ハンガリーの大貴族エステルハージ家から離れたハイドンは、休む間もなく次の目標のイギリスに渡りました。イギリスは音楽後進国、勿論創作の上での後進国で、消費国としてはヨーロッパ随一、何しろあのヘンデルがドイツから帰化して活躍していた国でしたからね。ハイドンの目当てはロンドンの優れたオーケストラ、自分が作った最新最良の交響曲をロンドンの一流オーケストラで試してみたい、そしてロンドン市民を席巻したいと願っていたのでした。更についでに、大絶賛を受け、その見返りに一儲けしようと、企んだのでした。勿論、ハイドン一人の企みでは無く、旧知の知り合いのドイツの音楽興行主・ヨハン・ペーター・ザロモンと言う火付け役がいましたがね。1791年〜1792年と1794年〜1795年の二回に亘るイギリス訪問で完成され初演された交響曲は12曲を数え、これらを「ザロモン交響曲」乃至「ロンドンセット」と呼ばれています。因みに帰国後、ハイドンはウィーンに大豪邸を建て、使用人を雇い、死ぬまで住んだそうです。ロンドンで、巨富を得たのですね。
そのロンドンセットの最後を飾るのがこの104番ニ長調「ロンドン」で、ハイドン生涯の最後の交響曲です。「ロンドン」の名称に特別の意味は無く、ロンドンで作曲された最後の曲だったので、「ロンドンセット」を代表して後世にロンドンの名が冠されました。
交響曲第104番ニ長調「ロンドン」Hob.T:104 Hob.はハイドンの作品をジャンルごとに並べた作品番号、オランダ人研究家アントニー・ヴァン・ホーボーケンが始めたホーボーケン番号。Hob.Tは交響曲。
楽器編成
○フルート 2
○オーボェ 2
○クラリネット2
○ファゴット 2
○ホルン 2
○トランペット2
二管編成
○ティンパニー
○弦楽五部 第一ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス。
1、第一楽章
アダージョ(序奏、ニ短調)ーアレグロ(主部、ニ長調)、4/4拍子(序奏)、2/2拍子(主部)、序奏付きソナタ形式。
ニ短調の壮大な序奏を持ちます。暗く厳かな序奏で聴衆を打ちのめすのも何時もの作戦、直ぐに明るく快活な主要部が現れて、聴衆の聴く気を煽り、前向きに乗せて行きます。これは古典交響曲のセオリー(定石)であり、見え見えの常套手段です。兎に角客席を盛り上げなくてはなりません。これがエンターテインメントの走りの一つですね。
2、第2楽章
アンダンテ、ト長調、2/4拍子、ヴァリエーション。
美しいメロディーが寛いだ雰囲気を醸し出します。変奏部分は転調を多用して、一つのテーマを変化させて、彩を添えていきます。ハイドンは旋律家としても一流でした。
3.第3楽章
メヌエット アレグロ-トリオ、ニ長調-変ロ長調(トリオ)、3/4拍子、複合三部形式。
メヌエット(主メヌエット)の部分はニ長調の三部形式、中間部にトリオ(第2メヌエット、嘗ては三重奏として作曲されたため)が入り、変ロ長調に転調します。再び主メヌエットに戻り、第3楽章を閉じます。比較的武骨なメヌエットであり、ごつごつとした印象が残ります。トリオは主に木管楽器が活躍します。こちらは優雅な間奏曲風です。
4、第4楽章
フィナーレ・スピリトーソ(活き活きと)、ニ長調、2/2拍子、ロンドソナタ形式(ロンド形式にソナタ形式の属調、平行調を用いたもの)。
ハイドン自らが研究したクロアチアの民謡に基づく主題を持っています。兎に角爽快・快活な曲、その推進力は聴衆を興奮の坩堝に誘います。
参考:ウィキペディア交響曲第104番(ハイドン)