2016年09月11日

ピアノの話50 横須賀市文化会館のスタンウェイD型 2016.09.11

早起きをして、雨の中を向かった、横須賀文化会館。大ホールのステージ上には長々としたスタンウェイ&サンズのD型フルコンサートピアノが横たわっていました。

早速、大屋根を上げ、譜面台と捲り蓋を外し、鳴らしてみました。スタンウェイらしい音が響きました。明るく良く通った音、粒が揃っていて、一音一音がハッキリと自己を主張しています。刺激音は無く、遠鳴りするのにキメの細かい肌触りがありました。好い音でした。

先ず、ペダルの踏み加減を診てから調律へ…。ピアノの音律は、ピッチのA=442Hzは保たれていました。但し、割り振りの基礎オクダーヴにバラつき(唸りは4度が少なく5度が多め、5度汚し)があり、そこから次高音、更に最高音辺りまでが、下がり加減でした。制限時間は90分、時間が無いので、基礎オクターヴは動かさず、ユニゾンを直すだけ、低音は比較的綺麗でしたが、所々を修正しました。問題は次高音から最高音までで、修正では追い付かず、全調律ピンを動かし、正しいオクターヴ、2オクターヴ、3オクターヴが得られるように、調律をしました。5分前、終了しました。ピアニストは即座にOKを出されました。

この音楽会は、熊本復興支援コンサートと名されたチャリティーコンサートでありました。熊本在住のピアニスト・月足さおりさんと、音楽デュオ・ドゥ・マルシェが出演するコンサートでした。私も鑑賞したかったのですが、私と妻は、これから”さだコン”なのですよ…。ソロソロ出掛けるのです。
posted by 三上和伸 at 14:36| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月19日

ピアノの話36 フクヤマモジュラーピアノアクションの修理 ハンマーフェルト貼り付けとバットセンターピン全交換及びブライドルテープ全交換 2012.03.17

「フクヤマピアノ…」、何と懐かしい響きなのでしょうか。今はもうそのピアノはありませんが、昔実家で弟が使ったのがこのメーカーのピアノでした。私もそうでしたが、我が弟は芸術に興味を持ち、私は習わなかったのですが、弟は年少よりピアノや書道を習い、直ぐに頭角を表しました。親馬鹿?の父母は、何とこの弟に当時としては大金が必要であったピアノを買い与えたのでした。勿論月賦(ローン)であり、その月々の払いのために、母は働き(パート)に出たのでした。後年、私がピアノ調律を職業に選んだのも、このピアノの存在が大きく、その修業時代には、このピアノで随分勉強させて貰いました。更に、この当時の一年余りの間には、私は生まれて初めてピアノ演奏を習いました。初歩のバイエル教則本を終えただけでしたが、私の職業の充実に於いて、何かしらの得るものがあったと今は思っています。

1、モジュラーピアノのハンマーバット(右)とアップライトピアノのハンマーバット(左)との大きさの比較
ハンマーバット
同一なのは下部のフレンジ(回転軸の部分)のみ、バット本体やキャッチャー(右端)までのシャンク(棒状)の長さも短い。勿論、ここにアップライトのハンマーシャンクは無いが、ハンマーシャンクの長さの差異は更に大きい。

2、ハンマーフェルトの剥がれの手当て
ハンマーフェルト剥がれの修理
ハンマーフェルトの付け根の部分が剥がれる故障は、古いピアノによく見掛けるもの。どんな接着剤でも良いが、接着剤を入れたら糸などで縛り圧する。乾いて強固に接着したら糸を外し、接着剤のカスをナイフで取り除く。


3、センターピン交換(スティックとガタツキの修理)

@バットフレンジセンターピンのスティック
センターピンスティック
バットスプリングは正常なのに、全く元に戻らない激しいスティックである。しかも、これが全鍵に亘ってこの状態にある。これでは全く用を成さず、このピアノは演奏困難な状態となっている。従って全88鍵分のバットフレンジのセンターピンの交換が必要となる。

Aセンターピンの種類、3種の番手と直径(太さ)の数値
センターピンの番手
左:#20(1.250mm)、中:#20.5(1.275mm)、右:#21(1.300mm)
このフクヤマモジュラー型のバットに使われているセンターピンの番手は#19乃至#19.5であるからして、交換用はそれよりやや太いセンターピンを使う。何故なら、センターピンホール(穴)のブッシングクロスの質量は変わらないのであるから、同じ太さのセンターピンを入れては後にガタツキの原因になるからである。リーマ(穴抉り工具)でブッシングクロスを抉り(こじり)、穴を僅かに広げ滑りを改善し、ピン味を確認し、やや太いセンターピンを入れるのである。

このピアノでは、大体、以上の三種があれば、事足りる。

Bセンターピン交換の手順
一方ごとにガタツキとピン味(抵抗)を確かめる リーマで抉る 両方に通しピン味を確かめる

T.片方ずつホールとピンの相性(ガタツキと抵抗)を確認し、やや抵抗のある一番適当な番手を選ぶ。
U.片方ずつリーマで抉り、ピンを入れてピン味を確かめ、滑りがあり抵抗もある最良のピン味が得られるまで何回も繰り返し、それを作り出す。
V.両方にピンを入れ、指で押して更にピン味を確かめる。

フレンジをバイス(万力)に挟んでガタツキを確認する
W.最後にフレンジをバットに取り付け、フレンジをバイスに挟み、ガタツキの確認をする。


4、モジュラー型ピアノのブライドルテープ全交換

@アップライトとモジュラーのブライドルテープの比較
U型とM型のブライドルテープの比較
写真で見る通り、モジュラー型のブライドルテープはアップライトに比べかなり短い。新しいブライドルテープに交換するには、この短い寸法でテープ部分をカットしなければならない。

Aブライドルテープ切断定規の調整
定規のピンを抜く 見本に合わせて定規ピンを打ち込む
新たにモジュラー型ピアノ用にブライドルテープ切断定規を調整する。ピンを抜き、見本に合わせて新しくピンを打ち込む。

Bブライドルテープの切断
切断
新品のブライドルテープをモジュラー型サイズに切断する。全88本、狂いない正しい寸法で断つ。

因みに、ピアノの話17のブライドルテープ全交換と、ピアノの話21のセンターピン全交換も参考までにご覧ください。





posted by 三上和伸 at 23:29| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月12日

ピアノの話35 不可能を可能にする経験と技術 2012.02.12

今日の仕事は、ある幼稚園のピアノ調律でした。ところが、その内の一台のピアノの上にはオーディオセットが置かれてあり、はたと戸惑いを覚えました。普通なら、そのセットを降ろして屋根蓋を開き調律するのですが、それは地震による落下防止のために強力に接着されており、屋根の部分が固定されて動かなくなっていたのでした。勿論この場合、調律不能の烙印を押す事は容易い?のですが、そこは数々の仕事の修羅場?を潜り抜けて来たピアノ調律のプロの私、屋根をそのままにして調律を始めました。チューニングハンマーの位置取りと可動範囲は極端に狭かったのですが、工夫を重ね、難なく無事調律し終えました。

 50度の狭い可動範囲 180度の広い可動範囲
左が屋根蓋開閉不能のピアノ 右が普通にチューニングハンマーを使えるピアノ
僅か20cm有るか無いかの可動範囲、チューニングハンマーを立てられず寝かしたまま、屋根にぶつかり、ハンマートップにぶつかり、ポジション取りが大変でした。

低音部のT・ハンマー位置取り 中音部のT・ハンマー位置取り 高音部のT・ハンマー位置取り
左:低音部 右:中音部 下:高音部 それぞれの範囲のチューニングハンマーの位置取り
何と言っても、高音部の窮屈なハンマーの位置取りとハンマーの微妙な扱い方が難しかったのでした。完全な調律ができたのは、長年の経験と弛まぬ技術練磨の賜物と自信をもって言えるでしょう。
posted by 三上和伸 at 21:53| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月07日

ピアノの話34 近代現代グランドピアノアクション二種 2012.02.07

シュワンダー型レンナ―アクション  ダブルスプリング・スタンウェイ型ヤマハアクション
左:ディアパーソンピアノのレンナ―アクション 右:ヤマハアクション
左が十九世紀の末にヘルバーガー・シュワンダーが発明したシュワンダー型の近代アクション。右がスタンウェイ社が発明したダブルスプリングのスタンウェイ型アクション。ヤマハのグランドピアノにもこのスタンウェイ型アクションが使われています。

勿論、この二つのアクションとも、ダブルエスケープメント方式のアクションですが、よく見るとレぺテイションスプリングの形状が異なっています。スタンウェイ型のダブルスプリングの方が耐久力があり、動きの効果が俊敏です。但し、そのスプリング強弱調整はスクリュウを回すだけでできるシュワンダー型が使い易いと言えます。スタンウェイ型はスプリングをスプリング調整工具で抉(こじ)らなければならないのです。シュワンダー型は古いアクションですが、未だ廃れぬ優れた性能を持っているので、現代のグランドピアノにも使われ続けています。

ダブルエスケープメント方式の同音高速連打機能の説明は何れ近い内に…。
posted by 三上和伸 at 22:59| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月07日

ピアノの話33 これぞ、アメリカン・スピネット

1、シェイファー&サンズ社のアメリカンスピネット・ピアノ
シェイファー&サンズのスピネット
鍵盤と屋根との高さの差が極めて小さい、スタイリッシュなデザインをしています。エレガントな居間に程良く溶け込んで様(絵)になるので、アメリカ人は殊の外このタイプを好むようです。ピアノ造りの盛んなアメリカでも取分け人気の高い売れ筋の商品です。

シェイファー、比較的デザイン優先のスピネットピアノの中では、弾き易い、安心のピアノ造りをしているメーカーです。

2、スピネット独特のドロップアクション
背の低いピアノ(打弦点が低い)本体と普通の高さの位置にある鍵盤とを融和させるには、アクション(ハンマーの位置)を低い位置に下げざるを得ません。ピアノ造りの職人はその昔、ドロップアクションを発明しました。需要に応え限界を突き破る職人魂、素晴らしいですね。
スピネットピアノのドロップアクション
やや見にくいですが、写真下部の鍵盤面よりアクションの位置が相対的に低く、アクションの半分以下が下に沈み込んでいます。鍵盤と同じ高さにあるのは、ハンマー辺りだと言えます。一般のアップライトピアノでは、鍵盤最奥部にキャプスタン(ダウル)があり、その上部に全アクションがあります。鍵盤のキャプスタンにはウィペンヒールが接しており、それらが連動してアクション上部のハンマーに動力を伝えます。しかしドロップアクションの鍵盤最奥部にはロッド(竿)状の梃子であるアブストラクトの最上部が固定されているゴムの固定具のみが見えます。そのロッド状のアブストラクトは、その下に深く沈み込んでいるウィペンに固定されており、鍵盤の動力をウィペンに橋渡しします。そしてアクションを作動させハンマーを連動させ打弦するのです。

従って、ドロップアクションとアップライトアクションの比較は、ウィペンからハンマーまでの上部の構造は殆ど同じですが、鍵盤と低いアクションのウィペンとを繋ぐアブストラクトの部分が異なるのです。

その結果、ドロップアクションは動力の伝達に間があり、ロストモーション(空・遊び)が出易く、シャープなタッチやバランスにやや劣る面があります。
posted by 三上和伸 at 22:39| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月22日

ピアノの話32 昭和40年製ヤマハU2B 2011.10.22

昭和40年製造の大量生産前のヤマハU2B、木の多用や鹿皮の使用、接着には膠(ニカワ)を使い、銅巻き線は手巻き…。古き良き時代のピアノ造りが辛うじて残されているのが見て取れます。

@アクションの素材
アクションの素材
鍵盤のダウルボタンやジャックは木製(現在はプラスティック製)、木は軽さが良いとされています。バットとキャッチャー及びブライドルチップのスキンは鹿皮、鹿皮には人口皮革に無い繊維の目があり、バットは順目に貼り滑性に優れ、キャッチャーは逆目に貼り確かな捕獲性があります。ブライドルチップはしっかり原型を留め、ガタツキが出ていません。キャッチャーの接着はボンドのようですが、ハンマーシャンクには膠(現在はボンド)が使われています。音質的には膠がベストと想われます。

