、僅かにある木の木陰に涼むように咲いていました。美しい、大好きです。
15、ヤナギラン(柳蘭)別名(英米名):ファイアーウィード(火事雑草の意、アラスカ等で森林火災の後最初に進入する草)

アカバナ科ヤナギラン属
淡紅紫色の美しい花、群生すればそれは見事な光景を魅せます。高原の夏の女王と申しても、少しも偽りでなく、強い存在感を見せ付けます。私はどれ程この花を愛した事でありましょうか。この花に会いたくて会いたくて私は家族を引き連れ、毎年のように高原を訪れたのでした。そして私のこのような趣味がすっかり娘達にも浸透して、二人の娘もこの花のファンになりました。それは私の大きな誇りの一つ、そこに私がこの世に生まれた価値が存在すると確信しているのです。この麗しい愛着を子が引き継いでくれた。生まれて良かったと本心で喜べるのです。
16、ヤマホタルブクロ(山蛍袋)別名:提灯花

キキョウ科ホタルブクロ属
名の由来は幾つかあります。一つに、別名の提灯花で分かる通り提灯のような花、ところで昔は提灯を“火垂る(ほたる)袋(ふくろ)と呼んでいました。ですからこの花もホタルブクロとなりました。もう一つは、もっと粋です。花の中に蛍を忍ばせて遊んだ記憶によりその名となりました。このヤマホタルブクロはホタルブクロの変種で、萼片にホタルブクロのような反り返りがないのが特徴です。誠に風雅な花、野の花らしい優しさを感じさせ、侘しささえも漂わせています。蛍袋、アイラヴ…
17、マルバダケブキ(丸葉岳蕗)別名:マルバノチョウリョウソウ

キク科メタカラコウ属
葉が丸く山岳に生える蕗なので丸葉岳蕗、変わった名ですが、分からなくはないですね。しかしこの草の別名のマルバノチョウリョウソウとはどんな意味謂れがあるのでしょうか。得体が知れないですね。“チョウリョウ”とは何なのか、広辞苑で調べてみました。先ず、跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)の跳梁が出てきましたが、「はねまわること」、「悪人などがわがもの顔でのさばること」とありました。でもこれはね、結び付きませんね。大柄な花ですが、我がもの顔でのさばってはいませんよね。次に「張良」、前漢創始の功労者、秦を滅ぼし漢を統一に導いた一人。日本の能の題材にもなった偉人。もう一人が張陵、後漢の人で道教の源流と目される五斗米道(ごとべいどう)の創始者。これ以外にチョウリョウの名で広辞苑には掲載はなく、この二人の内のどちらかが、ナガバノチョウリョウソウの名の由来となったのでありましょう。しかし確たる証拠は見付かりませんでした。
18、ハバヤマボクチ(葉場山火口) 別名:ヤマゴボウ(山牛蒡)

キク科ヤマボクチ属
ハバヤマは葉場山と書き、草刈り場のある草山を言います。つまりススキの原野で、茅葺屋根に使う茅(ススキの事)を採取する山を指します。そのススキの間にこの草もあるので、ハバヤマ…。そしてボクチは火口と書いてホクチ(ボクチ)と読ませますが、これは火種をうつし取る材料の火口(ほくち)を意味し、この草の葉を乾燥させたものが火口に使われたから、この草は…ボクチと呼ばれるに至りました。ところで、この草の繊維を蕎麦に練り込む蕎麦作り方法が昔から信州の飯山辺りで伝えられています。私は多分食べてないと思いますが、繊維が作り出す独特の腰と咽喉越しを生む蕎麦が出来上がるそうです。一度、飯山に行って試してみたいですね。勿論、これは山菜であり全草食べられます。若芽を始め、茎も根も美味しいそうです。別名のヤマゴボウは、牛蒡に似て美味しいこの草の根を食べていた民が名付けたものです。今これらを鑑みれば、このボクチは昔人の知恵を育て上げた宝の草だったと言えますね。
19、ヨツバヒヨドリとアサギマダラ

毒・アルカロイドを利し、己の種の存続を図る蝶・アサギマダラ。その浅葱の色と言い、黒の縁取りに浮かぶ斑模様と言い、実に神秘的な蝶です。その毒が回った?美しい翅は、日本の国蝶の候補に上がった程で、妖しい魅力を持っています。美しい花と共にこの蝶・アサギマダラを撮れた事は、今回の旅の大きな収穫でした。幸運に感謝します。
20コウリンカ(紅輪花)

、
キク科キオン属
エゾカワラナデシコと隣り合って咲いていたコウリンカ。オレンジ色の花ですね。舌状花が細く長すぎるため垂れています。その様が車輪のように観えるので、輪花。紅のように美しいオレンジ色だから紅輪花。まあ、何とでも名は付けられます。でもこの風情、余り見掛けないですよね。個性際立つ菊族の花ですね。
21、エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)

