*調律道具一式一覧

写真上の長い布(丸めたものも)がミュート、左はチューニング・ハンマー、その右はゴム・ウェッジ(細く長いものと太く短いものがあり用途に合わせて使う)、続いてその右は音叉(チューニング・フォーク)、更にその右が木のウェッジ。
音叉は左からA440Hz(ヘルツ)、A442Hz、A443Hz
*調律道具の使い方
@ミュート

調律道具のミュートとは基礎オクターブ(33F〜45Fの十三音)を作る際、33Fから45Fまでのそれぞれ三本の弦の両外の二弦の間に挟んで使う布切れ、その二弦の音鳴りを止め、本来の目的である中央のそれぞれ一本の弦だけを鳴らすための道具である。普通4mmの厚さのクッション・フェルトを使うが、すぐに崩れてボロボロになるため、私は毛織物の布切れを縫い合わせたもの(3mm程度)を使っている。因みにこの布は娘のスカートの廃材。
純粋に調律はミュートを挟むことからスタートする。そしてその後、音叉を鳴らして基礎オクタ−ブ内のA音・37Aの二倍音を音叉と同振動の音にする。これで37Aは正確な音程となる。
この際の作業としてはもう一方法あり、それは音叉で49Aを取り、その後ピアノ内で49Aから37Aをオクターブで取る方法であり、これが本来のやり方ではある。私は面倒なので多少の差異は出るが直接音叉から37Aを取る。
*ピアノでは49AがA=440Hz〜443Hzとされている。
A音叉(442Hz)

楽器(ピアノ他)や声のピッチ(音楽をする標準の音の高さ)を決める大切な定規(基準)。現代のクラシックピアノではピッチは高めであり、普通442ヘルツで調律される。クラシック音楽以外は440ヘルツが一般的である。
まず49A(440Hz)ないし37A(220HZ)をA442Hzの音叉で合わせる。直接37Aを442Hzの音叉で合わせる際は37A(220HZ、オクターブの関係は振動数が2対1であるから)の同時に鳴っている二倍音(440Hz、音の中には必ず倍音が含まれてる)を使い442HZに合わせる。
*Hz(ヘルツ)=音波の一秒間に振動する数を表す単位。従って、442Hzと言えば音の波が一秒間に442回出ている事である。440HZの音叉と442HZの音叉を同時に鳴らすとその振動数の違いから一秒間に二回のビート(基音の聞こえる波、唸り、ワン・ワン…と鳴る)が出る。一般のピアノの調律とは二弦間で干渉し合う基音並びに倍音の唸り(ビート)を聴き分け、平均律調律法に従って全八十八鍵盤分(合わせて約二百三十本の弦)の音を適切に配置していく作業である。
*基音と倍音=どんな楽器(音)の一音でも音の中には基音と倍音が同時に鳴っている。
基音=その音、弦の全長で鳴る一番強く低い音、これより下の音は出ない。
倍音=基音の整数倍の音、極短に小さいが必ず出ている。
例、A音(基音)の場合、二倍音=一オクターブ上のA、三倍音=一オクターブ五度上のE、四倍音=二オクターブ上のA、五倍音=二オクターブ長三度上のC♯、六倍音=二オクターブ五度上のE、八倍音=三オクターブ上のA *七倍音は平均律調律法上にはない音程、二オクターブ七度上のF♯とGの間辺りの音程の音。
Bチューニング・ハンマー(略してチューハン)

チューニング・ピン(弦の巻口の突起)に差し込んで回し、弦を伸び縮みさせて調律をする梃子の棒。私のチューハンは伸長式なので、腕の長さやチューニング・ピンの圧力の力加減により長さを調節し選べる。28pから45pの幅があり、私は大体40p辺りで使っている。
このハンマーの回し方にはコツがあり、それは一人の調律師の生涯の修行となる。それが巧みならば巧みなほど、その調律は正確であり保持力は高い。美しい響きが長く続くのである。一つの参考として誤解を恐れずに言えば、二時間のピアノ演奏会で終演後までびくともしない調律ができたなら、それは調律師として最高の栄誉だと私は思う。
Cゴム・ウェッジ

低音弦に使う グランドの高音弦には右の太く短いものが使い易い
弦に挟んで止音する役目の楔形の道具。フェルトのものもある。私はフェルトのものよりゴム製が使いやすい。それはしっくりと弦に止まり弾けにくいからだ。
D木のウェッジ
アップライトピアノ次高音用 高音用
アップライト・ピアノの次高音、高音用の止音ウェッジ。木片の棒に鹿皮が貼り付けてある。ゴムのものもある。
アップライトピアノの次高音・高音域はアクションの形態により普通のウェッジでは使いにくい、従って細く長い木のウェッジが必要となる。
私のブログ、ピアノの話7・道具作りと修復を参照。
*二本の弦の振動数の対比によって調律はなされる。ピアノは一音三弦の楽器なのでどうしても邪魔な弦の音鳴りは消さなくてはならない。そこでミュートとウェッジが必要となる。