Aバットスプリングコード
バットスプリングコード
これは化学繊維と想われますが、変質が無く脆くなり切れる様子は全く見当たりません。化学繊維は化学繊維でも明らかに後の大量生産時のものと異なるようです。46年間、ビクともしなかった…。

Bペダルと手動マフラー
二本ペダル ペダル突き上げ棒 
この時代のピアノは二本ペダルが標準型(写真左)、しかもペダルからアクションへ動力の伝達をつかさどるペダル天秤(写真左の上部・白木の角材)と突き上げ棒(写真右)は木造りです。美しく削り出され工作されています。写真はソフトペダルの突き上げ棒。

手動マフラー
二本ペダルゆえ弱音器が付かないのがこの頃のピアノの常(習い)、後に騒音問題が世間を騒がせたおり、窮余の策としてこの後付けの手動マフラー(写真)が考案されました。騒音を気使う家庭ではこれを取り付けたのです。私も良く頼まれて取り付けました。

右隅の錘(おもり)を上げ下げしてマフラーを作動(ON:OFF)させる。慣れれば使い易い…。
posted by 三上和伸 at 23:21| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月14日

ピアノの話31 重厚なる逸品 ニューヨークスタンウェイモジュラー型

ニューヨークスタンウェイモジュラー型 アクション
デザインはシンプルで近代的、しかし木目の質感は素晴らしく堅牢な造りで重厚な佇まいを魅せています。木を扱う名工の作、観た途端思わず、ピアノって良いな…と口走ってしまいます。しかも音質も柔らかく優しい甘さを持ち、アットホームな落ち着きがあります。決してがなり立てるような音ではなくしっとりと心に染み入る音です。百年使える逸品です。

一見するとスピネットタイプと見紛うデザイン、しかしながらアクション(写真右)を見れば一目瞭然、スピネット型のドロップアクションではなく、簡易型のアップライトアクションが据え付けられています。従ってこれはモジュラー型と断定されます。スピネットは素敵ですがドロップアクションが欠点であり、その穴を埋め代替となったのがモジュラー型ピアノでした。日本のメーカーもアメリカ輸出用(ヤマハM−Tなど)に多くが生産されました。アメリカ人はスピネットにしろモジュラーしろこのタイプが好きなようです。優雅な部屋のインテリアには最適なピアノですからね。

この家のご主人もアメリカ在住の折、お買い求めになられたそうです。素敵な買い物をされました。
posted by 三上和伸 at 23:06| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月10日

ピアノの話30 銅巻き線の断線と張弦A

昨年の11月28日付のピアノの話22で銅巻き線の張弦に付いて述べました。そこでは写真を添付しておらず、言葉だけの説明に終始しました。されどその説明は細に亘り詳しく述べられていると思います。今回写真は撮れましたが、前回の解説との重複は避けたいので、今回は写真を基に捲き方のみをご説明致します。詳細に付いては、ピアノの話22もご参考までにお読みください。

切れたのは23Gの二本弦の内の右弦、数日前、その断線した巻き線を部品メーカーに送り新たな巻き線を作って(捲いて)貰いました。そしてこの日、それを携え張弦をするためにお客様を訪ねました。

@対象のピアノと新しい巻き線
ピアノと新しい巻き線
上前板、鍵盤蓋、下前板を外し、さらにアクションを外したピアノ。全弦がむき出しになり、23Gの右弦がチュウニングピン巻口から上部ベアリングの位置まで残骸として残り、そのベアリングの位置で切れているのが分かる。古い弦は部品メーカーが処分するのが通例で最早ないが、鍵盤の上には新しい弦が置いてある。

A残骸の弦を外す
弦を外す
ニッパーで弦の端緒を挟み、コイルとなっている捲き口を回し戻しチュウニングピンから外す。外したらチュウニングハンマーをチュウニングピンに差し込み、チュウニングピンを三回転回し戻して置く。何故なら、弦は三回転巻きだから、新たに巻く場合は三回転戻さなければチュウニングピンは元の正しい位置には収まらない。

先ずは銅巻き線の一方の端緒の玉(輪)をヒッチピンにはめ込んで置く。
Bワイヤーカッターで余分な弦を切り落とす
弦長整え
銅巻き線は一方の端緒が玉(輪)でこちらが鉄骨のヒッチピンに取り付けられる、もう一方の端緒はチュウニングピンに三回転のコイルにして捲かれる。元々、チュウニングピン側はコイルの分とピアノによってチュウニングピンと上部ベアリング間の長さがまちまちであるため、余分に長目に作ってある。従って正しく必要な弦の長さを得るため余分な弦を切り落とす必要がある。この際、三回転のコイルを作る分を加算して断つ。その長さは一定だが、それを得る目安は技術者によって異なり様々である。私の目安は小指、薬指、中指、人差し指の四本分の幅の長さで、まず左手の親指とその他の指で弦を挟み持ち、ベアリングピンに掛け、チュウニングピンに小指を置き、そのままの格好で、上部の人差し指の最上部に当たる弦の一点をワイヤーカッターで断つ。写真は自演自撮で左手はカメラに持ち替えた為、弦を放した格好だが、本来は左手でしっかり弦を挟み込んでいる。

C三回転のコイルに捲く
捲き始める
チュウニングピン内のホール(弦通し穴)に下から弦の端緒を指し込み、ホール上部からはみ出ない程度に留める。但し差し込みが足りないと爪が小さく、何かの拍子で外れる可能性がある。必ず最奥部まで差し込む。

左手人差し指でしっかりチュウニングピンと弦の接点付近を押さえ、チュウニングハンマーを右回転で回す。ガクッと半月状に弦が曲げられるがこれが爪である。これがしっかり出来ていれば弦のチュウニングピンからの脱落はない。

更に回転させると三回転のコイルが出来上がり、その上更に回転させれば弦は固く張って来る。コイル作りで重要なのは回転させながら順次弦を緩やかに隙間なく奥に送り込む事である。弦を重ねさせたり、手前に送ったりでは良いコイルは出来ない。

D銅巻き線を捩じる
捩じり
銅巻き線を雑音の無いより安定した音鳴りにするには芯線(銅巻き線の芯になる鋼鉄線)と軟銅線の密着が必要となってくる。従って軟銅線の巻き方向と同方向に一回転ほど捩じる。このピアノ(巻き線)は右回転。

一旦弦を緩め、玉をヒッチピンから外し、ドライバーを玉に挿して弦を捩じり、そのまま元のヒッチピンに戻す。同時に駒ピンにも弦を掛けて置く。

Eかき上げ
かきあげ
コイルをかきあげながらチュウニングハンマーで弦をある程度強めの張り加減にする。コイルが密着し美しい三重コイルとなる。

F爪の処理
爪の処理 左:チュウニングピン巻口の爪と右:高音部ヒッチピンに掛ける玉(輪)
出っ張った爪をチュウニングピン内ホールに押し込み密着をさせる。

G弦のベアリング、ヒッチピン、駒ピンへの密着
弦の密着 銅巻き線の玉(輪)
調律の狂いや雑音の防止、さらによりよい音鳴りの実現に各接点部の密着は絶対に欠かせない。張弦をする者は肝に銘じて欲しい。

Hかき下げ
かき下げ
これが美し張弦の証。コイルの最前列がピンホールの半分を覆う位置に整える。

最後に調律をして完成。アフターサービスは頻繁に念入りに。

posted by 三上和伸 at 09:51| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月14日

ピアノの話29 ベッティングスクリュウとアグラフについて

数日前の質問に『グランドピアノの鍵盤裏に調律する穴はあるか?』と『アグラフの雑音』があり、それらについて答えます。

ベッティングスクリュウ
最初の鍵盤裏の調律ピンですが、恐らく写真のベッティングスクリュウの事を言われたのだと想います。これはアクション一体型の鍵盤の筬(おさ・キーベッド)をその下の棚板に隙間なく均一に乗せるための調節器具。このピンの下部は平面となっていて棚板に密着するようになっています。隙間があると打鍵タッチに影響し雑音の原因にもなります。調律ピンに似ていますが、決して調律ピンではありません。

中音部のベアリングのアグラフ 次高音部の鉄骨のベアリング
『アグラフの雑音』ですが、アグラフは雑音の出難い優れものであり、まず、アグラフでの雑音のクレームは皆無に等しいと断言できます。むしろ次高音部の鉄骨のベアリングの方が雑音は顕著に顕われます。これがグランドピアノの最大の欠点であり、弾き込んで年数の経ったピアノは必ず出てしまうものです。右写真をご覧のようにベアリング直下の弦にフェルトクロスを巻きつけて雑音の軽減をしています。しかし、それも付け焼刃であり、完全に直すには、新たに張弦をし直す事が必用です。その際、鉄骨のベアリング部分を油砥石でよく磨き、弦の圧迫痕をなくす事が肝要です。
posted by 三上和伸 at 22:39| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月22日

ピアノの話28 ピアノ弦の整理と補充 2011.05.22

大分弦を消費しましたので、この日、私が契約してるピアノ店に出向き、弦の整理と補充をしてきました。現場で弦が足りなければ、そこで立ち往生をしてしまいます。高が弦如きで時を浪費しては名がすたります。まあ、携帯していない太い弦や巻き線では即時の手当ては不可能ですが、せめて高音弦だけは即刻張り直して差し上げたいと想うのです。

ストックホルダーから外された弦
ストックホルダーから全ての弦を外し錆などがないか点検整理します。必ず番手を記入して誤使用がないようにして置きます。仮に番手と実際の弦の直径が違ってしまったとしても、その都度、切れた弦と新しい弦の径をマイクロメーターで測るので二重の確認はしていますがね。

張弦作業用の弦格納箱
巻き込まれた新品の弦(ミュージックワイヤー)を格納する箱、内径の端緒を上部中心の穴から出し、使う時はするすると抜き出して使います。写真は番手15番のミュージックワイヤー(0.875mm)。

携帯ストックホルダー
整理・補充した弦を番手ごとにストックホルダーに巻き付けて格納します。油紙かシリコンオイルを軽く染み込ませた布に包んでピ二ール袋に入れ、何時でも使えるように携帯します。

大体、番手13番(0.775mm)から番手16.5番(0.950mm)まで携帯します。
posted by 三上和伸 at 22:36| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月26日

ピアノの話27 愛らしい優れもの、ヤマハMー1

現代のピアノでも幾種類かの形態のものがあり、小型の竪型にはアップライトの外にスピネットやモジュラー型のものがあります。スピネットはアメリカに多い品種で鍵盤の位置がほぼトップの高さにあり、極めて家具調であり装飾的です。この写真のピアノはスピネットに似ていますがモジュラー型で、M−1と品名にモジュラーのMが冠されているのでよく分かります。スピネットとモジュラーの違いはその背の高さの違いとそれ故のアクションの違いに表れています。スピネットはドロップアクションが使われており、モジュラーはアップライトアクションの簡易型が使われます。
モジュラーの意味とは規格化された部品を組み立てて造るの意味とか。まあ、簡易型のピアノと言う事ですかね?