ナデシコ科ナデシコ属
蝦夷と付くからには近似種のカワラナデシコより北国の花と言う事が出来ます。中部地方から北に咲きますが、中部地方では高原の花です。二種の違いはささやかなもの、取り立てて説明する程の事ではないのですが、チョイとお耳に入れましょう。花と茎の間には萼筒(タネの出来る所)と言う部分がありますが、その長さが違う(蝦夷の方が短い)。そして花の付け根の苞葉の数(蝦夷2対、カワラナデシコ4対)が違います。それでも、蝦夷もカワラナデシコも花の美しさに遜色はありません。どちらも素晴らしい微香を持ち、撫でたくなる美しさ。
22、オトギリソウ(弟切草)

オトギリソウ科オトギリソウ属
毒草のこの草から秘薬を作り出した鷹匠の兄弟がおったそうな…、仲良く暮らしておったのだが、ある日、弟が禁を犯し、その秘伝を人に漏らしたそうな…、怒った兄は止むなく弟を切り殺したそうな…、哀れ弟の血飛沫は返り血となり、兄の身体を染めたそうな…。やがて兄はそれを悔い、オトギリソウに化身したそうな…、されどその遺恨の血飛沫は、この草の葉に永遠に残ったそうな…、黒い斑点となり、禍々しく…
失礼しました、これはオトギリソウ伝説を私が脚色したものでお恥ずかしい… でも大体こんな話なのだそうですよ。その葉の黒い斑点の正体とは、暗赤色の色素・ヒペリシンだそうで、油点となって葉の模様となっています。
23、メタカラコウ(雌宝香)

キク科メタカラコウ属
近似種に、より大柄な雄宝香(オタカラコウ)がありますが、これはそれより小さく優しい風情があるので、雌宝香(メタカラコウ)と名が付きました。またその宝香とは、この属の草の根に竜脳(香料や防虫剤に用いる)に似たよい香りがあるので、宝の香り・宝香と呼ばれるようになりました。この地では陽光降り注ぐ湿原にありましたが、上高地では梓川沿いの林下で良く観られます。水質地の半日影を好む草のようです。
24、オミナエシ(女郎花)別名:アワバナ(粟花)、オミナメシ(女飯)、チメグサ(敗醬)

オミナエシ科オミナエシ属
秋の七草の一つ、下界では七月に花開きますが、山深い田舎では立秋頃に咲きます。開花は早いですが花期は長く秋の花なのです。名の由来は別名にも記した通り、オミナメシ(女飯)が訛ってオミナエシになったもの…。昔の身分の低い女子供の主食は黄色い雑穀の粟で、その粟がオミナエシの花に似ていた為に女の飯のようだと喩えられ、オミナエシの名が付いたのでした。別名の粟花の謂れも同様のものがあります。また漢字で女郎花を当て嵌めたのも理由は同じで、女性に因んだ花と言う事ができます。ここでの女郎とは、遊女の女郎ではなく、一般的な女性を意味するお女郎さんを指していると想われます。そしてチメグサですが、これはオミナエシよりも遥か昔から使われていたオミナエシの古名で、漢字では敗醬と書きます。腐敗した醬油の意味ですよね。そうです、オミナエシには不快な臭いがあるのです。昔人は見事にこの悪臭を言葉に定め、この草に名を授けました。
25、ノコギリソウ(鋸草)別名:ハゴロモソウ(羽衣草)

キク科ノコギリソウ属
名の謂れは単純で、葉の縁に細かい裂け目があるので、ノコギリソウの名になりました。別名のハゴロモソウは花の風情からの名付けのようで、白衣のようなふわりとした花が羽衣にみえたのでしょう。
26、シモツケソウ(下野草)別名:クサシモツケ

バラ科シモツケソウ属
下野の国に多くあった落葉低木のシモツケに似るので、クサシモツケと呼ばれ、やがてシモツケソウの名となりました。紅紫色(薔薇色)が特徴で、群生すればそれは見事な薔薇色の花園になります。惚れ惚れするような華やぎを作り出します。
27、アサマフウロ(浅間風露)

フウロソウ科フウロソウ属
浅間山山麓を中心に中部地方に産するフウロソウ。勿論ゲンノショウコの仲間ですが、この属ではゲンノショウコは最小ですが、このアサマフウロは最大の花です。色も濃くて見栄えが良く、最も美しいフウロソウと言っても過言ではないでしょう。嘗て娘達が小学生の頃、家族仲間連れ立って、ここで出会ったのが最後でした。今回とうとう念願を果たし再開できました。準絶滅危惧種であり、その存続は心配されますが、また会おう、それまでお互い元気でいよう、御機嫌よう! 私は深い満足の内に花の自生地を退きました。
28、ワレモコウ(吾亦紅)とアキアカネ(秋茜)

