前半
先月の12日、新宿の東京オペラシティ・コンサートホールで開かれた古きウィーンのサロンオーケストラ(Salonochestoer Alt Wien)のニューイヤーコンサート2017を聴いて(鑑賞して)きました。ウド・ツヴェルファー(コンマス)率いる小編成のサロンオーケストラに、ソプラノのヘーゲ・グルターヴァ・チョンとバリトンのセバスチャン・スーレの美声の歌手二人に加え、魅力たっぷりのバレエ・ダンサーのニコラ・マローヴァ(バレリーナ・女)、ミヒャエル・シュティーバ(バレリーノ・男)が出演しました。
唯単にオーケストラだけのニューイヤーコンサートでは無く、色物(歌に踊り)を加えた魅力たっぷりの演目が目白押しのコンサートでした。ウィーンの華麗なるエッセンス、新年最初の見事な娯楽を与えてくれました。
このチケットは、新聞紙上にあった抽選の招待券でしたのですが、私らが当たったのは、只券で無く割引券でした。まあ半額の¥3,000でしたのでお得感は大きいものがありました。新宿ですので交通費は掛かりましたが、横浜の2倍くらいは仕方がないですね。そこまで考えたら何処も出掛けられません。良いものを楽しむには、ある程度の出費は当然ですね。
1、ポルカ・シュネル「雷鳴と電光」OP324 ヨハン・シュトラウスU世
ポルカには種類があり、ポルカ・シュネルはドイツ語で、早いポルカを意味します。ポルカはボヘミア(チェコ)の民族舞踊ですが、19世紀になるとヨーロッパ各地で人気が出て踊られるようになりました。ポルカ・シュネルは速いポルカで、快速のテンポで弾き踊られます。ヨハン・シュトラウスにも多くのポルカがあり、ニューイヤーコンサートの定番曲が多くあります。「雷鳴と電光」はジルベスター(大晦日)コンサートのカウントダウン曲で、エンディングの号砲で年が明けます。この日は景気付けにこの曲を冒頭に選んだようです。年の改まり新年を示唆したのでしょう。
2、ワルツ「ディナミーデン(隠された引力)」OP173 ヨーゼフ・シュトラウス
シュトラウス家の次男・ヨーゼフが書いたワルツ。工業技師の職を得ていたのですが、初めはヨハンの病気代役で出ていた音楽の世界に、とうとう居着いてしまった男。才能があったようで、作曲も巧みにこなしたようです。理系の出身で、その音楽の中に科学の理論を導いたようです。その好例がこの隠された引力ですかね? まあ私には普通の綺麗なメロディーのワルツにしか聴こえないのですがね。時は産業革命の真っ只中、科学への関心が高まった時代でもありました。バレエのニコラとミヒャエルが流れるような柔らかい踊りを魅せました。ここではワルツ風の密着の舞踏ではなく、バレエ風な空間のあるダンスでした。
3、オペレッタ「こうもり」より アデーレのクープレ『田舎娘を演じる時は』 ヨハン・シュトラウスU世
こうもりとは、産業革命で成り上がった好色で飲兵衛な男女のドタバタ劇をオペレッタ(喜歌劇、軽歌劇)にしたもの。この曲は「こうもり」の中の有名なアリア。お手伝いのアデーレの歌うアリアで、偽貴族の男に自分の演技力を示し、女優になる支援をお強請りする下りを描くもの。快活ながら色っぽい風情を魅せて誘惑する蠱惑的なアリア。ソプラノのヘーゲ・グルターバ・チョンが魅惑的に歌いました。私は、このコロラトゥーラ風の確かな音程の張り裂けんばかりの高音に、全身が泡立ちました。好いですねソプラノ…
*クープレ=ロンド形式の主題以外のエピソード(挿話、逸話)の事。A-B-A-C-Aのロンド形式のBとCを言う、Aが本筋。本筋の合間に挿入する小話。
4、ポルカ・シュネル「ハンガリー万歳」OP332 ヨハン・シュトラウスU世
ハンガリーの独立運動を抑制するため、オーストリア=ハンガリー二重帝国建国2周年を祝う記念行事が行われ、その舞踏会で初演されたポルカ・シュネル「ハンガリー万歳」。シュトラウスはこの曲にハンガリーの行進曲を引用してハンガリーを称え、ハプスブルク家の意向思惑に応えました。
5、オペレッタ「ジプシー男爵」よりホモナイの歌『徴兵の歌』