1、ヤマハ・モジュラーピアノ・M−1
 組み終えたところ
写真左は鍵盤蓋、上前板、下前板を組み込む前のM−1。チューニングピンやアクションに鍵盤、更に鉄骨(アイアンフレ−ム)や音響板。そしてに二重交差弦やペダル組織などの様子が良く分かります。

写真右は全てを組み込んだ完成の後。大分古くなりましたが、木地塗り(木目調)が美しく愛らしい姿形をしています。アクションの動性や音響のバランスもよく、中々の名器?です。

2、鍵盤裏(筬・キーベッドと棚板の隙間)の防虫剤
防虫剤を入れる
ここは幼稚園の教室、虫が多いのです。ピアノにはフェルト(100%ウールが原料)が多く使われており、イガ(蛾)の幼虫等の虫害には気を付ける必要があります。特に鍵盤周りにはフェルトクロスが多く使われ、もし虫害が甚だしければ鍵盤はガタガタになり雑音を出します。そこで防虫剤を入れるのです。一般家庭でも虫の痕跡があれば入れる必要はあります。

3、ジャックスプリング
ジャックスプリング ジャックスプリング単体
このピアノは製造されてから今年で40年になります。幼稚園ですから使いも荒いのです。大分各部品が老朽化で痛み、数年前アクション・オーバーホールをしたのです。バットスプリングコードやブライドルテープの全交換、更にセンターピン交換やジャックスプリング全交換もしたのです。このジャックスプリングは当時金属疲労を起こし数個が折れジャックの返りの動力を失い運動失調となり、演奏不能となったのでした。そこで全てのジャックスプリングを交換したのです。今後サンプルがでればその修理方法を伝授掲載いたします。
posted by 三上和伸 at 17:34| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年01月15日

ピアノの話26 調律を忘れられたピアノ

 今日はハードな仕事でほとほと疲れました。その内の一台は半音の半分、そう四分の一音ほどピッチの下がった二十年間調律無沙汰のピアノでした。下律と丁寧な下律、そして入念な本律と都合三回の調律をしました。大体この一台で四時間半を要しましたが、その三回の調律の前後と合い間に、掃除、錆止め、アクション全てのネジ締め、ハンマー整形、弦当たり調整、ダンパー総上げにアクションロス調整などの整調、ペダル調整、整音等々をこなし、すべき仕事は山ほどありました。一年に数台余り、こんなピアノにぶち当たる事があります。まあ、プロとして最大限に努力して弾き易く良い音に仕立て直しました。ピアノがピアノらしい本来の音に蘇ったと自負しています。

 今、少々腰と左肩(ピアノを弾く方)に痛みがあります。それに脈も速い…。されど仕事は疲れるもの、思い切り出来るのは幸せな事ですね。
posted by 三上和伸 at 23:56| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年01月09日

ピアノの話25 ジャックスプリングコード全貼り替え

 残念な事ですが、あるメーカーのある時期に作られたピアノのジャックスプリングコードは十数年を経ると切れ始めて不能となるものが出てきます。原因は素材に化学繊維を使ったからであり、素材が科学的に変化し、脆く劣化したのです。先進の志を持つ会社なのですが、少々伝統を軽んじる傾向にあるようです。無理な新素材を開発多用して思わぬ失敗を繰り返していた(いる?)のです。

1、切れたスプリングコード
切れたスプリングコード
茶色に変色した化学繊維のスプリングコード、軒並み切れてスプリングが外れている。誠に情けないていたらくの素材選び、いくら大量生産とは言え、素材選びは念を入れるに越した事はない。ピアノはアコースティック(生の音)の楽器、素材もなるたけ自然のものを使いたい。

2、凧糸を断ってスプリングコードを作る
S・コードを作る
バイスに定規を固定し、その上に凧糸を重ね、断ち鋏で定規と同じ長さ(45mm)に断つ。88個分のS・コードを作る。

3、古いコードを取り去り、糊代を綺麗に整える
糊代の整備
目打ち(千枚通し)でS・コードの糊代(接着溝)を整える。古いコードや接着剤の残骸をこそげ取り綺麗にする。化学薬品(アセトン等)を使い取り去る方が簡単だが、私は毒物を使わずに手間で事を成す。それが気持ち良いのだ。

4、糊代(接着溝)に木工用ボンドを塗る
ボンドを塗る
細い竹籤を使い糊代の接着溝にたっぷりと、しかし溢れ出ない位にボンドを塗る。フレンジの側面やセンターピンホールには絶対にボンドが染みてはならない。

5、S・コードを糊代に入れ込む
コードを接着溝に入れ込む
接着溝に確実にはまるように端々を確認し、コードを入れ込む。

6、強く圧してコードを接着溝に密着させる。
圧して密着させる 加圧後
テーブルの上で良いから強く加圧させ密着を図る。これをしないと後で必ず剥がれ落ちる。なお長い時間の加圧は必要ではなく、一瞬の加圧で十分に強い接着力を発揮する。

7、フレンジをバットに戻す
バットに戻す
コードには絶対に触れずにフレンジをバットに戻す。ネジを固く締め付けておく。一晩寝かせた後、コードをスプリングに架ける。

8、全88鍵盤分出来上がり
出来上がり
ブライドルテープと合わせて全88鍵盤分の出来上がり。美しさは確かな出来上がりの証。

 *私の貼ったスプリングコードは天然繊維の本物。百年切れないと自負しています。
posted by 三上和伸 at 22:13| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年01月07日

ピアノの話24 440Hzの音叉で442HZに調律する方法の質問に答えます

 440Hzと442Hzでは一秒間の振動数に2Hzのずれがあります。この二つの音を同時に鳴らせば互いに干渉し合いその2Hzのずれにより、一秒間に二つの~音のうねり(唸り)~が出(聴こえ)ます。1Hzの違いなら一秒間に一つの唸り、聴きなしで言うなら、ウァーン(一秒間)、ウァーン(一秒間)…と聴こえます。2Hzの差なら、ウァンウァン(一秒間)、ウァンウァン(一秒間)…となります。従って、440Hzの音叉で442Hzを取ろうとするなら、まず、440Hzにピタリと合わせ、そこから高めに一秒間に二つの唸りを出し、そこで止めれば442Hzに合わせられるのです。必ず時計を観ながら合わせる事を勧めます。5秒間に10個で合わせればより正確になります。試してください。チューナーがあれば測定してみて…。

 

posted by 三上和伸 at 22:07| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月15日

ピアノの話23 譜面台ヒンジのご質問に答えます

 今日メールをくだされた貴方、ご質問ありがとうございます。

 貴方の文面を察しますと、私は貴方がご自分で譜面台ヒンジの交換をなさりたいように感じられました。勿論、必要な部品を求める事ができればそれは可能です。部品一式と小型のドライバーがあれば誰にでも簡単に取り換えられます。

 まずは部品(ヒンジとネジ)を調達する事。それには最寄りのピアノ販売店に問い合わせる事。電話でもいいし、出向いてもいいでしょう。そこで貴方がお持ちのピアノのヒンジの形態と寸法を述べて、取り寄せて貰います。大体、どのメーカーのものでも共通ですから手に入れる事ができるでしょう。但し、訳の解らない店員も多いので、訳の解る人(ピアノ技術者)に応対を代わって貰いましょう。

 注意点はネジの種類。全て木ネジなのか、タップネジが使われているか。まあ、今のヒンジにあるネジを再利用するならネジは買わなくて済みます。また、落下防止のピンの穴があるヒンジであるかないか。落下防止ピンがないヒンジだけであれば、同様のヒンジを二つ買えばいいのです。

 後は私のブログ・ピアノの話20と同19ネジの扱い方をよくご覧になられて首尾よく取り換えてください。ご健闘を祈ります。

 一番無難なのは、ピアノ調律師に任せる事です。親切に如何様にでも貴方の御希望に応えます。交換しなくても直せるかも知れませんしね…。もし私が客だったらそうします。生兵法は怪我の元。プロに任せるに越した事は絶対にありません。
 
posted by 三上和伸 at 22:14| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月28日

ピアノの話22 銅巻き線の断線と張弦

 銅巻き線の断線とその張弦についてご質問がありました。詳しくお伝えしたかったのですが、生憎サンプル(切れた弦とそのピアノ)がありません。写真無しの説明になりますが、そのあらましを述べさせて頂きます。何れサンプルが出次第、改めて詳細をご説明いたします。

 現代のピアノは、その音の数、即ち鍵盤数が88とほぼ決まっていて、その内の三割内外の低音部には銅巻き線が張られています。何故銅巻き線が必要なのか?。それはピアノ音楽に必須の音域とピアノのサイズとの相関関係から低音獲得のため使わざるを得ないのであり、長年の経験上、銅巻き線こそが最も違和感の少ない低音を作り出せると考えられてきました。心ある優秀なピアノ制作者は過去に、ありとあらゆる弦に纏わる実験をしてきました。弦の素材や太さ長さ張力の選択等々、その厳しい選択の末に鋼鉄弦に軟銅線を捲いて作る銅巻き線が高い評価を受け生き残りました。現在では銅巻き線は確固たる存在意義を確立しているのです。

 銅巻き線を作るには銅巻き線専用の製造機が必要となります。どんなピアノメーカーや部品メーカーでもこの銅巻き線製造機の一つや二つは必ず備えているのです。また昔の街のピアノ修理工房やピアノ道具屋でも備えた店があり、私が修行した修理工場も一台ありました。我らピアノ職人ならば誰でも練習すれば捲く事ができ、私も実際に捲いていました。但し、その操作は大変難しく、作った巻き線を実際にピアノに張った時の音鳴りに満足する事は少なかった記憶があります。常に捲いている職人だけがその奥義を体得できると私は確信しています。


 *捲き方の説明

1、該当する鋼鉄弦の一方の端緒にピアノ本体のヒッチピンに引っ掛けるための輪(玉と言う)を作り、製造機の一端に取り付ける。そしてもう一方の何もしてない端緒も製造機に取り付け、弦が空中に水平になるようにする。軟銅線捲き付けの範囲の位置をチョークで印を付けて置く。

2、該当する軟銅線を輪のある端緒の方の印した所に手で数回転させ強く捲き付ける。少し離れて軟銅線を弛ませずに持ち、モーターの電源を入れる。

3、激しく回転する鋼鉄弦に、ほぼ直角に強く引き付けて持った軟銅線を、モーターの回転に任せてもう一方の端緒の印の所まで捲きつけて行く。

4、印まで達したら、思い切り軟銅線を引き千切る。製造機から外し、軟銅線の両端緒をプライヤーで整えれば完成である。

 この作業を手巻きと言いますが、大メーカーの多くはある品番を除き手巻きを捨て機械捲きを取り入れています。そこに落とし穴がありました。あるメーカーの機械巻きの銅巻き線は不具合が多く、年月が経つと急に音鳴りに衰えをみせ、ふやけて伸びの悪いものに変質してしまいます。このメーカーはそれを深刻?に受け止めたのでありましょう?。手捲きを増やすとある席で公言しました。如何に人間の熟練のセンス(感覚)が素晴らしいものか、メーカーは身に染みた事でしょう。


 *さて銅巻き線の今現在行われてる交換の作業を箇条書きにして述べてみます。

1、そのピアノの所在する所に出向き、銅巻き線の回収をする。但し、大メーカーの場合は品番・製造番号を確認し必要な弦の規格を提示すれば、メーカーから郵送され獲得が可能である。

2、近隣に巻き線機を持つピアノ工房があれば、そこで切れたサンプルの弦と同じ巻き線を作って貰い買う。但し、工房が近隣にない場合は、浜松の部品メーカーに切れたサンプルを郵送し作って貰う。

3、再びお客様の下に出向き、張弦をする。銅巻き線は一本弦なので渡し込まず、玉(輪)状の端緒を鉄骨上に打ち込まれたヒッチピンに通し掛け、反対の端緒をやはり鉄骨上のアグラフの穴に通しチューニングピンに捲き付ける。この際の最大の注意はダンパー(止音器)を傷つけない事である。その辺りにあるダンパーブロックを外す事を勧める。(ダンパー取り付けは今後紹介する)。前後の諸作業は鋼鉄線張弦(本ブログ、ピアノの話15断線と張弦に明記)と同様なので参照を。

4、最後に調律をする。

5、その後のアフターケアで何度も調律に訪れて差し上げる。
 

posted by 三上和伸 at 16:10| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月03日

ピアノの話21 センターピン交換

 ピアノ演奏をより円滑に行うには俊敏なアクションワークが欠かせません。初めの鍵盤から終わりのハンマーまで、その間には様々な摩擦部分が存在し、それぞれが停滞なく運動しなければ感度のよい滑らかなピアノタッチは得られないのです。ピアノ調律師はそれらの全てを検査し整える責任を負っています。