バラ科ワレモコウ属
この時期、何処の草原湿原に行っても見掛けるのがこの風景ですね。どんなトンボでもこうした突起物には止まりたがるようで、このコンビは被写体として格好の対象です。何時観てもいいですね、こんな時ですね、地球地ていいなって思えてしまうのは…。ワレモコウは「我(吾)もまた紅」と言い張っている花だそうで?、臙脂色も当然紅色の一種なのですが、このワレモコウは少し赤黒いのを気にしている風、コンプレックスですかね?可哀想…。それに引き換えアキアカネは、夏の間は草原で呑気にお遊戯中、英気を養っているのかな? それでも九月になれば、里に下ります。恋して連れ立って水に卵を生むのです。見掛けますよね、田圃で良く… 老熟した雄は真っ赤に変色。正に秋、茜に変わります。
29、八島ヶ原湿原、鎌ヶ池

初めは湖沼だった所が、土砂の流入や水生植物の遺体などで埋め尽くされると、やがて葦や蒲の生える湿原に変わります。その内の高冷地の湿原は、植物が腐らず泥炭に変化するため、次第に堆積物の泥炭層に覆われ、周囲より高さを増して行きます。すると周囲の土砂や水の流入が止まり、湿原は貧栄養化が進みます。貧栄養化が進めば樹木や草本は生育する事が出来ず、水苔の天国となります。これが高層湿原です。八島ヶ原湿原は、泥炭層8メートル余りの発達した稀に見る高層湿原と言う事が出来るそうです。鎌ヶ池の先には水苔の高層湿原が広がっています。私達が愛でている草花は、この高層湿原の縁に咲いている花達なのですね。鎌ヶ池は昔ここが湖沼だった証と言ってよいのでしょうか。湿原との端境地に澄んだ水を湛えて、悠久の時を刻んでいます。
30、クガイソウ(九階草) 別名:トラノオ(虎の尾)

こうした穂の形をした花の集まりを穂状花序と言いますが、何故かトラノオと呼ばれますね。余り虎の尾には似ていませんが、他に適当な動物もいないようなので、立派なトラノオをお借りしたのですね。クガイソウの九階は、輪生する葉が何段も付くので、一桁最大数の九を貰いクガイソウとしたようです。葉も花も美しい、大好きな草花です。トンボも止まり易そうですしね。
31、アキノキリンソウ(秋麒麟草) 別名:アワダチソウ(泡立ち草)

キク科アキノキリンソウ属
こちらは総状花序の花。沢山の小花が群がって咲き上る賑やかな花です。別名でピンとくるでしょう、あの悪名高き秋の雑草・セイタカアワダチソウの親戚です。でもね、このアキノキリンソウ、とても上品で愛らしいでしょ。同じ黄色ですが、あの猛草?・セイタカの下品さ思えば、月とスッポン、美女と野獣、玉と石。セイタカ大っ嫌い!、アキノキリンソウ大好き! 私の偽らざる心境です。
32、ノハナショウブ(野花菖蒲)

アヤメ科アヤメ属
そこら辺りの庭園で栽培されている花菖蒲がありますが、その親に当たるのがこの種、野花菖蒲。あの豊満な子の花菖蒲に比べ、この野花菖蒲はスリムにしてスレンダー、見事にシェイプアップされた京紫の美人です。私の個人的趣味としては、魅惑のグラマーの花菖蒲より、痩身の貴婦人の野花菖蒲を愛します。スッキリとした野性味が源氏名を持つ人工美に劣る筈はありません。シンプルイズベスト、花にも当てはまります。
33、マツムシソウ(松虫草、山蘿蔔《ヤマラフク・山大根の意》)

マツムシソウ科マツムシソウ属
松虫とは、昆虫の松虫の事を指し、松虫の鳴く頃に花開く事で付けられ名と謂われていますが、そうでもなさそうです。この花の形がある物に似ていたがために名付けられたとも謂われています。それは歌舞伎や順礼で用いられる叩き鉦の事だそうです。案外、こちらに真があるような気がします。また山蘿蔔は山の大根の意で、松虫草の根を指し、漢方で皮膚病の治療に使われるそうです。
高原の秋を代表する花で、その薄紫の群生は、他のどんな花よりも美しい…
34、シシウド(猪独活)

セリ科シシウド属
遠くからでもその巨体は良く目立つもので、「ああ、高原にきたのだな〜」と感慨に耽るのに丁度良い草ですね。ウドに似てウドより大きく不味くて人の食べ物にならないので、イノシシに食べさせて置けと言う事でシシウド(猪独活)の名が付いたと謂われています。まあ、そんなところかなと思ってしまいますね。
◎夏も終わり、今は秋の半ば、お恥ずかしながら、やっとこの夏のページを閉じる事が出来ました。まあ、調べて書く調べて書く……。この繰り返しですから遅筆な私には可なりの難行でした。終わりました。ありがとうございました。