この曲は私が検索した限り、ユーチューブにはなかったのですね。今になって初体験の曲は、印象が薄く、思い出せません、セバスチャン・スーレが上手く歌っていた事は重々承知でしたが…
6、ポルカ・シュネル「浮気心」OP319 ヨハン・シュトラウスU世
浮気心の題で心時めいては行けません。この題はホンの浮気心・軽い気分で付けた題名、ギャロップのリズムが特徴。ニコラとミヒャエルの踊りも軽快そのもの。
7、皇帝円舞曲OP437 ヨハン・シュトラウスU世
自らを皇帝と位置付けた飛んでもない自負心の産物と言われています。まあオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフT世の即位40周年を念頭に入れての作曲だったようですが…。しかしそれにしても名曲、美しく青きドナウ、ウィーンの森の物語などと並んでシュトラウスの傑作ワルツの一つ。
休憩
後半
8、オペレッタ「こうもり」より『序曲』 ヨハン・シュトラウスU世
この序曲は稀代の名曲、このオペレッタのさわりの数々を見事に繋ぎ合わせて開陳する、見事な腕前ですね。メロディーを繋ぎ合わせて一つの音楽にする、それが自然に聴き手に入り込む、賛美者ブラームスが言う様に一種の天才ですね。世紀末のウィーンを舞台にした酒と女と踊りの世界、こうもりとはフロックコートを着て夜な夜な女の許へ通う男を称した退廃的名称。
9、オペレッタ「天国と地獄」より「カンカン」 ジャック・オッフェンバック
ユダヤ系ドイツ人のオッフェンバック、そのオッフェンバックが書いた代表曲が、1858年10月21日にパリで初演されました。正式なタイトルは「地獄のオルフェ」で、有名なギリシャ神話の「オルフェウス」のパロディーとなっています。オルフェオと妻のエウリディーチェが倦怠期の夫婦に扱われており、初演時賛否両論を巻き起こしました。
「カンカン」、これは余りにも有名な曲で、日本の初期のテレビでは、文明堂のカステラのCM音楽に使われました。地獄でのダンスに登場するダンサーが高く足を上げて踊る蠱惑的な音楽です。この日はバレエのプリマ・ニコラ・マローヴァが圧巻の「カンカン」を魅せてくれました。その高く上がるしなやかな脚、赤いペチコートとパンティーがもろに晒されエロチックの極み、男共の瞠目の視線が一点に釘付けに…。この日一番の大ブラボーが鳴り止みませんでした。
10、オペレッタ「オペラ舞踏会」よりアンリとオルタンスの二重唱「別室へ行きましよう」(シャンブル・セパレ!) リヒャルト。ホイベルガー
副題でも判るように、極めてふしだらな物語。3カップルがそれぞれのパートナーの目を盗んでは別室へ消えて行く。ヘーゲ・グルターバ・チョンとセバスチャン・スーレが色っぽく歌いました。
11、行進曲「さあ、やるぞ!」 フランツ・レハール
やる気満々の軍楽隊長だったレハールが、若さを爆発させたマーチ、後のレハールの大成を覗わせる曲。
12、オペレッタ「ウィーン気質」よりガブリエレとバルディンの二重唱「ウィーン気質」 ヨハン・シュトラウスU世
ヨハン・シュトラウスU世の遺作、最後のオペレッタ。1814〜15のウィーン会議に想を得た作品。架空の国のウィーン大使・バルディンとウィーン女性ガブリエレの物語。ガブリエレが夫に「ウィーンの血、気質は特別なもの」と歌いかけるウィーン気質は二重唱の名曲。
13.「美しく蒼きドナウ」OP314 ヨハン・シュトラウスU世
普墺戦争に敗れたオーストリア国民を勇気づけるために、ヘルベック(ウィーン男声合唱協会)に頼まれて作曲した曲。最初に管弦楽で作曲されそれに男声合唱を乗せた曲。ヨハン・シュトラウスU世の代表曲でもあり、あらゆるワルツの最高傑作と誉めそやしても良いでしょう。ブラームスがこよなく愛した曲と言われています。ヨハンのウィーンでの評判は下ネタの下世話な作曲家と罵られていました。ところがブラームスが事あるごとにヨハンを褒めたので、やがてウィーン音楽批評界(ハンス・リックなど)もブラームスに倣ってヨハンを認めるようになりました。ヨハンはブラームスに恩義を感じていたようです。
まあ兎に角、肩の凝らない楽しい音楽会だったので、大満足でした。