 そのアクションワークの停滞の一つに各フレンジのセンターピンホールに貼られたブッシングクロスとそこを貫通するセンターピンの摩擦の増大(スティック)があります。長年の保存状態の善し悪しにも関係したブッシングクロスの膨張やセンターピンの錆、更に質の悪いシリコンオイルの塗り過ぎなどもそのスティックの原因になるのです。

 *ブッシングクロス=フェルトを編み込んだ強靭な織物で、このセンターピンの保持及び鍵盤の保持とがたつきの防止、更に運動における摩擦の円滑性と雑音防止の役目を担っています。普通、赤く染められています。

1、スティック
バットフレンジのスティック
これがスティック、スプリングで引っ張っているにも拘らずフレンジは元の位置に戻りません。ここまで悪化すればシリコンオイルなどを吹き付けても解決できません。ブッシングクロス(センターピンを輪になって包み込んでいる)の抉り(こじり)とセンターピン交換が絶対に必用です。

 *抉る(こじる)=くじる、えぐる、ねじる、もじる等、の意味があります。今回の場合はリーマをホールに挿入して回転させ、ブッシングクロスの面を少し削り押し広げる意味を表します。抉ればブッシングクロスの汚れて変質した表面を削り落す事ができ、新たに良質の表面が現れます。

2、センターピン交換に使う道具と材料
センターピン交換に使う道具 
上は掃除刷毛にハンマー 左からセンターピン♯20.5(1.275mm) ♯21(1.300mm) 穴抉りリーマ 穴抉りリーマ鑢タイプ センターピン抜きポンチ センターピンカッター プラスドライバー ペンチ
センターピンの太さによる番手の規格は=♯19(1.200mm)から半番ずつ増して♯25(1.500mm)まで。0.025mmずつ直径の太さが増します。

3、ウィペンとハンマーバットの分解
分解前と後
左:ジャック(上)とウィペンフレンジ(下)のセンターピン取り外し、外したピンと新品のピン 右:バットフレンジのセンターピン取り外し、外したピンと新品のピン

4、ピンとクロスの摩擦と滑りをみる
摩擦と滑り
慎重にブッシングクロスの穴を抉る。絶対にがたつきは避け摩擦を抑え滑らかに動くようにする。
リーマで穴を抉る写真を撮り忘れてしまいました。御免なさい。とにかく抉り過ぎない事が大切、何度もセンターピンを入れてピンの味わいを見て行きます。がたつかず滑らかに滑れば良しとします。

5、取り付けネジを締める
取り付けネジを締める
バットの溝にセンターピンをきっちりと入れネジを締めます。指で動かしてスムーズに動くか確認をします。

6、出たピンをカットする
出たピンをカットする センターピンのカット
不要に出たピンはフレンジの側面に沿わせてきっちりとカットします。少しでも出ていると隣のフレンジのピンに当たり正常に動かなくなります。

7、ジャックのセンターピン抜き
ジャックのセンターピン抜き センターピンを抜き取りジャック外した所
バットのネジ固定式と異なりジャックやウィペンフレンジのセンターピンは打ち込み式になっています。従ってセンターピンを抜くにはポンチを打ち込んで抜くしかありません。この修理で一番突発事故が起き易い行程で、ポンチでセンターピン以外のブッシングクロスも打ち抜く危険があるのです。慎重に打ち込んで、ある程度センターピンが出てきたら打ち込むのを止めて、カッターかペンチで引き抜く方が無難です。極力ブッシングクロスを痛めない事が大切です。

8、センターピンの選択とピン味を調える
センターピンの選択 ピン味の調整
センターピンを番手順にピンホールに試し当てをして、初めて抵抗がありホールに入らない番手のものを選びます。そしてそのセンターピンに合わせるようにリーマで抉りブッシングクロスのピン味を調えます。

9、センターピンの打ち込みとピンのカット
センターピンの打ち込み ピンのカット
ピン味を調えたなら、ブッシングクロスのホールとジャックのピンホールを重ねリーマで通し、両ホールを合致させセンターピンを打ち込んで行きます。完全に打ち込んで動きを確認したら、余分なピンをカットします。

10、一個完成
完成
綺麗にカットされていれば一個完成です。更に全八十八個分を完成させます。

posted by 三上和伸 at 21:21| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月01日

ピアノの話20 譜面台ヒンジ(蝶番)の取り換え

 横浜のある幼稚園での調律の折の事。一台のピアノの譜面台が元に戻した時しっかり固定されず、鍵盤蓋を閉める際に脱落し、鍵盤に打ち当たると言う故障が発生していました。これは長年の酷使の結果、ヒンジ(蝶番)の心棒とパイプ及び脱落防止のピンの穴が摩耗したもので、ヒンジの交換が必要となりました。
 メーカーにワンセットの譜面台ヒンジを注文し、後日、交換取り付け作業を行いました。

新品のワンセットの譜面台ヒンジ
左上が金ネジ(タップネジ)6本、下が木ネジ6本、右上が脱落防止ピン用の譜面台ヒンジ、下が一般の譜面台ヒンジ
これらがワンセットとなった譜面台のヒンジです。一つの部品が欠けても完成できません。

摩耗したヒンジ
古く摩耗したヒンジ、長年の酷使に耐えてきました。役目は終わりました。ご苦労さん。ネジを緩め取り外します。

新しいヒンジ取り付けのネジ締め
真鍮のネジは脆く、ネジの上部のドライバーを差し込む溝は崩れ易い。垂直にドライバーを当て、慎重に締め上げます。締まり掛け抵抗感が出てきたら更に慎重を期し締め上げます。最後は強い抵抗が出てそれ以上回らなくなるまで締め上げたら終了とします。締め上げの念を怠ると必ず緩みが出てがたつき、タップネジは脱落し紛失します。

交換完了
ネジ上部の溝を崩すことなく綺麗にできました。誰でもできる簡単な作業ですが、迂闊にやると溝を壊す事になります。美しく出来なければ何の価値もありません。
posted by 三上和伸 at 23:12| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月09日

ピアノの話19 痛恨のネジ切れ、薄氷を踏むネジ締め、ネジの扱い方

切れたネジとネジ ハンマーバットのネジ締め
ピアノには多くのネジ(螺子・螺旋)が使われています。数えた事はありませんが、一台のピアノには大小合わせて凡そ千本位のネジが存在すると想われます。その内のピアノ調律師の領分であるアクションとチューニングピン(このピンも螺旋に切れ込みを入れたネジの一種)を合わせれば七百本近くあり、アクションのオーバーホールや毎日の調律に於いて、正にピアノ調律師とはネジとの格闘に明け暮れている人種と言えます。

この度の修理では最初の三本目(全八十八本)でネジを捩じり切って仕舞い、大変なアクシデントを引き起こしました。ネジ(雄ネジ)とレールの雌ネジの切れ込みがきつく、直ぐに回転に停滞が起こり、力を入れた途端切れてしまったのでした。痛恨のネジ切れであり、その後の後始末に膨大な手間と時間を浪費してしまいました。

そしてそれからのネジ締めは、再び切らぬようにネジの機嫌の伺いを立て、恐る恐る正に薄氷を踏む慎重さで行われました。一寸でも停滞すれば直ぐに回し戻し、再び雄と雌のネジの端緒を探り出し締め上げました。終わった時は精も根も尽き果てました。これほど苦労したネジ締めは初めてでした。

ネジの締め方と緩め方
締め方: 時計回りで締めるのですが、最初は雄ネジと雌ネジの端緒を合わせるために、逆の反時計回りで回し、グキッとした感触(ここが雄ネジと雌ネジの端緒)があったら時計回りで締め上げます。二つの螺旋が見事に寄り添えばネジは確かに締まります。

緩め方: 反時計周りで緩めますが、最初は時計回りで締め上げ、錆等で固く固定したネジを少し動かします。すると今度は楽に反時計回りで回せるようになるのです。そのまま回し続ければ、ネジは緩み外れます。
 
posted by 三上和伸 at 18:52| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月04日

ピアノの話17 ブライドルテープ全交換

傷んだブライドルテープを除く作業
全てのハンマーバットをアクションから外し、丹念に掃除をしながら古いブライドルテープを取り除きます。皮断ちナイフでバットキャッチャーの根元からテープを切り落とします。そして古いテープのサンプルを二三個捨てずに残します。後で正しい寸法を得るためです。

古いブライドルテープの寸法を測る
古いブライドルテープの寸法を測り、新しいテープを正しい寸法で断つための定規を決定します。

定規に沿って新たなテープを断つ
新品のブライドルテープ八十八本分を正しい寸法で断ちます。ピアノタッチに微妙に影響するので誤差は許されません。とにかく正しく断つのです。

新旧のブライドルテープ
古いテープの傷み汚れは甚だしく、疾うに耐久年数の限度を超えていました。やっと換えて貰えてピアノも喜ぶでしょう。

ブライドルテープ貼り付け
バットキャッチャーの基部の平な貼り面にたっぷりとボンドを塗り、テープの表裏を確かめて貼り付けます。ヘラで平らに圧し、その後は絶対に触れずに放置し、完全に接着させます。
 ところでピアノの接着剤として最良のものと言えば、昔は当たり前に使われていた膠(ニカワ)です。しかし湯煎の必要や悪臭などの使い悪さがあるため、今日では一部のメーカー(スタンウェイなどの欧州のメーカー)以外は使わなくなりました。残念な事ですが…。
 
 並べて一晩放置
貼り面を上にして一晩放置します。完全に接着するまで触れてはいけません。

アクションに組み込む
一つのハンマーバットに一つのネジで組み付けます。この時今回の修理の最大のアクシデントが発生しました。その詳細はページを改めて述べたいと思います。

修理完成
全てのハンマーバットを組み込み、取り敢えず完成しました。後はお客様のお宅のピアノ本体にアクションを取り付け、ハンマーの弦当たりを始めとする調整を行います。

弦当たりの調整 
アクションをピアノ本体に取り付けた後、一方の手でシャンクプライヤー(電熱コテ)を使い、ハンマーシャンクを固定し熱を加え、もう一方の手でハンマーを持ち、左右に傾けたり、捩じったりして、ハンマーの弦当たりと隙(間隔)を調整します。またハンマーの走り(蛇行)を失くすよう調整します。ハンマーと弦が真正面で当たるようにします。無理な力作業は禁物でシャンクを破損しないように細心の注意を払い行います。
posted by 三上和伸 at 21:55| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月01日

ピアノの話18 イギリス館での調律 2010.08.01 

庭からのイギリス館
1937年に建てられた元イギリス総領事公邸 美しい庭からの眺め
調律の後、私はサンルームのドアから抜け出してお庭を散歩しました。花は薔薇に百日紅が咲いていました。以前横浜漫歩3で訪れた時には修復中でこの館は紹介できませんでした。その時の無念の気持ちをようやくこの日晴らせました。

寛ぎの談話室
談話室(展示室)
この館は一般に公開されています。一階はホールに事務室、それに厨房がありますが、二階は談話室や寝室及び化粧室があります。当時の外交官とその家族の豊かな生活が窺い知れます。

調律する私
 今日は妻の依頼に応えてイギリス館ホールのピアノ調律をしました。妻が幹事らしき事をしている嘗ての音大時代の同門生の方々の演奏の集いが開かれたのでした。参加者は多数居られましたが、演奏されたのは十名ほどでした。

 とにかく、長い付き合いのお仲間達で、今は亡き名物教授を偲び、和気あいあいと楽しむ一年に一回の同窓会のようなコンサートです。

 私は調律をして、暫く皆さんのリハーサルを聴き、ピアノに対する皆さんの感想を聞き早々に退散しました。ご主人が聴きに来られる方もいらっしゃるそうですが、私は本番は聴かずに帰ります。なぜなら、お仲間の楽しい集いを邪魔したくないからです。何だか変な小父さんがウロウロして麗しい皆様を落ち着かない心持にしたくなからです。まあ、男の照れもありますがね…。

 ピアノはヤマハのSー4、最小のコンサートグランドです。私は昨年このピアノの高音部の弦を調律中に切ってしまいました。その時はもう次高音部と高音部の弦の疲労が積もり、何時切れてもおかしくない状態にありました。係の人に手当が必要と申しでた所、ようやく今年の初めに小規模なオーバーホールを行い、次高音・高音の弦を張り替え、ハンマーを交換したそうです。まずまずの出来で、かなり整った音が鳴っていました。

追伸: 後日、ペダルに雑音があったとクレームがありました。過去にこのブログでペダルの重要性を書いた私としては、誠に恥ずかしく深く反省した次第です。今後は絶対に見過ごさないように致します。申し訳ありませんでした。
posted by 三上和伸 at 18:04| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月31日

ピアノの話16 ピアノアクション修理の段取りを立てる

 また暑さがぶり返してしまいました。覚悟はしていましたが、一寸動くと汗が滲み出てきます。辛いですね。でも今日の私は作業室でアップライトピアノのアクションを修理するだけなので、それほど暑さを気にする事はないので嬉しいです。扇風機を掛けて静かにゆったりと心落ち着けて修理をしていきます。今回はハンマーバットのブライドルテープの全換えが主な作業です。試しに今ここでその作業の段取りを書いてみます。どんな作業でも段取りが大切であり、それが確かならその後の工程はスムーズに進行します。

 ブライドルテープはアップライトピアノ特有の部品で、竪形の打弦機構の戻りの悪さを補う部分です。全部品中最も耐久力の劣る消耗部品で、二十年も経てばチップ(鹿皮ないし人口皮革)の部分はボロボロに劣化し、切れて鍵盤の戻りが悪化したり、切れずとも雑音の原因になります。

@まずはハンマーバットを取り外し机に並べ綺麗に掃除をします。同時にブライドルテープを付け根より刃物で切り取り、サンプルとして数個を残し、後は捨て去ります。サンプルは寸法を測り新品のテープ全八十八個をその数値に合わせて切断し長さを揃えます。
 なお、ハンマーバットを外した後のアクション本体は細かく掃除をして、全てのネジを強く締め付けておきます。

Aハンマーを整形します。一端取り外したハンマーは再度取り付ける際に打弦点がずれるので必ずハンマーヘッドを平滑にします。

Bテープ交換の前に、バットフレンジの動きを確かめます。異状(ガタツキやスティックと呼ばれる運動の劣化・停滞)があればセンターピンを取り換えます。

Cいよいよ、ブライドルテープの貼り付けを行います。接着剤は木工用ボンドを用い、バットキャッチャーの糊代面に十分ボンドを塗り付け、テープの裏表を良く確認し貼り付けます。そしてさらにヘラで良く抑えます。重力を考え接着の位置を上になるようにし、その後は一切触れずに放置し剥がれないように確実に接着させます。

D一晩放置し完全に乾いたらアクションに組み込みます。

Eピアノ本体にアクションを組み入れハンマーの弦当たりと隙(間隔)を調整します。シャンクプライヤー(電気熱コテ)でシャンク(バットとハンマーを繋ぐ細長い円柱の棒)を左右上下回転方向に捻じ曲げハンマーが美しい羅列を描くまで整えられれば完成です。

 では、これから早速作業に取り掛かります。夜には終わるのでまた写真を交えて報告いたします。
posted by 三上和伸 at 12:10| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月20日

ピアノの話15 断線と張弦

断線は様々な理由から起こります。ピアノの製造上の欠陥、ミュージックワイヤーの錆や老朽化、ピアニストの打鍵打弦の瞬発力の強さなど挙げたら切りがありません。されど切れるのは仕方がない事、切れたら見事に張り替えてやればよいのです。そのコツはとにかく弦を素直に扱う事、余計な力を入れず、捻じ曲げない事が肝要です。
 断線は主に高音部と次低音部の銅巻き線に多く起こります。細く短い弦(高音部)と比較的細く重い弦(次低音部の銅巻き線)が切れ易いのです。

張弦に使われる道具
張弦の道具
左から チューニングハンマー ストックのミュージックワイヤー(細い方から順に八種の番手を用意しています) かき上げ三つ割り用具 マイクロメーター 弦打ちポンチ ワイヤーカッター ニッパー 上にハンマー 他に本格的張弦(ピアノ一台分など)にはチューニングピン打ちポンチなど
大体、以上の道具を使います。弦(ミュージックワイヤー)の番手と太さ(径)は以下に記します。

13.0番ー0.775mm 13.5番ー0.800mm 14.0番ー0.825mm 14.5番ー0.850mm 0.025mmずつ20.0番まで増え、その先は0.05mmずつ22.0番まで…、更に25.0番までは0.10mmずつ増えます。
最も切れる弦の番手は14.0番と14.5番です。

76Aの断線
76Aの三弦の内、中央の弦が切れています。但し、現代のピアノでは一本のワイヤーを奥のヒッチピンに渡し込んで二弦として使うため、中央と左の弦が不能となっています。正しく鳴っているのは右の弦だけと言う事です。

切れた弦を外す
切れた弦を取り出したところ。チューニングピン巻き口のコイルは三回転(三回巻き)です。メーカー(スタンウェイなど)によっては四回転のものもあります。

弦の太さ(番手)を計る
マイクロメーターで弦の太さ(直径)を計っているところ。0.850mmを指し、この番手は14.5番と判明しました。

新しい弦を巻き始める
針金巻きのストックから新しい14.5番の弦を切り出し、巻き始めるところ。
このブログの写真を撮るのも自撮自演なので、チューニングピンにコイルを巻き付けている所は写真にできませんでした。残念! 悪しからず…

出来たコイルをかき上げる
巻き付けたコイルを正しい位置にかき上げているところ。専用のかき上げ器を使いコイルの重なりの隙間をなくしています。

コイルを打ち下げ整える
上げきって余分に出過ぎたコイルの上部を専用のポンチで打ち下げているところ。ピンに正しく直角になるように整えます。

三弦の三ツ割りし弦を正しい位置に整える
三弦が均等に正しい位置になるように三ツ割り用具で整えているところ。ハンマーに正しく当たるようにします。

駒(ブリッジ)に密着させるための弦打ち
駒上の弦を叩き弦を駒と駒ピンに密着させているところ。雑音のない正確な音響伝播を可能にさせます。ベアリング効果も高めます。
 その外に弦を渡し込んだ奥のヒッチピンも奥側から確かに打ち込みます。雑音の回避や調律の安定に必要な作業です。
調律をする
最後に調律をして張弦の作業を終わります。

posted by 三上和伸 at 23:10| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月14日

ピアノの話14 招からざる客・雑音

ピアノ屋根のロングヒンジ定型型 ピアノ屋根ロングヒンジ省略型
   定型型のロングヒンジ      省略型のロングヒンジ
 ピアノを弾いた時、本来のピアノの響き以外の音が鳴り響く事があります。これが招からざる客・雑音であり、雑音には二通りの出所があります。一つはピアノ本体のある部位が共鳴し発音するもの。もう一つはピアノ以外の部屋の何処かの物体が共振するもの。何れにしても極めて不愉快なもの、絶対に取り去る事がピアノ調律師の責務であります。

 ここでは、この内のピアノ本体にある屋根のロングヒンジ(長蝶番)の雑音について述べてみましょう。日本の殆どのメーカーのどの種類のアップライトピアノでも、このロングピンジは雑音を出します。それは比較的高音部の音に共鳴してジッ、ジッと鳴ります。

 勿論、そこに止めてあるネジをしっかり締めた後の話です。この雑音の原因はヒンジのパイプとその中を貫いている心棒の間に隙間が出来ているからです。パイプと心棒が密着していれば雑音は出ないのです。では何故パイプと心棒の間に隙間があるのでしょうか? それははっきり言って製造段階に問題があるからです。メーカーの品質管理に手抜かりがあったのです。

 写真左は本来の形のヒンジであり、右は省略型のヒンジです。当然ながらパイプと心棒に隙間があればこの二つのヒンジは区別なくどちらも雑音が出ます。但し左の定型型はパイプの隙間にシリコンオイルを染み込ませ、隙間をオイルで埋めてやれば大抵は直ります。それはパイプに無数の切れ込みがあるのでシリコンオイルを染み込ませる事が出来るからです。反対に右の省略型では切れ込みはなく、オイルを染み込ませられません。ではどうするのでしょうか? パイプを叩いて潰すしかないのです。さも無ければヒンジをそっくり取り換えるか? しかしそのヒンジですら当てに出来ないのです。取り換えたヒンジが再び雑音を出したら言い訳すらできなくなります。ですから叩くのです。パイプの表面がボコボコになろうともです。

 コストダウンは制作者の命題でしょう。しかし誤ったアイデアは取り返しが付かない結果を多々生みます。この省略型ヒンジが何よりそれを証明しています。しっかりした商品を作る事こそが制作者の最大の責務ではないでしょうか。

posted by 三上和伸 at 19:46| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月15日

ピアノの話13 雨の朝、ピアノを思う

 雨の朝、私の心は昨夜同様くさくさしていますが、仕事への思いは勇気凛凛、全く動揺はありません。それがプロであり、ピアノの音を思い描けば心は燃え晴れ渡るのです。若い時分から私はこの仕事にのめり込み大好きとなり、近年この仕事が天職だと思えるようになりました。どちらかと言うと不器用な性質で仕事を覚えるのに時間は掛かりましたが、その分手間暇を掛け徹底的に鍛錬をしてきました。ピアノの音の美しさ、それは宝石のように煌めいて流水の如く滴り落ちる、絹のように滑らかで乙女の肌の如く温かで香しい…。こんなピアノの美音を私は生涯を掛けて作り続けたいと念願しています。
posted by 三上和伸 at 08:22| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月25日

ピアノの話12 グランドピアノのダンパー

鍵盤一体型アクションを引き出す
グランドピアノの鍵盤とアクション
 グランドピアノは鍵盤とアクションがネジで取り付けられた一体型であり、しかも鍵盤蓋に左右の拍子木(鍵盤の両端の木塊)と下口棒を取り外せば、鍵盤一体型のアクションはそっくり引き出せる。

打弦機を取りだした後の空洞
鍵盤一体型アクションを取りはずした後の空洞、正面にダンパーアクション(止音機構、こちらはピアノ本体にネジで取り付けられている)が見えている。
 鍵盤の奥の端緒がこのダンパーアクション最下部(重さを出すために円形の鉛が打ちこまれている個所の下部)の突起の下の隙間に入り込む構造になっている。鍵盤を打ち下げると、鍵盤の奥の端緒が上がり、ダンパーアクションの突起を持ち上げる。すると上部にあるダンパーブロックも上がりダンパーフェルトが弦から離れ、弦は解放となる。即座に打弦が行われ音が鳴り響く。やがて鍵盤を離し戻すとダンパーも元に戻り弦を押さえ付け瞬時に音鳴りは消える。
 鍵盤の下がる過程の三分の一強程度でダンパーは上がり始めるように調整される。 

低音弦に使われるダンパーフェルト
低音弦に使われるダンパーとそのフェルト
一弦止めと二弦止めがある。なおフルコンサートグランドでは三弦の銅巻き線もあるので、当然三弦止めのダンパーフェルトも使われる。

中音弦に使われるダンパーフェルト
中音域のダンパーとそのフェルト
 弦が長く太い中音の鋼鉄弦には中央に切れ込みがある三弦止めのフェルトが使われる。弦の振動を強く抑え込むためである。

次高音用のフェルト
次高音用の平止めのダンパーフェルト
 次高音にもなると振動も小さくなり柔らかい平面のフェルトで十分になる、雑音が出ないように柔らかいフェルトでふわりと止める。 

ダンパー総上げ
サステニングペダル(右ペダル)を一杯に踏み込んだ時のダンパー
 ダンパー総上げ(全開放)と言い、打弦された音が全弦に共鳴してポジティブで豊かな音量を発し、色彩的で華やかな演奏効果が得られる。

ハーフペダル
ハーフペダル
 右ペダルを少し踏み込み、ダンパーアクションの抵抗を感じた辺りで発音させると、霧に包まれたようなくすんだ夢幻的な音響となる。ソステヌートの効果も期待できる。

ダンパー
各セクションのダンパー(アクションから外したもの)
 左から一弦止め(最低音部の銅巻き一本弦)、二弦止め(次低音部の銅巻き二本弦)、切れ込みのある三弦止め(中音域の三本弦)、平止め(次高音部)、低音域は大きく、高音域に行くに従って小さくなる。なお高音部は音鳴りの減衰が早いのでダンパーは不要である。

 *シフティングペダル(左ペダル)の使い方と効果
 グランドピアノのシフティングペダルは鍵盤一体型アクションと連動しており、ペダルを踏めば鍵盤一体型アクションは右にスライドする仕組みになっている。一体型なので、鍵盤が右に動けばアクションに付いているハンマーも同じ寸法で右に動く。結局、ハンマーの弦当たりがずれると言う事になる。そこでその音鳴りはソフトで暗いネガティブの方向に変化する。演奏中その踏み幅を足で微妙に調節すれば様々な音色が得られるのである。
 
 カメラの角度が今一つなのでやや不鮮明であるが、お許し頂ければ幸いである。

ハンマーの弦当たり
踏んでいない状態
 弦と下にあるハンマーの弦当たりが三弦に対して均等に当たるように調整されている。

ハーフペダルのハンマーの弦当たり
ハーフペダルのハンマーの弦当たり
 ハンマーが右に動くとその動く範囲内で弦との当たり所が様々に変わる。この写真の場合は左の弦にハンマーの左端が微かに当たる位置にある。これは音量は三分の二よりやや大きめだが、左の弦とハンマーの左端がかすったような音を発し、音色が変わる。ソフトだがやや変化のある音色が得られる。またその手前で、三弦にハンマーが当たるとしても、弦に当たるハンマーの当たりどころは変わるので音量は変わらないが音色は変化する。普段左ペダルを使わないで弾く事が多い訳で、そこは音色的にはやや硬質であり、ハンマーがずれれば普段余り叩かれていないハンマーのソフトな面で叩く事になり、軟質な音色となる。

小さくソフトで暗い音色
シフティング(左)ペダルを最深部まで踏み込んだ場合のハンマーと弦の位置
 左ペダルを最後まで踏み込むとハンマーは最大にスライドし、ハンマーの左端は左の弦を通り過ぎ、ハンマーは左の弦を打たなくなる。この時音量は三分の二になり、しかもハンマーの弦に当たる位置も変わり、小さくソフトで暗い音色になる。
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2010年02月10日

ピアノの話11 調律の道具と使い方

 *調律道具一式一覧

調律道具
 写真上の長い布(丸めたものも)がミュート、左はチューニング・ハンマー、その右はゴム・ウェッジ(細く長いものと太く短いものがあり用途に合わせて使う)、続いてその右は音叉(チューニング・フォーク)、更にその右が木のウェッジ。
 音叉は左からA440Hz(ヘルツ)、A442Hz、A443Hz


 *調律道具の使い方

 @ミュート
ミュート
 調律道具のミュートとは基礎オクターブ(33F〜45Fの十三音)を作る際、33Fから45Fまでのそれぞれ三本の弦の両外の二弦の間に挟んで使う布切れ、その二弦の音鳴りを止め、本来の目的である中央のそれぞれ一本の弦だけを鳴らすための道具である。普通4mmの厚さのクッション・フェルトを使うが、すぐに崩れてボロボロになるため、私は毛織物の布切れを縫い合わせたもの(3mm程度)を使っている。因みにこの布は娘のスカートの廃材。

 純粋に調律はミュートを挟むことからスタートする。そしてその後、音叉を鳴らして基礎オクタ−ブ内のA音・37Aの二倍音を音叉と同振動の音にする。これで37Aは正確な音程となる。
 この際の作業としてはもう一方法あり、それは音叉で49Aを取り、その後ピアノ内で49Aから37Aをオクターブで取る方法であり、これが本来のやり方ではある。私は面倒なので多少の差異は出るが直接音叉から37Aを取る。
 *ピアノでは49AがA=440Hz〜443Hzとされている。

 A音叉(442Hz)
音叉
 楽器(ピアノ他)や声のピッチ(音楽をする標準の音の高さ)を決める大切な定規(基準)。現代のクラシックピアノではピッチは高めであり、普通442ヘルツで調律される。クラシック音楽以外は440ヘルツが一般的である。
 まず49A(440Hz)ないし37A(220HZ)をA442Hzの音叉で合わせる。直接37Aを442Hzの音叉で合わせる際は37A(220HZ、オクターブの関係は振動数が2対1であるから)の同時に鳴っている二倍音(440Hz、音の中には必ず倍音が含まれてる)を使い442HZに合わせる。
 
 *Hz(ヘルツ)=音波の一秒間に振動する数を表す単位。従って、442Hzと言えば音の波が一秒間に442回出ている事である。440HZの音叉と442HZの音叉を同時に鳴らすとその振動数の違いから一秒間に二回のビート(基音の聞こえる波、唸り、ワン・ワン…と鳴る)が出る。一般のピアノの調律とは二弦間で干渉し合う基音並びに倍音の唸り(ビート)を聴き分け、平均律調律法に従って全八十八鍵盤分(合わせて約二百三十本の弦)の音を適切に配置していく作業である。

 *基音と倍音=どんな楽器(音)の一音でも音の中には基音と倍音が同時に鳴っている。

 基音=その音、弦の全長で鳴る一番強く低い音、これより下の音は出ない。
 倍音=基音の整数倍の音、極短に小さいが必ず出ている。

 例、A音(基音)の場合、二倍音=一オクターブ上のA、三倍音=一オクターブ五度上のE、四倍音=二オクターブ上のA、五倍音=二オクターブ長三度上のC♯、六倍音=二オクターブ五度上のE、八倍音=三オクターブ上のA *七倍音は平均律調律法上にはない音程、二オクターブ七度上のF♯とGの間辺りの音程の音。

 Bチューニング・ハンマー(略してチューハン)
チューニング・ハンマー
 チューニング・ピン(弦の巻口の突起)に差し込んで回し、弦を伸び縮みさせて調律をする梃子の棒。私のチューハンは伸長式なので、腕の長さやチューニング・ピンの圧力の力加減により長さを調節し選べる。28pから45pの幅があり、私は大体40p辺りで使っている。

 このハンマーの回し方にはコツがあり、それは一人の調律師の生涯の修行となる。それが巧みならば巧みなほど、その調律は正確であり保持力は高い。美しい響きが長く続くのである。一つの参考として誤解を恐れずに言えば、二時間のピアノ演奏会で終演後までびくともしない調律ができたなら、それは調律師として最高の栄誉だと私は思う。

 Cゴム・ウェッジ
巻き線の二弦に挟んだゴム・ウェッジ 右:グランドピアノ高音用
低音弦に使う            グランドの高音弦には右の太く短いものが使い易い
 弦に挟んで止音する役目の楔形の道具。フェルトのものもある。私はフェルトのものよりゴム製が使いやすい。それはしっくりと弦に止まり弾けにくいからだ。

 D木のウェッジ
アップライト次高音用 高音用 
アップライトピアノ次高音用   高音用
 アップライト・ピアノの次高音、高音用の止音ウェッジ。木片の棒に鹿皮が貼り付けてある。ゴムのものもある。
 アップライトピアノの次高音・高音域はアクションの形態により普通のウェッジでは使いにくい、従って細く長い木のウェッジが必要となる。 
 私のブログ、ピアノの話7・道具作りと修復を参照。 

 *二本の弦の振動数の対比によって調律はなされる。ピアノは一音三弦の楽器なのでどうしても邪魔な弦の音鳴りは消さなくてはならない。そこでミュートとウェッジが必要となる。
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2009年12月12日

ピアノの話10 ペダルの重要性

 これまで同業者への批判は避けてきましたが、今日はどうしても言わせて頂きたく思い筆をとりました。
 ある横浜の小学校の体育館にあるアップライトピアノの事、数日後の音楽会のためにPTAのある方から調律の依頼を受けました。本来はこのピアノを納入した業者の調律師が調律していたものですが、今回は私が臨時で依頼を受けたのでした。
 このピアノは納入から数年ほど経ったもので新しいピアノでした。過去に五度の調律がなされ今年の二月に最後の調律済みの記録が記されてありました。一通り点検をしたところ、「やはりな…」と私は呟きました。調律はともかく左右の二つのペダルに極端な遊びが出ていてスカスカでした。これでは迅速なペダルワークは難しく、ましてハーフペダルの操作などは不可能です。ペダルとはピアノの演奏で最も重要な演奏効果をもたらす仕組みであり、これが程良く調整されていないピアノは最早ピアノの体をなしません。残念ながらピアノ音楽など少しも理解していない調律師が調律していたようです。そしてこのような調律師が多い事もまた事実であるのです。ピアノに関わる以上キチンとピアノを理解して欲しいと願わずにはいられませんでした。遣っ付け仕事は止めるように!

 *ペダルはアクション(打弦機構)と連動し音の強弱や音色の変化を促進させる装置。音楽的にピアノの表現範囲(能力)をより増大させる。

 *右ペダル
 サスティニングペダルと言いダンパー(止音する機構)を総上げし全ての弦を解放して瞬時に共鳴させる装置。豪壮華麗な華やかな音色音響が得られる。ハーフペダルでは幽かな音鳴り(残響)で夢幻的な音響を響かせ、更にソステヌートに近い効果も得られる。

 *左ペダル
 シフティングペダルまたはソフトペダルと言い、瞬時に響きをより小さくさせる装置。但しグランドピアノはハンマーの弦当たりの位置を移動させる事により極端に音色を変える事が可能となる。ハーフペダルで変幻自在の演奏効果が得られる。
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2009年10月21日

ピアノの話9 ハンマ−の大きさ

 1、各音域によるハンマーの形態と大きさ
ピアノハンマー
左から低音部15B、中音部40C、次高音部62A#、高音部79D#
ピアノハンマーは音域により大きさが異なります。低音部の太い銅巻弦にはより大きな重いハンマー、中音部の太い三弦の鋼鉄弦には幅広の大きなハンマー、そして次高音から高音の細く短い三弦の鋼鉄弦には幅広のより小さく軽いハンマーが使われています。より美しい最高の発音を導く為に計算され尽くした大きさを有しています。
 
 2、最低音部1Aと最高音部88Cのハンマー
PA210679.JPG
 大きさの違いがよく分かります。この違いで全鍵盤に亘るバランスが生まれるのです。それはピアノ作りの一つの妙味です。
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2009年09月13日

ピアノの話8 ハンマーの整形

 1、整形前のハンマー
整形前のハンマー
 これは最低音部のハンマーで、一弦の銅巻き線の太い痕跡(溝)が見えています。凸凹して荒い肌触りであり、これでは均一な良いピアノの音は出ません。ハンマー整形とその後の調律の際の整音が必要です。
 今回の修理の御依頼をよい機会としてそれにあやかり、皆様にはハンマー整形の様子をご覧にいれようと思い掲載しました。

 *ハンマーは四連にして重ね、バイス(万力)で固定してあります。

 2、鑢掛け(やすりかけ・ファイリング)
ハンマーの鑢掛け
 昨日作ってお見せした鑢の板片で鑢掛けをして行きます。慎重にハンマーの形に沿って削って行きます。最初は荒い鑢で弦の溝が無くなるまで削ります。やがて溝が消えたら今度は仕上げの鑢で磨きを掛けます。平になり滑らかになったらこのファイリングの作業は終わりです。

 3、アイロン掛け(アイロニング)
ハンマーのアイロン掛け
 仕上げのファイリングで滑らかになったとしても、まだ繊維の毛羽立ちや微細な凸凹は残ります。それをアイロンで寝かし更に滑らかにし、ハンマーの形を美しい卵形に整えます。全八十八鍵分を整えたなら、このハンマー整形の作業は終わります。 

 4、整形後のハンマー
整形後のハンマー
 きめ細やかな肌触りとなり、整った卵形のハンマーに仕上がりました。これで美しいピアノの音作りへの最初の第一歩が定まりました。
posted by 三上和伸 at 20:40| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月12日

ピアノの話7 道具作りと道具の修復

 1、ハンマー整形のための鑢板(やすりいた)作り
ハンマー整形用の鑢板
左・板とサンドペイパー(クロス)#80・#120 右・板に接着剤で張り付けたもの(完成品)左・荒砥 右・仕上砥
 ピアノの音は鋼鉄の弦をフェルトのハンマーで叩き発します。硬い弦を柔らかいフェルトで打つのですから次第にフェルトハンマーは弦の形で凹みます。凹めばピアノの音は歪むのです。その凹みを取り除きハンマーを平に滑らかに整えるためにこの鑢板で削るのです。いいえむしろハンマーの繊維に沿って一皮剥くと言った方がよいかも知れません。

 2、木ウェッジの鹿皮の貼り替え
木のウェッジ
左・皮の傷んだウェッジ 中の左・皮を剥いだウェッジと剥いだ皮 中の右・新しい皮 右・新しい皮を貼った蘇ったウェッジ(修復品)
 調律の際、鳴らしたくない弦(ピアノの弦は一音につき三弦が張られています。調律は正しい一弦に狂った一弦を合わせる行為で二弦でするものなので一弦が邪魔になるのです。この残った一弦はその後直ぐ合わせます。)の止音に用いるのがこのウェッジ…。木の他にゴムやフェルトの物もあります。木のウエッジは主にアップライトピアノの高音部用のものです。
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2009年01月24日

ピアノの話6 アクションの修理

 ピアノアクション(打弦機)の修理
 あるお客様からご依頼を受けて、アップライトピアノの修理と調律をする事になりました。お宅へ伺いその場で査定をし、アクションの部品交換が必要と判断し、先方より御了解が得られたので、まずはアクションを我が作業場に搬送し、修理に取り掛かりました。
 
 1、ウィペン(奥)とハンマーバット(手前)
アクション分解全ての写真はクリックすると拡大されます。
 まずはアクションを分解し、ウィペンとハンマーバットを取り出し、修理がし易いように並べました。手前一列がハンマーバット88個と奥一列がウィペン88個です。また最前列にあるのはこの修理に使う工具と接着剤、そして部品交換のための新品のクッションフェルト(赤)とビニール袋に入ったブライドルテープ(白)、紙袋に入ったセンターピンです。ハンマーバット及びウィペンは順次一つずつ更に細かく分解し、修理して行きます。
 写真左より、万力、ボンド(接着剤)、クッションフェルト(赤)、ブライドルテープ、ワイヤーカッター(センターピン用)、掃除ブラシ、ピン抜きポンチ、抉りリーマー(穴を広げる工具)、竹籤(接着剤添付用)、抉りリーマー(やすりタイプ)、センターピン(紙袋入り)、黒鉛棒(滑りの部分に塗り込んで用いるもの)、ペンチ。

 2、ウィペン(左の上下)とハンマーバット(右の左右)
更なる分解
 動きの悪くなったアクションは弾き難く、その主な原因は、動きを司るセンターピンの錆などによる劣化です。従ってセンターピンの交換が必要となります。更に劣化した様々な消耗部品の交換もしました。
 ウィペン上はまだ何もされていない元のもの、ウィペン下はジャック(長い方)とフレンジ(長方形のもの)のセンターピン(中央で回転するピンで梃子の支点となるもの)が抜かれ、離脱したもの。傍にあるピンは新品のセンターピン。この新たなピンで再度元通りに取り付けて行きます。
 ハンマーバット左は元のもの、右は外されたフレンジとそこに付ける新品のスプリングコード(白い糸)、取り外されたクッションフェルト(赤左)と新品のクッションフェルト(赤右)、古いブライドルテープ(左)と新品のブライドルテープ(右)。これらの部品全てを新品の部品に取り換えます。

 3、修理し終わった部品(鍵盤、ウィペン、ハンマーバット)を仮装に模式した構図
打弦の模式
 修理し終えた部品をアクション上に組み上げたならば、正確ではありませんが、ほぼこのような構図になります。鍵盤(左白鍵部)を押し下げると、その中央のバランス(梃子の支点となる)を支点として梃子の原理で右のダウル(突起)が押し上げられ、それに従いウィペンも押し上げられます。ウィペンの先のジャックも同様に押し上げられハンマーバットを押し上げます。するとハンマーヘッドは右に動きその先の弦を打ち鳴らします。これがアップライトピアノの打弦の動性(原理)です。

 4、修理を終え、ハンマーバットを組み始めたところ
アクション組み込み
 裸のアクションレールにハンマーバットとウィペンを組み込みます。一つ一つネジで締め付け取り付けていきます。

 5、アクション修理完了
完成
 数日間、長時間掛けて励んだ修理作業もこれで終了です。後はお客様の元にあるピアノ本体に取り付け、整調、調律、整音をして一件落着です。弾き易い手応え指応えで、正しい音律と綺麗な響に生まれ変わりました。
posted by 三上和伸 at 23:40| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月27日

ピアノの話5 ピアノの仕組み

 先日は我が娘(ピアノの先生)主宰のピアノ教室の発表会がありました。その節に私はピアノ調律と会場整備の仕事を託され大いに活躍しました。職業柄これらの仕事は私の天分範疇であり、見事に一件落着としました。

スタンウェイ・フルコンサートグランドピアノの調律
スタンウェイ・フルコンサートの調律
 この発表会の目的の一つは二台ピアノの演奏にありました。従ってピアノはスタンウェイとヤマハのフルコンサートグランドが用意され、私は二台まとめて調律した訳です。初めは主要に使われるスタンウェイを調律し、その後にヤマハを調律しました。ここで「両者のピアノの違いを述べよ!」とおっしゃって聴き耳を立てる方も多い事でしょう。一つだけ言える事は、客席に如何に鮮明に美しい音が届くかどうかと言う事です。そしてそれはスタンウェイに一日の長があると思います。音の立ち上がりが素早く、音響板で増幅された音はピアノ全体を共鳴箱にして広角に鳴り響きます。それは実に透明で煌びやかな音響です。だからこそホールの隅々にまで美しく音が届くのです。ピアノ全体の共鳴の良し悪しがピアノの良し悪しを決定するのです。

スタンウェイグランドの鍵盤とアクション(打絃機構)
グランドアクションの整調
 グランドピアノは鍵盤とアクションが一体となっています。写真は整調などをする為に内部から引っ張り出した状態です。この状態で整調整音の作業をするのです。この時はアクションの動き、滑りを見ました。

 *フェルトハンマー
 アクション鍵盤の一番先の上部にある白い連なりがハンマ−で、ピアノはこのハンマーで鋼鉄弦を打って音を発する楽器なのです。従ってそれは弦や音響板と同様にピアノの音に最も重要な係わりを持っていると言っても過言ではありません。特にその音色(おんしょく、ねいろ)の質に絶対の影響力を握っています。これをどう作りどう調整するかでそのピアノの音質の良し悪しが決まるのです。

ピアノの中枢部(心臓部)
ピアノの中枢
 *アイアンプレイト(鉄骨)
 金色(金粉)で塗られている部分が鉄骨です。鋳物(鉄の鋳造物)で出来ています。ピアノの鋼鉄弦の強大な張力を支える役目を担っています。

 *弦(ミュージックワイヤー)
 ズラッと真中に細く銀色に輝いている針金がピアノの弦であり、本来はミュージックワイヤーと呼ばれています。一般に多用途に使われているピアノ線とは別物で、我々は決してこれをピアノ線とは呼びません。ミュージックワイヤーは特殊な鋼鉄で作られたもので強い弾力を持ったピアノ専用のワイヤーです。一音には三弦が張られていますが、低音部の銅巻き線(ミュージックワイヤーに軟銅線を巻き付けた重量のある弦)は音量が大きいのでその大きさの加減により、三弦から二弦一弦と減少させて張られます。弦はピアノの発音体であり、ハンマー、音響板、ケース(ピアノを形作っている本体、リムや天屋根、脚、棚板、鉄骨)などと同様に、否それ以上に重要なパーツです。聞いた話ですが、過去にヤマハは様々な金属や合金を弦に試したそうです。しかし何れもミュージックワイヤー(高炭素鋼)に遠く及ばなかったと言う事です。

 *ダンパー(ダンパーブロック)
 中央の弦の上に黒いブロックが連らなっていますが、これがダンパー(止音装置)で瞬時に音鳴りを止める装置です。黒のブロックの下部には柔らかいフェルトが貼り付けてあり、それが弦に触れて音を止めるのです。

 *駒(ブリッジ)と音響板(サウンドボード)
 写真右寄りに弦を乗せた長い四角の板が横たわっていますが、これが駒で弦の振動(音鳴り)を下の音響板に伝える役目を担っています。またアグラフやベアリングと共に弦を一定の長さに区切る役目もあります。音響板は駒から伝わった弦の振動を増幅させる装置でピアノ全体の面積にほぼ適う広さを有しています。写真中央の弦の下黄褐色に見える板が音響板です。 

調律後の試弾(試し弾き)
試し弾き
 調律の後には必ず試し弾きをしてもらいます。調律の具合や弾き応えの良し悪しを述べて頂きます。要望があれば誠意を持って応えます。
posted by 三上和伸 at 23:41| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月12日

ピアノの話4と今宵の名曲9

 ピアノの話4 今宵の名曲この一枚9
 ピアノの進化とピアノ音楽の変遷
 ショパン ワルツ全集 ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
 ワルツ第9番イ長調op.69-1「別れのワルツ」
 純音楽を娯楽に変える真の天才 ピアノの申し子
 ピアノと言う楽器は、十八世紀初頭のイタリアで開発され、その最初の作者はメディチ家の楽器管理人バルトロメオ・クリストフォリと言う男でした。この時代はバロックと呼ばれ、バッハの活躍していた時代ですが、バッハはこの生まれたての未熟な楽器・ピアノを好きではなかったらしく、もっぱらチェンバロにクラビコード及びオルガンを愛用していました。この時代は正にチェンバロの時代であり、まだまだピアノの需要は低かったのです。しかし今日、一般にバッハのクラヴィーア作品はピアノで演奏されるのが当たり前となり、多くのピアニスト達の重要なレパートリーの一つとなりました。それは現代ピアノの多彩な色彩感やダイナミックレンジの広さがバロック音楽にも適応でき、素晴らしい演奏効果をもたらす事実が証明されたに他なりません。私は極めてロマンチックな人間なので、バッハもより人間性の発揮できるピアノで演奏される方を好みます。
 バッハから百年が過ぎ、十八世紀と十九世紀を跨いで生きたベートーヴェンの時代になると、世間は音楽にもっと活動性のあるより人間的な表現を求めるようになりました。音楽は変貌を重ねそれに呼応するようにピアノは急速に進化を遂げ音量音域が拡大し、ベートーヴェンはこれを活用して巨大なピアノソナタ群を生み出しました。この古典の時代はソナタの時代であってピアノ作品もピアノソナタが主流でありました。端整な形式に縁取られた音の美しい活動性に重きが置かれていたのです。しかし、その緩徐楽章等は溢れる詩情を有し、個々の人間の人間的な感情を表出しており、後のロマン派のピアノ作品の起爆剤になった事は疑う余地はありません。やがて産業革命が進展すると鋳物の鋳造技術が確立され、木製フレームに代わる鉄骨のフレームが採用されて、鋼鉄弦の強大な張力の保持が可能となりました。またその太く重い弦を打ち鳴らす、より大きく重いハンマーが考案され、それに対応すべくその重いハンマーを支え瞬時に動かす強靭で鋭敏なアクションが作り出されました。因みにこの十九世紀前半はヨーロッパ、アメリカの各ピアノ工房は技術革新に凌ぎを削り、特許の取得合戦を演じていました。その特許の主なものには、ピアノフレームに鉄骨を採用、弦を支え区切るアグラフやカポダストロバーの採用、ハンマートップにフェルトの使用、アクションにはダブルエスケープメント方式に於けるレペテイションレバーの発明等々、様々なピアノ技術革新の精華が咲き誇ったのです。そしてピアノは力強く華麗な響きを発し、フェルトハンマーは絶妙な音色の変幻を醸し出し、進化したアクションは鋭敏で繊細なタッチを獲得し、いよいよピアノは楽器の王者へと上り詰めて行くのです。当時の代表的なピアノ工房には、イギリスのブロードウッド、フランスのエラールやプレイエル(ショパンの愛器)、ウィーンのベーゼンドルファー、ドイツのベヒシュタイン、アメリカニューヨークとドイツハンブルグの親子会社スタンウェイ等が上げられます。この内、現存するのは後者の三社でベーゼンドルファーとベヒシュタイン、そしてスタンウェイは世界の名器と謳われ、今日益々私達の耳を楽しませてくれています。
 さてこのピアノ製作の技術革新の最中、西洋音楽は未曾有の変革期に突入し、形式重視の古典派から人間賛歌のロマン派へ様替わりをしました。ピアノ音楽もピアノ製作の隆盛と呼応するかの様に変貌し、いよいよ類稀な六人の天才が誕生し、綺羅星の如く華麗なピアノ音楽が作られました。それはキャラクターの異なる極めて個性豊かな六人であり、正にかつて無いピアノ音楽の黄金時代を築いたのでした。シューベルトにメンデルスゾーン、ショパンにシューマン、そしてリストにブラームス、の六人が上げられます。シューベルトは歌曲の王と称され、創作の中心は歌曲にありましたが、ピアノ曲にも霊感に満ちた美しいソナタや即興曲があります。メンデルスゾーンは最も富裕な家庭に生まれ何不自由なく育ち、才能にも恵まれていました。ゲバントハウスの指揮者やライプツィヒ音楽院の経営も司り、当時の名士となり多忙を極めました。やがてそれ故体調を崩し、愛する姉の死をきっかけに鬱病に取り付かれ生きる気力を失い、姉の後を追うように卒中(恐らく)で亡くなりました。その作品は美しく伸びやかであり、希代の名旋律家でもあり、作曲技術は極めて優れ堂に入っていました。ただ唯一、苦労知らずであった故に作品に深みが足りないと言う人もいます。無言歌集やロンド、変奏曲等があります。シューマンは音楽に於いては偉大なる素人と言われています。ピアノ演奏にしても作曲技法にしても完全に習得してはいないようです。しかしその創造性は偉大であり、魔力的な創作意欲を持って傑作を連発しました。夢見るような幻想性は比肩する者はなく、極めて魅力的でありショパンと並ぶピアノの詩人です。「パピヨン」「ダヴィド同盟舞曲集」「謝肉祭」「交響練習曲」「子供の情景」「クライスレリアーナ」等があります。リストは当代随一のピアニストであり、その超絶技巧の巨匠主義的演奏は多くの喝采を浴び伝説を生みました。一夜のコンサートで三台のピアノを壊した(主に断線とアクションの損壊でしょう?)と言い伝えられており、パフォーマンスに現を抜かしていたと言えるでしょう。作曲は妻(愛人?)から強く勧められたと言われており、『才能はあったが娯楽の域を出ない』(ブラームス談)と揶揄されています。「メフィストワルツ」「超絶技巧練習曲」「巡礼の年報」等があります。ブラームスは最も貧民の出身でしたが、音楽教育は徹底されて授かっており、プロ意識の強烈な作曲家兼ピアニストでした。ソナタ(形式)と変奏曲の達人でもあり、バロック及び古典復活を願い、職人的精巧無比の作品を作りました。ピアノソナタ三曲、ヘンデルの主題による変奏曲ほか変奏曲は多数あり、ピアノ小品(ラプソディ、カプリッチオ、インテルメッツィオ)等があります。
 ピアノの話と前置きが余りにも長くなりましたが、いよいよ、真打ショパンに掛かります。
 これまで述べてきたピアノの話、そしてその進化、またピアノ音楽の変遷と発展、その全てがショパンと言うポーランド出身の音楽家に収斂されていきます。ショパンは正にピアノの申し子、ピアノとはショパンを産むために生れてきた楽器です。その母なる楽器ピアノを使いショパンは数々の名曲を紡ぎ出し、世界の民に幸福を与えてきました。ソナタ三曲、バラード四曲、スケルツォ四曲、即興曲三曲、幻想即興曲、幻想曲、子守唄、舟歌、二十四の前奏曲、三つの練習曲遺作、練習曲op10とop25の全二十四曲、夜想曲二十一曲、円舞曲二十曲、タランテラ、ボレロ、ポロネーズ約十二曲、マズルカ多数。ビロードの敷物の上に珠玉宝玉を撒き散らしたかのようなこれらのピアノ曲は、しっとりと濡れて光彩を放ち、クリスタルに煌きます。その煌きはショパンの愛そのもので澄み渡っており、ショパンのピアノは正に音楽の宝物なのです。
 ショパンは三十九年の短い生涯に幾度かの恋をしました。一番有名なのは熟女ジョルジュ・サンドとの同棲ですが、その少し前には幼馴染と“うぶ”で純な恋をしています。ショパンが二十五歳の夏の事、チェコのカールスバートでの避暑の帰り道、遠い親戚の二人はドレスデンで再会しました。その人の名はマリア・ヴォジンスカ、九歳年下の十六歳で誰が見ても心時めく美しく成長した幼馴染の娘でした。マリアは芸術を愛しピアノを嗜み、語学にも堪能な才ある素晴らしい乙女でした。二人は直ぐに打ち解けあい、愛し合うようになりました。ショパンはプロポーズをし、マリアは喜んで快諾しました。しかしマリアの父ヴォジンスキー伯爵はショパンの病弱を憂い、二人の結婚には決して承服しませんでした。悲しいかな、二人は泣く泣く別れる事となりました。何ともショパンの意気地のなさには呆れますが、これも優男の為せる術、それがショパンのショパンたる所以なのでしょう、マリアは決してこんなショパンを恨むことはなかったようです。ショパンは別れ際にこのワルツを素早く書き、マリアに捧げました。マリアはこの曲を自ら「別れのワルツ」と名付け大切にし、生涯ショパンの思い出と伴に愛奏したそうです。
posted by 三上和伸 at 21:57| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月17日

ピアノの話3 調律業務について                    

 ピアノの話ー3 調律業務について
 世にピアノは数多あり、様々なシーンに置かれています。調律師の仕事はその諸々の場へ出向き、より美しいピアノの音を作り出すべく努力するものです。その場とはピアノ工場や店頭、ホールにスタジオ、ホテルや社交場、学校やピアニストのお宅、そして一般家庭等々です。その対応はそれぞれ枝葉の部分で異なりますが本筋は同じ内容であり、どの場面でも全く同様の仕事をしています。そして一般の調律師は今述べた場のほとんど全てで仕事をしています。
 では、ピアノ調律の工程と内容を箇条書きにしてみます。
 1 まず、弾き手の方と面談をして不調の有無や要望に耳を傾けます。但し、一般家庭の方々はお任せが多いので、通常通りの私の見計らいの仕事をします。
 2 ピアノの前に座り弾いてみます。また全てのペダルを踏みます。共振に因るビビリ音や雑音、ペダルの軋み音、ダンパー(音止めの装置)の止音の具合も覗います。
 3 外装を外し、弦、調律ピン(廻して弦を伸び縮みさせ、調律する箇所)、鍵盤全体とアクション(打弦機構)、ペダル装置等を露出させ調整操作できるようにします。更に、簡単な清掃も行います。
 4 鍵盤とアクションの遊び(接続部のロス)を埋め、打弦距離を調整します。また、ペダルの遊びも調整します。更にアクションのスプリングの調整にアクションの故障や雑音の有無も調べます。そして更に、ハンマーフェルトの変形の程度を見極めます。悪ければヤスリ掛けして整形します。
 5 いよいよ、調律をします。音叉でピッチ(音楽をする上での標準的な音の高さ)を測り、ピッチから外れていればピッチ変更をします。
その際、必ず下律(予備調律)をしてピッチを定めます。それをしないと、いくらよい調律をしたとしても、一度激しい演奏をされれば、直ぐに狂ってしまうからです。
 6 最後に整音をします。より多く叩かれれば叩かれる程ハンマーフェルトは硬化します。すると音質は劣化しギスギスした音になります。しかも一音一音、その程度はバラバラであり、バランスを欠いた不統一な音の連なりとなってしまうのです。そこで、ハンマーフェルトに針を指します。フェルトの悪い緊張をほぐして行くのです。耳を澄まし、心を澄まして、音質を聞き分けます。そして静かに優しく針を指して行きます。やがてハンマーフェルトの緊張は解き放たれ、ピアノは美しい音色を取り戻します。ピアノ本来のピアノだけが持つピアニスティックな響きを復活させたのです。この作業こそがピアノ調律師の最後の仕事であり、最高の妙味であると私は信じています。                      
 *ピアノ調律料金(出張費等込み)
  アップライトピアノ ¥15000
  グランドピアノ   ¥17000
  コンサートグランド ¥20000
 *修理料金
  部品交換一個につき¥400より(修理基本料、出張費別)
  どの様な修理にも対応します.ご相談下さい。
 
 三上ピアノ調律所
 メールアドレス otonotanoshimi_mikami@yahoo.co.jp
posted by 三上和伸 at 11:30| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月04日

ピアノの話2 発音の仕組み

 ピアノの話−2 発音の仕組みとその分類
 ピアノは鍵盤楽器に分類され、指で鍵盤を打って使われます。しかし音を発するのは弦であり、またその弦を打ち鳴らすのはフェルトハンマーです。そして鍵盤とフェルトハンマーの間にはアクション(打弦機構)が介在し、双方をつなぎ動力を伝達します。即ち鍵盤を叩き、下降した動力はシーソーのように鍵盤の奥で突き上げる力でアクションに伝わり、ハンマーを動かします。そこでハンマーは即座に弦を打ち、弦は振動して音を発するのです。こう述べるとピアノは鍵盤楽器とも、打楽器とも、弦楽器とも言えそうです。ピアノは様々な楽器の機能を持った言わば集合体なのです。しかし開発当初の目的は強弱の表現のより可能な鍵盤楽器を造るためであり、やはりピアノは鍵盤楽器なのです。そしてこの特異な発音の仕組みこそがピアノ隆盛の鍵を握っていたのでした。それは古今のピアノ音楽の素晴らしさ、そして作品の数の多さが雄弁に物語っていると思います。
posted by 三上和伸 at 07:58| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月11日

ピアノの話1 名前の由来と簡単な歴史

 ピアノの話ー1 名前の由来と簡単な歴史
 ピアノは1700年代の初めイタリアのフィレンツェで創り出されました。作者は豪商メディチ家の楽器職人(管理人)バルトロメオ・クリストフォリでした。ところで皆様はピアノの本当の名前をご存知ですか? それはピアノフォルテ(フォルテピアノと言われた時期もあった)と言い発明当時に名付けられました。イタリア語で小さい大きい(弱い強い)の意味があり、今日使われているピアノの名称は、ピアノフォルテが短縮されて小さい意味のピアノだけが残ったものだったのです。ピアノは強弱の余り着かないチェンバロなどに代わる、強弱の着くより表現力の高い鍵盤楽器を目指して開発されたものです。大バッハはこの出来たての楽器を好まなかったそうですが、後のハイドンやモーツァルトそしてベートーヴェンに認められ愛用されてとうとう18世紀の終わり頃にはピアノはチェンバロに取って代り鍵盤楽器の主流となりました。やがて19世紀に入り、産業革命が進むとピアノ本体に鉄骨が使用できるようになり、鋼鉄弦の強大な張力の保持が可能となりました。ピアノは益々進化し力強く華麗な響きを生み、ハンマーフェルトやアクション(打弦機構)、それにペダルの改良も進み、繊細で鋭敏なタッチと華麗にして絶妙の音色を獲得しました。この優れた器は重用され、ロマン派の担い手達は挙って大量の名曲を生み出し、ピアノ音楽の黄金時代を築き上げていったのです。この時期の作曲家にはメンデルスゾーン、ショパン、シューマン、リストにブラームスが上げられます。何れも個性際立つ、類稀なピアノの詩人達です。
posted by 三上和伸 at 09:35| ピアノの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする